第四ピリオド:開始
転送を終えると、第3ピリオドと変わらずクランのメンバーがいた。肝心のたっくーはというと、やはりいなかった。
「錆さん、たっくーはどこにいるか知ってますか。」
情報がなかったのでとりあえず寂れた錆さんに聞いてみた。
「そういや伝えてなかったね。彼は今旅人たちと一緒にいるよ。」
「なんでですか。裏切りっすか。」
寂れた錆さんが苦笑いした。
「それは違うと思うよ。クラン復帰がイベント参加申し込み後だったから、うまく処理されずに最初の転送のときに近くにいたのが旅団のクランメンバーだったから、旅団のプレイヤーだとカウントされているみたいだ。まあ、飽くまでも推測だから実際のところは何とも言えないんだけど。一応僕と旅人とたっくーからそれぞれ運営に報告はしてるから間に合わないとは思うけど、ほおっておいてもいいと思うよ。今のところは所属が異なる以外で問題は起こっていないし。」
とりあえずたっくーの紛れ込んだクランが同盟のクランだから大丈夫であること。
俺にそのことを教えてくれなかったことについては、
「いやあ、第2ラウンドは他の事やっていたじゃん。」
「第3ラウンドはどうなんですか。」
「…、ごめん忘れていたよ。」
まあ、そんなことだろうとは思っていたが。
「報連相はしっかりしましょうよ、一応社会人でしょうに。」
「自営業だけどね。ははは。」
はははって、まあいいか。そこまでこっちに被害は出ていないのだから。
「で、これからはどうするんだい。」
「そうですね、暇なんでPKしてきますわ。」
「さらっととんでもないことを言うね。」
「クラン対抗イベントではノーリスクでPKし放題ですからね。さっきのピリオドでもPKerに何回か襲撃されましたし。」
俺の話に寂れた錆さんは肩を竦めながら、
「まあ、好きにしなよ。よかったら僕も付き合うよ。」
「あ、いいですね。久しぶりにタッグを組みますか。」
数分後対人用に装備を切り替えて、索敵を行うとするとチャットにメールが届いた。運営からの全プレイヤーに向けたお知らせであった。
内容は10分後に公式からのビデオメッセージで追加ルールの説明があると。そして発表後10分後にこのイベントに実装すると。
俺と寂れた錆さんは出鼻をくじかれてしまった。
「どうしますか。」
「取り合えずクランメンバーを集めておこうか。本格的にクラン対抗戦になった時のために、旅人とニャーサーのクランとも合流しておきたいんだけどね。」
「でも、彼らも今回のイベントでは普通に僕たちに勝負を仕掛けてくるのでは。同盟組むときの規約で僕たちもそれも認めていましたし。」
寂れた錆さんは頭を掻きながら、
「まあこれも推測なんだけどね、あの2人はその選択をしないんじゃないかな。」
「なんでですか。」
腰に即使用可能なアイテムをセットしながら寂れた錆さんに疑問をぶつけた。
「あの2人も対人戦を楽しんでいるタイプなんだけど、僕たちよりも結構リスクとリターンを考えるタイプだから、今回のイベント報酬を考えると少なくとも僕たちに挑んでくることはないと思うよ。」
「そんなもんですか。」
「そんなものだよ。この僕でも今回のイベント報酬にかなりの旨みを感じているからね。」
「うーん、どうしようかなあ。」
寂れた錆さんの言葉でPKを行うか迷った。その様子を観て寂れた錆さんは、
「君の好きなようにやればいいさ。いつも言いているだろう、選択肢は飽くまでも目的だからいくらでもあっていいと、だけど結果というたった一つの目標を曲げてはいけないと。」
「言いたいことは分かりますが、それって結構難しくありませんか。」
「そうだよ。」
寂れた錆さんはあっけからんと言った。
「だから常に考えてないといけない。目標と目的が入れ替わってしまわないようにするためにも。」
「は、はあ。それって今の俺のビルドに対しても言っているんですか。」
「それもあるよ。」
俺に目線を向けて微笑みながら彼は答えた。
「と言っても、選択肢を増やしすぎて思考停止に陥ってしまったら本末転倒だから、いざとなった時にいつでも行える選択肢を用意しておくことも大切なんじゃないかな。」
「大変、というかぶっちゃけ面倒くさいですね。」
「ははは、まあ最初はね。僕もやり続けて少しずつ慣れていったからね。」
「そうなんですね。僕もとりあえず頑張ってみます。」
「そうか。期待とはまた違うけど、楽しみにしておくよ。」
そう言うと寂れた錆さんは伸びをした。
「話はそれたけど、ひとまずあの2人のクランも今回も協力してくれると思うよ。流石に僕たち含めて3クランしか残らなかった時の保証は出来ないけど。」
