掃討戦
連合人間軍10万対魔王軍20万は質量の暴力により人間軍を2日もかからずに敗走に追い込んでいた。
初日こそ、人間軍本営 参謀テレグラフの策がはまり、魔王軍の補給線を狙われて被害が出ていたが敵の数は少なく、すぐに倒し切った。
2日目に入りアレクザウラーが本格的に動き出したおかげで勝利の報告が各陣営から途切れることなくきているが、その策略を考えた魔王軍実行部隊トップ アレクザウラー司令官は敗走する人間群を見ながら頭を悩ませていた。
「このまま。人間軍の領土を掻っ攫ったところで何にも残らなねぇんだよな、」
地図を見ながらこの地の利用を考えぶつぶつ言っていたアレクザウラーに声がかけられる。
「アレクザウラー司令官。人間軍の背中を追いかけましょうか?」
「……この本陣が見えなくなるまでは追っかけろとガブリ将軍に伝え、将軍の兵5千を送れ、くれぐれも無駄に背中を叩くな、少し隙間を開けながら追いかけろ」
「は!」
邪魔するなと言った感じで吐き捨て。必要最低限の部隊だけ送った。
「厄介だ、血にまみれて育った食べものなど誰が好きの好んで食べる……」
指示を送った後もこの土地の価値について考えているアレクザウラー司令官。
すでにこの土地は万を超える死人の血を吸い込み、血の水溜りが出来ている。もう1週間も経てば死人たちの遺体は腐り強烈な悪臭を放ってくる。そうすれば後処理だからの話ではなくなる。疫病の蔓延、死肉を食べる大型の鳥、野犬、遺体の防具やら武器を盗む盗賊。それだけならまだマシだが……
最悪、アンデットの発生に繋がる恐れもある。
ちゃんと管理されたアンデットであれば魔王軍の傘下に加えることも考えられるが、この戦場のアンデットの場合は後悔やら嫉妬、罪悪感に飲まれ、たとえアンデットとなり、第二の生を受けても、我を失っていると推測される。もし傘下に加えるなら寿命で満足して死んだ行ったアンデットの方がまだ理性がしっかりとしている為、加えやすいのである。
一般的には憎悪や憎しみが大きければ大きいほど凶悪なアンデットが生まれるとされているが制御困難な怪物が生まれる。
「血の水溜まりか、赤は好きだが血は好きじゃないな」
「はい……えっ?魔王さま?また妹君に責任押し付けてきたのですか?」
誰かの肯定に疲れ切っていたアレクザウラーはつい答えてしまう。その声の主に気づき、ばっ!だと顔を上げると魔王様が戦場を見ていた。
「魔王軍は人間の尻を追いかけるがそんなに好きだだととはな、魔王軍を100年率いてきた私でさえ知らぬ事実だったなあははは」
「話を変えないで頂きたい魔王様」
アレクザウラーの悩み疲れ切った時にこんな呑気な魔王がきてしまった現場士気に関わる。
「すまんすまん、目の前の光景を見るとそう思っただけじゃ」
「いつから老人キャラに?それとも寿命ですか?」
「ガブリに伝令を送れ、追っかけなくていいと、俺が殲滅すると伝えとけ」
魔王は俺が司令官だと言いたげにアレクザウラーの部下たちに指示を出すが部下たちは困惑し立ちすくむ。
「魔王様勝手な指示はやめてください。指示系統がメチャクチャになります」
「さて、今まで敵対するとこもなく友好にやっていたバグラムが何故、今になって動き出したのか……」
なんでこの人は毎回毎回人の話を聞かないと声を大にして怒鳴りたい気分だが、こんな魔王様でも魔王である実力は最強、アレクザウラーなど手も使わずに殺せるであろう。だが何故かこの2人の会話を聞いているとそう言った気配なく戯れているように感じる。
「人間どもの策略では?」
「というと、」
このまま文句言っても埒が開かない事を知っているアレクザウラーは先に話を進めようと画策する。
「このまま魔王軍に肩入れする気なら人間たちの経済圏から追い出すとか魔王軍の犬だとか脅され、人間側に寝返ってた、いや、そうせざるおえなかった。そもそもの話バグラム領主と我々の関係は友好と言うよりも黙認ですからね、別に攻め込む理由もなく、放置していたらいつのまにか人間たちに我々と友好関係だと誤った認識をされていた。と言うところが今の現状だと思いますが。」
その答えに魔王はうんうんと頷くが笑っている。
「その認識で合ってる。だか友好関係では合った。表には全く出していないが、たまにバグラム領主と酒飲んだりしてるしな」
