幼き日々01
自称先輩リンカーの魔なび舎侵入事件以降、ミトさんも師匠も帰りが遅い。師匠に関してはネスザック次長直々の極秘任務だけあって、当分の間は私がラルの面倒を見てることになった。その流れで魔なび舎にも連れて行っているのだが、
「カミュールさんがラルをあやしているのって、似合わね〜〜」
「トウタとラルの印象が強すぎて、カミュールさんとのコンビはちょっとね……」
「そもそもカミュールさんって、育児出来るの⁉︎」
とか言われる始末。
「どういうことよ⁉︎ 私だってちゃんと女性としてのプライドはあるのよ」
と、キレたところでどうなるものでもなかった。実際、師匠とラルのコンビ魔法は衝撃だったのは誰もが認めるところである。それほど、みんなの認識としてラルは『普通の赤ちゃん』ではなくなっていた。
ただ最近は、少し様子が変わった。ラルが魔なび舎に来てみんなと接する機会が増えると、当然みんなとの距離感が近づく。赤ん坊を守りたいという想いは理屈ではなく本能なのだと思うほど、みんなが気にかけてくれる。逆に言えばラルから元気をもらっているとも言えるかもしれない。
年齢に関わらず、身内でもない『仲間』という繋がりだけでも、人が人を思いやる事が出来る。この幸せな時間がずっと続けばいいのに……と思いつつ、私自身どうしてもこの胸の奥にあるモヤモヤを払拭出来ないでいた。
実は、ある話を師匠に伝えたいと思っていた。もしかしたら今、師匠が調べている件の参考になるかもしれない……そんな予感めいたものがあった。
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いつもは深夜近くに帰って来るはすが、今日は早く師匠が帰って来てくれた。私は気配を感じて、玄関の方へ向かった。
「ただいまです」
「お帰りなさい、師匠」
「今日は自分の方がミトさんより早かったみたいだね」
「ええ」
今が言うタイミングだわ。……でも、私の落ち着きのなさから師匠はもう気づいているかもしれない。
「師匠〜ミト母さんが帰ってから食事にしますけど」
「あ〜おかまいなく。適当に作るんで」
「その前に、少し話があるんですけど」
「……さっきから何か話したそうな雰囲気を出してたもんね」
「ええ、実は師匠には聞いてもらいたいのです、師匠が今調べている事件解決への参考になればと思っています。……もしかしたら的外れかもしれませんけど」
「ありがとう。でも、その前にラルに挨拶してくるよ」
そう言って、師匠はラルが寝ている揺り籠の方へ向かっていった。私はその間にお湯を沸かし、コーヒーを淹れる準備をした。
そうこうしている間にミトさんも帰ってきた。
「ミト母さんおかえりなさい」
「お疲れ様です」
「なんだい、今日はトウタは早いね」
「そうなんです。逆にいえば捗っていないという事なんですけどね」
「それはお互い様だよ。上層部は連日あーでもないこーでもないと、机上の空論を重ね仕事をしている気になっている。実際それに見合うだけの成果まで至ってないのが現状さ」
「ミトさん、言い過ぎでは⁉︎」
「いいんだよ。もう私は精霊のトップじゃないんだ。今回だって『特別補佐』みたいな程のいい役職をもらったって、所詮ただの飾りさ。要は責任を私に押し付ける、もしくは分散する事で保身に走る連中ばっかりなんだよ」
「言い方がエグいですよ。もう少しオブラートで包みましょうよ」
ミト母さんも師匠も、思ったより成果が出ていないようだ。私は出来立てのコーヒーをキッチンから運びならが話を切り出した。
「ミト母さん、お疲れのところ申し訳ないですけど『師匠の話』を今から師匠に話すところだったのです。なので、食事はもう少し後でもいいですか⁉︎」
「……そうかい。とうとう『あの事件』を話す気になったんだね。ま、私に気にせずトウタに聞かせてやりな」
そう言うとミトさんは、先に師匠が座っている2人掛けソファの空いている隣の席に座った。
……そ、その場所は‼︎ コーヒーを渡すついでに私が師匠の隣に座る場所だったのにぃ〜〜。なんでミト母さんはそういう所に気が利かないのよ‼︎ 隣に座って話す事が私の最高のアピールタイムだったのに‼︎
仕方ないので、私は師匠の前に座り一呼吸をしてから話を始めた。
「これは、まだ私が師匠と出会う前。私の子供の時の話なのです」