第六回イベント:開幕
寝つきが悪いです。
ワープによって拠点に移動すると、クランのメンバーの全員がそろっていた。
「来たわね。」
拠点には簡易的な机と椅子など、作戦を話し合うための場が設けられていた。そこで、各々戦闘の準備をしていた。その中で真っ先に夜が声をかけてきた。
「おう。珍しいな、2人が準備を終えていなかったなんて。」
「今日の昼までテストだったんですけど。」
「どっかの誰かさんも一緒ん受けていたはずなんですけど。」
「すみませんでした!」
思わずスライディング土下座を決めるのであった。
「「はあ。」」
「まあまあ、今からイベント始まるけど、どう動くんだい?今回のイベントは素材が不足しているプレイヤーに向けての救済措置的なものだし、僕らが積極的の動くメリットはないけど。」
「私はここに付近に侵入者用の罠を仕掛けておくさあ。」
「俺も地雷設置してきます。」
「私も。」
俺以外の意見を一通り聞き終え、俺の予定を話そうとすると、樹木の裏から声が聞こえた。
「自分、リハビリかねて繰り出してきますわ。」
何やら聞き覚えのある声だった。
「そうかい、六時間後に何か情報があったら教えてくれ。無理はしなくていいからね。」
「はい。」
錆さんと会話しているのは、俺の兄であった。プレイヤーネームはタック―。
「何やってんの。」
「聞いてなかったのか。俺今日からこのクランに復帰するから。」
「すまないね。スカイ君。まだテスト期間中だっただろ。昨日のことがあったし、あんまり余計な情報を与え、言わない方がいいかなって思って。」
どうやら錆さんが気を使ってくれていたらしい。
「それとな、お前がユニークの武器を手に入れたことも聞いたから。」
「錆さん!?」
錆さんの方を見ると申し訳なさそうにしていた。
「ま、一応同じクランのメンバーだし、報連相をね。」
「僕はされてないんですけど。」
「あ、ごめん。さっきはあいつらと盛り上がっちゃって言い忘れてたよ。」
「はあ。」
俺も悪ノリに付き合っていた側なので、あまり文句は言えなかった。
「で、どうするんだよスカイ。」
タック―が聞いてきた。
「どうするって、何を。」
「その武器だよ。今回のイベントで使うのか。」
「まだその判断の段階じゃないよ。性能を確かめてもないんだから。それに使うにしても、恐らく最後の四時間にならないと使わないと思うよ。今すぐに使ったら余計な目撃者を増やしそうだし。」
「そうか。」
そう言うとタック―は歩き始めた。
「そっちこそどう動くつもりなの。」
「うーん、適当だな。正直思ったよりも早く素材は集めれたし、今回のイベントのうまみはあまり感じないかな。」
「そうなん。」
「うん。だから適当にぶらついて、敵が来たら倒しておくよ。」
「あいよ。」
そうしてタック―は森の中に消えていった。
「でえ、君はその得物の検証をするのだろう。何か手伝おうか。」
「いえ、大丈夫です。自分の他の武器と打ち合わせて、耐久や威力を確かめるだけですから。」
ドールメーカーさんは首をかしげた。
「おやあ、透過の検証は行わないのかい?」
「あー、あのですねえ、錆さんたちと会う前に一回軽い気持ちで試したらですね、」
「うん。」
「処理落ちしたんですよ。」
「ん、なんだって。」
ドールメーカーさんが目を見開いた。
「透過を発動した瞬間に、視界が暗くなって、強制的にログアウトさせられたんですよ。端末外したらファンがすごい勢いで回っていましたし。」
「マジかい?」
「マジっす。」
数秒後ドールメーカーさんは爆笑した。
「ヒィヒィ、え、じゃああれかい。ゲームのシステムに干渉できるすごい武器を手に入れたかと思ったら、ゲーム外の要素で使えないのかあ。はええ、スカイ君の端末は何を使っているのかい。」