「そこまで甘くはないでしょう。」
「だね。」
互いに笑った。
そうしている内に他の3人も集まってきた。その数分後、空中にモニターが映し出され、運営からのメッセージが再生された。
数十分前。
イベント内の新ルールの追加間に合わせるためにコントロールルームは喧騒に包まれていた。
「蛇、システムの動作はどうだ。」
「順調だ。撃破ポイントの計算に補正もシミュレーションを行ったけど問題なしだ。それよりもポイント補正の公平性はどうなんだモグラ。」
「デバックチームに、イベント考案班総動員で検証済みだ。これで文句言うプレイヤーが居たらそいつは潜りだ。このゲームを理解していないバカだ。」
「えげつないこと言うなモグラ。もうすぐ第三ピリオドが終了するから。終了と同時に参加プレイヤーに向けて、メールを送るぞ。」
「ルール説明はどうするんだ鷹。」
「モグラにビデオメッセージを取らせてそれを放送する。原稿は、大丈夫か。モグラ、ルールを読みながらだけどアドリブ頼むぞ。」
「合点承知の介。」
慌ただしく、そして滞りなく第四ピリオドに向けた準備は行われていった。
第四ピリオド開始から10分が経過した。この10分で俺たち5人は一応出来るだけ周りにトラップを仕掛けた。3人の罠の材料のほとんどは第二ピリオドで消費してしまったので。俺と寂れた錆さんが呼びに持ってきていた材料で間に合わせた。と言っても、時間も材料も足りなかったので、かなり簡易的なものになってしまったが。
「これ絶対突破されますよね。」
夜・ウィッチは仕掛け終わったばかりの罠地帯を見て呟いた。
「まあ、あり合わせだしねえ。精々奴らからの奇襲を防げればいいんじゃないかあ。」
「まだどんなプレイヤーが敵になるか分かりませんけどね。」
「最悪全員が敵になるじゃないかい。」
ドールメーカーさんは笑えない冗談を言った。
「まあひとまずう、私の方でもできることをしておくよお。なあに、罠の材料だけしか持ってこなかったわけではないからねえ。」
そう言いながらドールメーカーさんはストレージから彼女の武器とも呼べるものを取り出した。
「操り人形ですか。」
「そうそう。昨日からあまり改良は加えられなかったけどお、まああのレベルのプレイヤーは君たちが相手してくれるでしょう。」
あのレベルとは昨日の傭兵のことだろう。俺の知っている範囲でしかないが、あのレベルのプレイヤーは対人勢では結構いるが、今回のようなクラン対抗戦に出てくるようなプレイヤーでそのレベルの奴はそもそもリスクを考えて仕掛けてこないだろう。
「今回は参加条件がかなり引き下げられたから、対人のプレイヤーも結構いると思うよ。」
人の心を読んだような発言をしたのは寂れた錆さんだった。
「そ、そうですかね。対人勢ってほとんどがPK行っているから罪値が重なってこのイベントに参加できていないと思うんですけど。」
寂れた錆さんは手を顎に当てて何か考え込んだ。
「どうかしましたか。」
「いや、根拠のない仮説だから気にしなくていいよ。」
「そうですか。」
この人が明言をしないときは本当に確証が無い時だから無闇に聞かないようにしている。
「対人が強くてもお、個人主義の奴らは第一ピリオドの奴らの襲撃で大体死んでいるんじゃないかあい。」
ドールメーカーさんの言っていることは恐らく当たっているとは思うが、
「その例外に存在する変態たちが生き残っているんですよ。特にあの会議の連中とか。」
「あ~。」
彼女は納得した顔をした。
「それでえ、呼ぶのかあい?」
「いえ、まだ呼びません。」
俺はあえてこの言い方をした。
「それはまたあ、なんでえ。」
「次の新ルールがどのような内容になるかがわからないことと、僕があの会議メンバーに対して絶対招集権は1回しか使えないからです。情報が確定していないのにあれを使うのはもったいない。そう考えています。」
「そんなものなのかあい。」
ドールメーカーさんはこの特権の価値をあまり理解してないようである。
「彼らは対モンスター戦ならともかく、対人戦においては結構強いですよ。」
「どれくらいかあい?」
「防御と逃げに徹すれば、寂れた錆さんでも倒し切るのは一苦労しますよ。」
「へえ。」
ドールメーカーさんは面白そうに頷き、寂れた錆さんはこちらを一瞥した後、再び思考を始めた。残り2人は装備の確認をしていた。
「まあ、とりあえず出来るだけの準備をして、数分後に備えようじゃないかあ。」
「そうですね。」
思うところはあるものの、僕も戦闘用アイテムの点検を始めた。