「魔王様、何してるんですか」
突然の告白にアレクザウラーは目をひん剥く。
「うそだろ……」
「だからこそ、なぜ人間軍についているのか、測りかねている。我々では人間軍を倒せないと思ったのか、人質でも取られているのか……はたまた」
「こんな自堕落魔王では我が国は滅亡すると思われたのでは」
「滅亡する?何を言う。滅亡させるの間違いだ」
何故そんなに自信満々なのかわからないが負ける気はないようだ。
「魔王様話を戻します。私の考えとしてはこのグラム平原は要りません。魔王軍の財政を逼迫させる金食い虫となる可能性が非常に高いです」
「何故」
「まず。この大地は血を吸い過ぎました。血を吸った大地で育った食べ物を食べたいと思う人間がいますか?。
二つ目、この1万を超える死体をどう処理しますか、ただ単に埋めて焼いて埋め戻して終わりは時間と労力がかかり過ぎます。その間に疫病の蔓延に繋がる恐れもがあります。
3つ目、放置するのであればアンデットの発生につながります。野盗も現れここら一体の治安は最悪になるでしょう。生き残った人間達にも被害が出ます。」
「わかった。俺がどうにかしよう」
「ええ、無理ですね」
「はあ?」
「おっ、初めて答えてくれましたね」
「無理ってなんだよ」
「どうせまともな考えなど持ち合わせてないのでしょう」
「すべて焼き払えばいいだけの話だろ、どのみち、全遺体を持って帰ることはできない。」
どうにかして話を繋げた、アレクザウラーだが結局この問題に辿りついたしまった。
「しかし魔王様ーー」
「わかってる。皆、家族がいる。人間共も魔王軍にもな。
だからあれを使う、」
「あれ、とは」
「魔王軍、人間軍共々全員必ず持ってるあるものがある。なんだと思う?」
「目、ですが」
首を振る
「耳、ですか?」
首を振る
「はぁ、ドッグダグですね」
「わかってるなら最初から答えろ」
「そうですね、で魔王様何をする気で?」
「俺の力を使えば全員のドッグダグを回収することができる。まぁ最初っから持ってないやつは知らんがな、回収した後、遺体を全て焼き尽くす」
「では敗走している人間軍2万程度はどのように?」
「俺が少し遊んでやる。うまくいけば全滅するだろう。」
「無駄に死人を増やしてどうするのですか?」
「わかった。ここからあいつらの殿に1発放つだけだそれならいいだろ。」
「わかりました。では今やってください。」
「おぉ、珍しいな、じゃあ少し遊んでやるか」
魔王は飛び上がり上空20mほど付近で止まると魔王の周囲360°に赤と黒の魔法陣が何重にも展開され、その全てに魔力を流し込み終わると魔法陣は銀色に輝き、手を上げ詠唱を始める。
「槍の如く、速く、最短で、敵殿を貫け」
魔王の詠唱が終わり、上げた手を敵殿に向け降ろすと多数の極大の赤い槍が敵殿に向け高速で飛んでいく。
槍は最速で敵殿に着弾し人間軍兵の声などは聞こえないが赤い土埃が舞い上がる。それが敵殿の全滅の目印であった。
「やり過ぎでは?」
「家族を失った子供がいたとしよう」
「なんの話ですか?」
「その子は親が殺されるのを妹と一緒に息を殺しながら見ていた。
まず父が四肢を切断され、ひどい断末魔をあげていた、人間軍の奴らはそれを見ながら『もっと踊れ』と笑っていた。
出血多量ですぐに動けなくなった父は人間共に笑いながら首を切られ死んだ。
母は『魔族じゃなければ犯してやったのに』と笑い、服を裂き、母を裸にして死なない程度に身体中を切り裂いて行った。母の白い肌はすぐに赤く染まった………。」
「その後のことは覚えてない。人間共が家から出て行って何時間たったのか。妹はいつの間にか俺の隣でぐっすりと寝ていたよ、俺は静かに母が大切にしていた指輪を母の遺体から抜き取り。妹の指に付けて、妹が起きる前に両親の遺体を燃やして、壺に納めた。言葉にすれば1分もせずに終わる話だから俺達、いや、俺にとっては何時間何日、の話だ。あいつはあの時のことは覚えてないと思うがな、だが女性は物覚えがいいとも聞く、もしかしたら覚えてるかもしれない。」
「その後、人間達の勇者と名乗る奴が俺たちを魔王城にまで連れて行ってくれた。」
「勇者ですか?」
「そうだ。勇者に助けられた。」
「その当時の魔王って先代魔王?」