「えーと、ですね一世代前のミドルですね。カラクションから出ている純正品の未使用の物を買いましたけど。」
「うーん、という事は少なくとも最新機種か、ハイエンドの機種でないとその武器は使えないのか。」
分析モードに入っているせいか、いつもの口調が崩れているドールメーカーさんであった。
「なあ錆、お前確か家庭用の一番いいやつ持ってたよなあ。」
「ああ、仕事との兼用だからね。仕事中にラグが起こらないように性能は出来るだけ高いやつにしているよ。これ以上性能を高くしようとすると、業務用に手を出さないといけなくなるからね。」
少しマジな顔で話す錆さんであった。
「うん、わかったわかった。まだ純粋な子供たちを君の嵌っている沼に引きずり込まない。」
ドールメーカーさんが崩れた口調が元に戻るくらいには、錆さんの語りは凄まじかった。
「なるほどう、とりあえず今のスカイ君にはそれは使えないという事かあ。」
「はい。」
口調はすぐに戻していた。
「それじゃあ、端末の性能がいい錆が使ってみたらどうだい?」
「それがですね、これ他プレイヤーに譲渡出来ないんですよ。」
「ふむふむ、そう来たかあ。他にはどうだい?例えばあ、盗賊系のスキルを使って盗まれるか、PKによるアイテム奪取は出来るのかなどなど。」
そういえばこの人も錆さんに負けないくらいの検証廃人だった。
「とりあえず耐久値や、火力を確かめてみます。何だかこいつこのゲームの情報みたいに自分たちで検証していかないと、ステータス欄が埋まらないみたいなんですよ。」
「それは楽しくなりそうだね。」
ドールメーカーさんの目が得物を狙う猛獣のようであった。
「ひとまず一人でやってみます。何かあれば、呼びますので。」
「あいよー。じゃあ2人とも、行こうか。」
「ええ。」
「分かりました。」
話が終わるとドールメーカーさんは二人を連れて罠地帯、もとい地獄という言葉すら生ぬるい世界を創りに行った。
残ったのは俺と錆さんだった。
「僕はあの樹を登ってくるよ。」
そう言って彼が指さす方には、恐らくこの熱帯林エリアで最も大きい樹木があった。
「絶対に余計な戦闘が起きますよ。」
「いやあ、このゲームであの大きさの樹を見るのは初めてだからさ、ぜひそこからの景色を見ておきたいんだよ。クラン対抗のイベント中の撮影は禁止されているだろう。もしかしたら、考察の材料も手に入るかもしれないし。」
言葉を紡ぐ男の目は未知の場所へ行こうとする少年のそれであった。
「止めませんけど、死なないでくださいよ。」
「もちろんさ。一応、このクランの長なんだから。僕は。」
体言止めで会話を終わらせたリーダーは装備していたこのクランのオリジナル装備を外すと、上半身は白タンクトップで下半身は黒で少し細めのカーゴパンツを着用した。足も黒色の革のブーツから、茶色の布のブーツに変えていた。
「錆さん好きですよね、ラン…」
「スカイ君、コ〇ンドーと言ってくれ。」
「ハイハイ。」
「それじゃあ行ってくるよ。」
そう言うとB級アクション映画に出てきそうなへシンな格好をした大人は、ハイテンションで駆け出して行った。
「あの格好でははしゃぐなよ。イメージ崩れるだろうに。」
俺はリーダーのテンションに呆れつつ、使っていなかった武器を取り出して、得物の検証を始めた。
ドールメーカー、夜・ウィッチ、ハンドインデッドの三人が組んで作った罠の難易度は、スレッドが立てられて、まじめに対策会議が行われるくらいには有名です。スレ主は三人をあおって怒らせたスカイボーダーであった。
寂れた錆は、普段のチームプレイではスカイボーダーと交代で避けタンク兼火力役をこなしていますが、ソロプレイの時はバリバリのインファイターになります。
タック―
メインジョブ:狩人
サブジョブ:罠師、開拓者




