三角関係
午後十一時。花咲さんにシャツとズボンを着させてから、緊急会議が開始された。
「それじゃあ今から、お二人にいくつか質問していきます。嘘はつかず、正直に話してください」
「はい……」
「……なぁ。俺も尋問される側なの?」
「質問は僕がします。勝手に話さないでください。次やったらその女を叩きます」
「……分かった」
「「「…………」」」
パンッ!
リンの平手打ちの音が静寂を切り裂いた。俺達はリンが質問するのを待っていただけなのに、どうして花咲さんが叩かれたのだろう。
「リン。今何で叩い―――」
パンッ!
また花咲さんが叩かれた。これは俺が勝手に口を出した罰。だから、これは納得出来る。
「「「…………」」」
パンッ!
これだよ。俺も花咲さんも何もしてないのに、なんで花咲さんが叩かれた? それで俺が「何で?」と聞けば、リンはまた花咲さんを叩くのだろう。リンは会話で解決しようと俺達を床に座らせたんじゃないのか? それとも拳で語ってるのか?
「「「…………」」」
パンッ!
「リン。一回落ち着こう。このままじゃ何も解決しないから」
「僕は冷静ですよ?」
「本音は?」
「その女を朝まで殴り倒したいです!」
「よーし、正直に言えて偉い偉―――隙ありッ!!」
立ち上がる勢いそのままにリンに抱き着いた。不意に来られた所為でリンは踏ん張る事が出来ず、そのまま俺に押し倒された。しかしそこで終わらず、リンは俺から離れようと暴れだす。そんなリンを鎮めようと俺ももがく。
ゴロゴロと床を転がりながら、尚も床に正座をしたままの花咲さんに声を掛けた。
「今だ花咲さん!」
「え? 私はどうすればいいの?」
「状況見れば分かるでしょ!?」
「……ッ!? う、うん、分かった……!」
花咲さんは立ち上がり、リビングから出て―――いや、そっち台所。
「カナタ君!」
俺の名前を呼びながら花咲さんが台所から戻ってくると、その手には包丁が握られていた。
「何を分かったんだよ!? 逃げるんだよアンタは!」
「え? カナタ君が抑えてる間に、その子を殺すんじゃないの?」
「先輩!? 僕を殺そうとしてるんですか!?」
「違う違う! そうじゃない! 夜中にサスペンス劇場なんかすんな! 普通夕方にやるもんだろ!」
「え? 夕方にやるの?」
「先輩!? 夕方頃に浮気相手と僕を殺すつもりなんですか!?」
「いや、だから―――あー、もういいや! 一回みんな冷静なろう! 俺含めて深夜テンションになってるから!」
その後、拘束を解くか包丁を下ろすかの擦った揉んだの後、三角形を描くように座らせた。その頃には、もう日付が変わっていた。
「はい。じゃあ、ここからは暴力行為は一切禁止。変な勘違いもしない。三人全員が誤魔化す事なく素直に話し合おう。こういう状況になったのは誤解が積み重なった所為だ」
「いや、先輩がこんな時間に女を連れ込んでる所為ですけど?」
「それは……一理ある」
「ち、違うのリンちゃん! 私が偶然カナタ君とコンビニで会って、家出した私を家に入れてもらっただけなの!」
「……いや、だとしたら連れ込んでるって事になりませんか?」
「それは……一理あるね」
冷静になった途端、リンは早々に決着をつけた。浮気は誤解だが、花咲さんを家に入れたのは事実。そこに下心があろうが無かろうが、その行為自体が不純だ。
解決したら解決したで気まずい空気が流れた。リンは俺達を軽蔑し、俺は頭を抱え、花咲さんはリンの顔色をうかがっている。一時間前の状態に逆戻り。違うのは、リンが暴力を振るう素振りが無い事。
「……ハァ。やっぱり、カナタ先輩が度々言っていた女の子は花咲先輩だったんですね」
「やっぱりって、リンは気付いてたのか? いつから?」
「三人で初めてお昼を一緒に食べた時からです」
三人で初めてお昼を食べた時。それは初めてリンが花咲さんと会った時だ。その頃から既に花咲さんの気持ちに気付いていたのか。やはり同性には分かるものなんだな。
「よく気付いたね。俺は全然だったのに」
「まぁ、先輩は鈍いですからね。今まで僕を男の子だと勘違いしてましたし」
「その節は申し訳ない」
「今の状況も大分失礼ですけどね? まったく! あんなに好き好き言ってくれたのに、平気で他の女の子を家にあげるなんて。しかもその子は先輩に好意があり、先輩はその好意に気付いている。普通は恋人がいるから遠慮するものですよ?」
「最初は俺も断ってたけど、事情を聞いて放っておけなくなって……」
「言い訳結構―――と言いたいところですが、先輩に下心が無い事は分かってます。純粋な善意で花咲先輩を家に入れたんですよね?」
俺が頷くと、リンは困ったような微笑みを浮かべた。
「……悪かった。ごめん」
「まぁ、どうせ今後もこういう事がありそうですし、今の内に体験出来た事を良しとしましょう」
「今後も確定なの?」
「確定です。だから、僕はそれを受け入れて慣れる事にしました」
「慣れる? 慣れるって?」
すると、リンはリビングから出ていき、大きなキャリーケースを手に再び戻ってきた。
「先輩。不束者ですが、しばらくよろしくお願いいたしますね」