「そうだ。勇者と魔王はよくお茶会をする仲だったそうだ、でその席に俺も妹と共に連れられ、先代魔王様の元で働いていた。そして今じゃ今代の魔王となった。人間に恨みがあるかと問われれば是と答えるが人間全員に恨みがあるかと問われれば否と答えるだろ。
あの時の勇者が俺たち兄弟を救ってくれなければ俺たちは死んでいた。
たとえ死んでいなくても憎しみを憎悪を膨れ上がらせ、関係のない子供や女を巻き込んでいたと思う。
だから俺は罪のない子供、女には手を出さないと誓った。俺が殺すのは罪がある兵士だけだ。そしてこのグラム平原に住んでいる民達は巻き込まれた被害者だ。だから俺はこの血にまみれた地を人間から奪い俺の名で統治する。
アレクザウラー。全軍に伝えろ、この地の民に1人たちとも傷をつけるな!もし傷付けたのならば俺がそいつの命を刈り取る。」
握られた拳は解かれることはない。
「は!魔王様!……伝令!このことを全て将軍!一般兵問わず伝えろ!」
この場に残っていた全ての伝令と一部の幹部たちが急いで各自の馬や魔法で去っていった。
「魔王様の過去はわかりました。では遺体はどのように処理をしましょう」
「ちょっと離れろ、」
「はい?」
アレクザウラーはこの後何が起こるのか解らないうちに5歩ほど後ろに下がると魔王の掌から金属片がゾロゾロ溢れ出し地面に転がっていく。そのうちの一枚をアレクザウラーが拾い上げると目を見開く。
「これは我が軍。いや人間軍も含めた全員のドッグダグ?」
驚いているアレクザウラーをよそに魔王は自分の力を誇示する。
「魔王の力を使えばこのぐらい容易い。」
「わあキラキラ」
「妹君!何故こちらに?」
突如として出現した金髪の美少女。その子は魔王の妹ラキナであった。
ラキナはアレクザウラーに目もくれず一目散に兄、ラクヤに抱き、ラクヤは抱きついてきたラキナの頭頂部を手のひらでよしよしとさする。
「おぉ、ラキナ?、お前城で待ってろとあれほど言っておいたであろう、何故こんな戦地ど真ん中に来た?」
「お兄様〜私も遊んでいいでしょ?」
「ラキナ、戦場へ遊びにくるなとあれほど言ったであろう」
「だって面白そうなんだもん」
「面白そうって……」
兄妹のじゃれあいのような雰囲気がひしひしと伝わってくるが、よくよく考えるとその内容は兄妹ではあり得ない普通とかなりかけ離れた物騒な会話である。
「お前ら兄妹!人の話を聞け!」
司令官として直属の上司である魔王にこんな態度を取ったら普通であれば殺されると思うが、この3人よく悪巧み仲間として先大魔王時代から軍部で知らない奴はいないほど知られていた。
その悪事も多数。
先代魔王の椅子に接着剤を貼り付け、魔王賞を半壊させるほど激昂させたり
当時の魔王四天王ケイザンに魔王の命令だと嘘をつき関係のない戦地に出陣させたり
散々な事をしていた。
それで黙ってる魔王ではない。ちゃんと3人にはお仕置きはしていた。
主犯のラクヤを戦地送りにし
共犯のアレクザウラーを軍師学校に編入させ監禁
巻き添えを食うことが多かったラキナは女子ということもあり、ひどい目には遭ってなかったが魔王城の壁掃除を3人でやらされていた。
壁掃除といっても城自体が街レベルの大きさの魔王城を掃除するのは1月はかかる。子供だということを考慮するならばもっとかかるかもしれない。
それにちゃんとケイザンの監視を付け、見張っていた。
「アレクザウラー司令官うるさいぞ」
「魔王様お言葉ですがここでの指揮権は私に一任されています。必要とあれば魔王様も私の手駒の一つとして使わせてもらいます」
「おう、どうすればいい?」
「全ては魔王様の責任として敵軍に1発撃ち込んでください。」
待ってましたとばかりに魔王は飛び上がり約20mまで飛翔し魔法陣を展開させ、珍しく詠唱する。
「高速で最高出力、敵軍の尻に正確に向かえ!」
魔力を満タンにまで補充した魔法陣は黒色に光、白く変色し巨大な槍が残党の尻に高速で飛び去り血煙上がる。
こうして人間軍10万はほぼ全滅した。生き残ったのは僅かな兵達は自国に命からがら逃げ帰り、魔王の恐怖を吹聴し本格的に魔王軍対人間の戦争が起きる事を予感させた。
「ラキナ、人間の国に遊びに行くか、変化魔法覚えてるな?」
「はい。お兄様。」
魔王は妹の小さい手を握り飛び上がり、去って行った。
「魔王様ッ!!!」




