きっかけの雨01
窓越から見てもどしゃ降りの雨は明らかで、外へ出ると軽く一枚羽織りたくなるような肌寒さの感じる日だった。そんな日にアギトはカノンさんと再び会う約束をしていた。
俺自身悩み、もがいていた。魔法における伸び悩みというか飛躍するためのイメージがわかないのだ。俺の弱点、それは記憶魔法【レコード】と記憶復元魔法【リメモリー】の同時発動が出来ない事。もう一つは罠魔法【ボトムトラップ】の近接応用が出来ない事。
それに対し、ずっと気になっていたことがあった。以前カノンさんに会った時に言われた一言『対象が直接私ではなさそうだったので、そうそうに除外しました』
これは俺とカノンさんとの様子をゲンキたちが覗いていた状況で、カノンさんが言ったセリフ。当時の俺は、最初からゲンキたちのバレバレの行動は予測出来ていたので魔法すら使わなかった。だがカノンさんは波長魔法【エンパス】を使い、周辺における警戒をしていたはずなのだ。そして、どこかの時点でゲンキたちを安全だと判断した。だからこそ対象から『除外した』と言ったのだ。
この『除外した』の一言。……当時は気にしてなかったが、後日になって重要ではないかと俺は思い始めた。つまり除外という事は、そこにかける魔法の負荷を軽減したのだ。常時魔法が不可能とされている現状において、何らかの方法で対象物を任意に除外して行けば、魔法力を軽減しながら解析出来るのではないか⁉︎ つまり俺の記憶魔法【レコード】にも応用出来るのではないか!?……そんな妄想が膨らんでいた。
しかし、カノンさんと会う目的が、魔法がらみというのは些か姑息な感じがするのも事実だった。しかし、一部のリンカーが反乱を企てている現在進行形な状況において、なりふり構ってはいられない。申し訳感はあるが、『嘘』が通じない以上、正直に言うしかない。
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待ち合わせ場所には俺の方が先についた。俺の後ろめたい感情を反映したのか、どんよりとした黒い雲が空を覆い、雨が止む気配はない。数分後、ほぼ待ち合わせ時間通りにカノンさんが来てくれた。カノンさんが差している紅色の傘が、待ち合わせ場所であるパーク内の樹々の深い色の背景と相まってより印象的に映えて見えた。
「すみません。こんな雨の中、パークを待ち合わせ場所にしてしまって」
「いえいえ、お構いなく。アギトさんこそ元気でしたか⁉︎」
「まぁ〜嘘ついても仕方ないですので、正直にいえば滅入っていました。なのでご相談というか力を貸してもらえないかと……随分身勝手な要求で申し訳ないです」
「フフフ、構いませんよ。私としてはアギトさんのお力になれれば協力させていただきますよ」
「ありがとうございます」
「では明日は……私のお願いも是非、叶えてくださいネ。」
「あ、明日ですか⁉︎ それは……」
「……嘘ですよ。フフフ」
「え⁉︎ そ、そうなんですか⁉︎」
前回もそうだが、カノンさんは本音とも嘘とも受け取れる口調をする癖がある。それはおそらく相手の感情を知りすぎる為に、相手を傷つけまいとする苦肉の対応策のように見受けられる。
相手の気持ちを知りたいと思うのは誰もが一度は思う願望ではあるが、時に知りたくもない情報まで知ってしまうのはメンタル的にしんどいはずなのだ。だから、相手には悟られないような素振りを見せる為に、そういう会話手法に辿り着いたのかもしれない。
傘を差しながらの立ち話もなんなので、雨を凌ぐ為に待ち合わせ場所から屋根のある休憩所に俺たちは移動した。
こんな悪天候の日に、パーク内は誰もいないかと思っていたが、ポツポツと人は見かけた。ただ休憩所には運良く誰もいなかった。雨を凌げる休憩所には簡易テーブルを挟んで長いベンチがあったのだが幸い濡れていなかった。俺はなんとなく恥ずかしくて真正面には座らず、隣に座ることにした。カノンさんはそれに対しリアクションはしなかったので、この状態で話をすることにした。
「……今日は、あ、あいにくの天気ですね」
「フフフ。そう言う『デートに役立つ会話集』に出て来るみたいな言い回しは必要ないですよ。素直に聞いてくださいな」
「ぐは‼︎……いきなり核心はマズイと思ってたんですけどね」
「フフフ、気になさらないでくださいな」
今更、遠回りしてもカノンさんには通用しない。俺はストレートに聞いた。
「実は前回カノンさんと会った後で、気になっていたことがありまして……」
「まぁ〜なんでしょう」
「波長魔法【エンパス】についてです。カノンさんは以前、ゲンキたちが俺をつけて来た時に『そうそうに除外しました』と言いましたよね」
「あ、はい」
「つまりカノンさんのエンパスは広範囲を網羅しつつ、余計な情報はその都度、任意で省くことが出来るんじゃないですか⁉︎ そして、そうであるならば、俺はそのやり方を利用したいと思っているのです」
「やはり、エンパスに興味を持たれましたか……実際、これまで私に近寄って来た方々は大抵そうなのです。」
「え⁉︎」
「私の魔法能力を知ると、それを利用したいと思う人が殆どでした。だって他人の感情が読み取れるんですもの。対人において、これほど利用価値がある魔法はないですよね」
カノンさんの表情は強ばり、少し強めの口調になった。




