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清々しい空 喧しい朝

 目覚ましアラームの音で目を覚ました。カーテンを開けて今日の天気を確かめると、晴れ晴れとしていた。気持ちの良い朝だ。いつもはトースト一枚で済ませてたところを今日は二枚食べようかな。マーガリンとピーナツバターを塗って、パンの耳は切ってフライパンでカリカリにしたのを昼ご飯用にしよう。


 部屋着から制服に着替え、部屋を出ると、廊下でリンと花咲さんがプロレスをしていた。下にいるリンが花咲さんを宙吊りの逆タイプのようにしている。小さい頃、テレビの特番でやってた技だ。確か、何とかスペシャル。技を掛けてるリンと技を掛けられてる花咲さんのどっちが辛いんだろう。   


「……おはよう」


「あ、先輩! おはようございます! 朝ご飯もう準備出来てますよ!」


「あぁ、ありがとう……花咲さんが何かした?」


「何もしてませんよ? 先輩を起こしに行くのを言い訳に部屋に忍び込もうとしただけで! あまつさえ寝てる先輩に悪戯しようとして!! ワンチャン狙ってただけですから!!!」


「滅茶苦茶してんじゃん。ただ未遂なだけだ。それで、花咲さんの言い分は? 別にリンを疑うわけじゃないけど、一応言い訳くらい聞いておこうかなって」


「―――ッ!?」


「痛くて声も出ないか。リン、技解いてあげて」    


 リンは乱暴に花咲さんを吹っ飛ばした。技から解放された花咲さんの手足を震わせる様は、どことなくB級ホラー映画感がある。カプセルから割って出てきた化け物みたいな、急に別の環境に出てきてしまったような感じ。


 朝から俺は何を見せられてるんだろう。


「大丈夫? 朝から災難だったね?」


「ちょ、ちょっと先輩!? どうして花咲先輩を心配するんですか!? 未遂とはいえ、部屋に忍び込もうとしたのは立派な罪です!」


「そりゃそうだけど、じゃあ花咲さん放っておいて俺とお前だけで朝食食べるのか? いくらなんでも可哀想だろ罪人だけど」

 

 まだ痛むのか、俺が手を貸して抱き起そうとすると、花咲さんは俺に体を預けていた。あの技ってそんなに痛いんだ。


「カナタ先輩」


「なんだよ。こんなに痛がってんだからもう許して―――」


 リンが顎で花咲さんを見ろと指していた。見ると、花咲さんは俺の胸に頬擦りをしていた。小賢しい事に、体をフラつかせて悟られないようにしている。


「カナタ先輩の優しさに付け込んでますよね?」


「……だね」


 しがみついてる花咲さんをポイッと投げ捨て、リンと二人で一階に下りていった。後ろから花咲さんが謝罪の言葉を連呼していたが、しばらく無視する事にした。


 テーブルには朝食が用意されていた。自分が寝ている間に朝食が用意されているのは贅沢だ。更に品数も多いときたものだから、贅沢を通り越して有難迷惑の域だ。朝でこんなに食べれるのは大食い選手だけだろ。


「こっちのトーストとハムエッグは僕が作った朝食。それでこっちのやけに気合が入ったのは花咲先輩が作った朝食です」

   

「だ、だって! 居候させてもらってる立場だから、これくらいしないと……」


「やり過ぎです。カナタ先輩は不健康な食生活で胃が小さいんですから、朝は少な目でいいんです」


「じゃあ、今日から良くすればいいんじゃないかな? それにカナタ君は男の子だし、これくらい食べるよ」


「男の子だって食べない人はいますよ。花咲先輩はもっとカナタ先輩に寄り添ってください。いや、寄り添わなくて結構です」


「カナタ君。カナタ君なら食べ切れるよね? 食べてくれる、よね?」


「カナタ先輩。無理して食べなくていいですよ。余ったのは晩ご飯に回しましょう」


 俺は出来るだけ頑張った。食事で頑張るなんて初めてだが、とにかく頑張ってみた。


 三十分後、花咲さんが作ってくれた朝食は半分残して終了した。あと三十分あれば食べ切れるかもしれないが、そうしたら学校に遅刻してしまう。俺は成績が並程度かそれ以下だから、せめて無遅刻でありたい。 


 女性陣の準備が終わるのを玄関で待っていると、先にリンが来た。


「早かったな。女の子の準備って結構掛かるものだと思ってたけど」


「学校に行くだけですし、準備なんて寝癖のチェックだけですよ。まぁ、あの人は違うようですが」


「そういえば、花咲さん制服どうするんだろう?」


「僕のジャージを貸しました。今日体育無いので。今日のところは誤魔化せますが、明日からは何とかしないといけませんね。家に取りに行かせると言っても、難しいでしょう」


「まぁ、家出だからな。誰か仲の良い同性の人に頼むとか?」


「そんな人、あの人にいるんですか?」 


「いると思うぞ。あれでクラスでは人気なんだから」

 

「人気だからといって、仲の良い人がいるとは限りませんよ?」


「そうかな~」


 リンと話しながら待っているが、一向に花咲さんが来る気配が無い。さっき見た感じでは、あとはリンから借りたジャージを着るだけなのに、こんなに時間が掛かるのは不思議だ。


 それから数分後。もう家を出なければいけない時間になり、ようやく花咲さんが玄関にやってきた。


「ごめんなさい! お待たせしました!」


「別にいいけどさ。何を準備してたの? さっき見た感じでは、特に乱れた所とか無かった気がするけど」 


「えっと、その……リンちゃんから借りたジャージ、なんですけど……その、サイズがちょっと……」


 花咲さんは恥ずかしがりながら、自分の胸に手を当てた。自然と花咲さんの胸に視線が向くと、確かに胸の部分が妙にキツそうだ。


「えっと、リンちゃん。ごめん、ね?」


「ぶっ殺します」


「あ、違うの! 今のは煽りとかじゃ―――イタタタッ!?」


 リンの逆鱗に触れた花咲さんがまた関節技を仕掛けられている。携帯で時刻を確かめると午前七時五十分。登校時間は午前八時まで。走れば間に合うが、二人の仲裁をすれば間に合わない。


 今日は人生で初めて遅刻した記念日となった。 

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