それぞれの出発09 ☆画像あり
それまでの遠足気分みたいな陽気なハイテンションは完全に立ち消えた。全員が無言で、打ちのめされたようにショックを引きずっていた。メンバーにとって実戦における初の敗北。その事実は想像以上にみんなの心に突き刺さったようだ。一通りみんなに怪我がない事を確認すると、ミトさんは再びスタンプ先生に指示を出し再出発の準備を行った。
収束魔法時を行う際のスタンプ先生の呼びかけにも誰も応じず、立ち上がる気力もなく、うな垂れて座り込んでしまっている。それでも集束魔法を使い、みんなを膜の中に集合させ移動魔法に移行した。淡々と出発の準備をするその姿は、項垂れている生徒を気遣いたい部分を押し殺しているようにも見えた。
どのくらいの時間を移動していたのかすらわかっていないだろう。もっと言えば、なんでココにいるのかさえわからなくなっていた。それほど冷静さを忘れ、もう高速移動中においての流れる景色を見る余裕などなかった。
『戦う』という事は、戦う場所によって、戦う状況によって、臨機応変が求められる。それに対抗するにはいわゆる事前の『練習』では、いくら回数をこなしたとしても物足りない。所詮、練習は『本番』ではないからだ。つまりある程度の基礎を積んだら、後は『実践の場数』で養って行くしかない。そしてその場数はラストリンカーには絶対的に足りない部分であった。
例えば、経験者からの『先人の知恵』的な指導方法は、若い世代にいくら口で伝えても理解しにくい部分がある。だからミトさんとスタンプ先生は意図的にワイルドモンス【少数の凶悪モンスター】との交戦を仕組んだのだ。(正確には移動中において潜んでいる敵を探し当てた)
実は、これまでラストリンカーが経験してきた戦いは、常に『保険』がついていた。それも100%担保が確約されたものだった。
ラストリンカーの初戦。これはあらかじめ入念な準備をした対野盗集団からの防衛戦。二戦目の相手は先輩リンカーからの強要による口喧嘩。もちろん実力がなければ勝てないが、実は見えない部分で、どちらも護衛軍が監視に目を光らせていた。野盗からの防衛戦は勿論の事、学び舎にきた先輩リンカー達の件は、すでに守衛が先輩リンカーたちの施設内許可した時点で護衛班に連絡を通達、即待機させていたのだ。つまり、アギト達を含むラストリンカーだけが知らなくて、いわゆる『大人』は全部お見通しだったことになる。
当然ながら今回も、ミトさんとスパイク先生という『保険』は担保されていた。ところがそれはこれまでと異なり『勝利』においての担保ではなかった。あくまで『安全』という点に置いての担保。つまり、ミトさんの頭の中にはトウタから相談を受けたあの日……つまり『オールドウッズにアギト達を連れて行くと決めた時点』で、すでにこの敗北を確信していた。だから、スタンプ先生にも同行してもらっていたのだ。
みんなのモチベは下がり、体力的にも精神的にも消耗し切っているのは明白だった。スタンプ先生はその後休憩を一切挟まず、ひたすら移動に徹した。結構な時間が経ったが、うな垂れている姿に変化はなかった。そんな中、ミトさんが追い討ちをかけるかのような説明をする。
「もうすぐでオールドウッズにつくよ。そして最初に言っておく。この国はこれまで人間との関わりを避けてきた。だからたとえ私との交友があるとは言え、あんたたちが歓迎されるとは思わないほうがいいね。それだけは覚悟しな」
「……そ、その前に……俺たちがこの先に進む……理由があるんですか⁉︎……ミトさんの言う『井の中の蛙』が、この……先において…………必要なんですか⁉︎」
かなりキツめの説明に対し、アギトは呆然として顔を上げる事が出来ないでいた。意志とは異なり、知らずに涙で溢れてきた。そんな中、ショックに抗うようにミトさんに質問する事が精一杯だった。それに対しミトさんは、いともあっけらかんに返事をする。
「こういう問題は、時間が解決するわけではないのさ。酷な言い方かもしれないが、時間が経てば、ただ記憶が薄まって行くだけで、本質は何も変わらないんだよ。だから現実を今すぐ直視し、全てを受け止めて前を向くしかないのさ」
「……ミトさんの言葉は……いつだって正論ですよ。しかしそんなに単純に切り替えられるわけが……ない」
「あんたらの自信なんぞ、元から大したもんじゃない。たかだかここまでにまぐれ勝利をしたおかげで勘違いしてたんだよ。本当のあんた達の実力がわかって、むしろよかったじゃないか」
「……確かに……そうかもしれないけど……慰め方がエグい」
「これまでもそうだったが、あんた達を『褒めて育てよう』なんて考えは最初からないからね。その辺りはそろそろ自覚しな」
「それは……そうだったけど……」
「さぁ〜これ以上の反省会は後回しさ。みんな、歩ける準備をちゃんとしな。オールドウッズに入るよ」
ずっと下を向いてたみんなが見上げると、四方八方が霧で覆われていた。
「あれ⁉︎ ……戻ってきたの⁉︎ ミストラルに戻ってきたの⁉︎」
「いや、ここが精樹大国オールドウッズさ」
ミトさんだけは懐かしさもあったのだろう。その横顔が少しだけ微笑んだように見えた。




