↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/149

悩みは尽きない

 家出した花咲さんを家に匿い、監視役としてリンを住まわせる事になった。たった一晩の内に決まった事だ。幸いにも俺の家は無駄に部屋数が多い為、寝る部屋を用意するのは難しくない。


「それじゃあ、花咲さんは一階のその部屋を使って。リンはその隣ね」


「え? 僕はカナタ先輩の部屋で同衾じゃないんですか?」


「同衾って言い方やめなさい。二人がいつまで居るかは分かんないけど、プライベート空間はあった方がいいでしょ」


「なるほど。僕はずっと住んでいたい―――と言いたい所ですが、とりあえず花咲先輩が居る間だけです」


「私は、出来れば、ずっと……」


「そうですか。じゃあ、僕もずっと居ます!」


 午前一時近いってのに心配事で頭が一杯だ。


 花咲家の事情。

 一つ屋根の下で恋人と同居。

 一つ屋根の下で自分に好意がある女性と同居。

 帰ってくる両親への説明。

 花咲さんが居る環境下でのリンとの接し方。

 リンが居る環境下での花咲さんとの接し方。


 心配事を挙げたらキリがない。ただの高校生男児が解決出来る悩みの数々じゃない。今年は正月におみくじを引いていなかったが、引けば大凶だったのだろうか?


「……とりあえず寝よう。明日も学校があるんだ。今後の事は明日学校から帰ってきてからまた話し合おう」


 そうして俺達は解散し、各々の部屋に向かった。


 自分の部屋に着くや否や、ベッドに倒れた。目を閉じて寝ようとしたが、疲労を感じるだけで全く眠れない。明日からの事を考えると頭が一杯になって、何の不安も無く眠れていた日々が恋しく思う。


「先輩。眠れないんですか?」


 リンの声と共に、死角からリンが現れた。扉を開ける音が聞こえなかったので、部屋に入る時に一緒に入ってきたのだろう。いつもだったら驚くところだが、今は驚く気力さえ無い。


「リン。俺どうすればいいんだろう?」


「……そうですね。一番手っ取り早いのは、花咲先輩とキッパリ縁を切る。そうすれば、先輩の悩みのほとんどが無くなります」


「それは分かってるけどさ……」


「家出、と言ってましたよね? でしたら、そう長く滞在する事はないと思うんですけど?」


「……本人の了承無く喋るのは駄目だから内容は言わないけど、ただの家出って訳じゃない事は言っておく」


「まぁ、何処の家族にも何かしらの事情がありますからね。それで? どうして先輩はそこまであの人を気に掛けるんですか? 察するに、ただ放っておけないだけじゃないと思うんですけど」


「……なんか、俺に似てるんだよ。全く同じってわけじゃないんだけどさ」


「そうですか……これ以上深くは聞きません。もう遅いですし、考え事はもうやめて寝てください」


 リンは俺の頭を優しく撫でると、部屋から出ていこうとした。


「戻るの?」


「あら? やっぱり同衾をお望みで?」


「同衾言うな。そうじゃなくて、もっとこう……」


「フフ。さっき先輩が言ったじゃないですか。プライベートな空間は必要だって。それに、恋人と長続きするには、押すだけじゃなく引く事も大事なんです」


「そういうもんなんだな……今日は、本当に悪かった。今日の埋め合わせは必ずするよ」


「はい、楽しみにしてますね! それじゃあ、先輩。おやすみなさい」


「おやすみ、リン」


 リンが部屋から出ていくのを最後まで見送った。話したおかげか、さっきよりも考え事が浮かばなくなって、眠れる気がしてきた。悩みを打ち明けて楽になったというより、リンと二人で話せたからだろう。


 そうして枕元に置いてあるリモコンで明かりを消そうとした矢先、部屋の扉をノックする音が聞こえた。リンがまた来たのだろうか?


 そんな俺の予想は外れ、部屋に入ってきたのは花咲さんだった。


「……勘弁してよ」


 無意識に出た言葉だった。その声はボソリと呟かれた小さな声だったが、どうやら花咲さんの耳に届いていたようだ。花咲さんは悲し気な表情を浮かべ、後ろに振り向いて部屋から出ていこうとした。


 しかし、花咲さんはドアノブを握ったまま出ていこうとしない。結局握っていたドアノブから手を離すと、また俺の方に振り向いた。


「カナタ君。今日は……ううん。いつも、ごめん」


「……別に謝らなくていいよ。というか、リンと鉢合わせにならなかったの?」


「鉢合わせになったっていうか……リンちゃんが行けって、言ったの」


「リンが?」


「うん。今の内に感謝を伝えておけって。それ以上はするなって警告もされた。今も多分、部屋の扉の前に立ってると思う」


「……お互い、年下に気遣われてばっかだな」


「そうだね。リンちゃんは、本当に良い子だよ……それに比べて、私は……」


 その時、扉からノック音が鳴った。どうやら本当にリンは扉の前で待っているようだ。


「もう、行くね。それじゃあ、カナタ君。おやすみなさい」


「……一週間」


「え?」


「一週間までだから。それ以上は、流石に無理だ」


「……ありがとう」


 どこか名残惜しそうな様子で、花咲さんは部屋から出ていった。


 一人になり、部屋の天井を見上げた。恋人と失恋した相手。その二人が同じ家に住む。ただでさえ頭を悩ませる事だが、花咲さんの事情も相まって簡単に解決出来る悩みじゃない。花咲さんを一週間この家に住まわせたとして、何か解決するのだろうか。きっと何も解決しない。花咲さんが家の束縛から解き放たれるまで、解決する事はないだろう。

 

 でも、そうなると今度は花咲さんの想いを拒絶しなければいけない。言葉では拒絶してきたが、心から突き放せてはいない。想いを成就させるつもりが無いのならハッキリ断るべきなのだろうが、それを可哀想と思ってしまう気持ちが邪魔をする。


 これ以上考えるのは止そう。リンには悪いが、明日から相談に乗ってもらって、少しずつ解決の糸口を探っていこう。


 今すぐ解決出来る事じゃないと諦め、手に持ったリモコンで部屋の明かりを消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。