アギトの憂鬱02
「アギト、ごめん……はしゃぎすぎたわ」
「ボクもごめん、言いすぎた」
「いや、気にしなくていいんだ。みんなもそうだと思うんだけど……この世界に来てから落ち込んでいる暇もなくて、ただがむしゃらに前だけ向いて日々を必死に過ごして……実践なんかを体験して……勝利して……またみんなとワイワイ楽しい日々を過ごせるようになって本当に嬉しいんだ。……でも夜になると、たまに思い出すんだよ」
「……」
「未練がましいかもしれないが、そう簡単に忘れる事は出来ないのさ。だって俺がこの世界に来て、まだ半年なんだよ……まだまだ未熟なのさ、俺は」
「……」
「さぁ〜この話は、もうおしまいにしましょう」
気を使ってくれたのか、スタンプ先生が強引に話を止めた。……当然その後の空気は重かった。アギトの言葉をきっかけに、各々が無意識で忘れようとしていた前世のことを思い出していたに違いない。すぐに集中出来ていないと悟ったのか、珍しくこの日の修練はまだ昼をわずかに回ったばかりだというのに、スタンプ先生の独断で急遽中止にした。
魔法に限らず、『学ぶ』とはメンタルとフィジカルの両方がきちんと整ってないと効果を得られない。それはネイトだろうがリンカーだろうが変わりはない。ただ今回はリンカー特有の悩みなのでカミュールさん以外のみんなのメンタルが揺れていたはずなのだ。そしてこの状態での授業の続行は、むしろ危険な状態になりかねなかった。最悪、大事故になる可能性もある。つまりこの時点で授業を中止したスタンプ先生の判断は間違っていなかった。
正直なところ俺自身、最後のセリフを言ってしまった事に対して後悔していている。あんなセリフを言えば、こうなる事はわかっていた。
もっと別な選択もあったはずと思うが、後の祭りであることに代わりはない。……でも、心のナイーブな部分だからこそ、制御出来ない時がある。他人に触れられたくない部分を揶揄われてスルー出来ない時がある。だからこそ後先考えず、感情的にあんな返事をしてしまった。
俺を含むみんなが重苦しい空気になり、どうしていいかわからないこの状況において、一度も口を出さなかったミトさんがようやく語り出した。
「いい機会だ、みんなちょっと私についてきな」
それ以上は何も言わず、返事も聞かずトコトコと入り口の方へ進んで行った。俺たちは唖然としつつもその提案を断る理由があるはずもなく、みんなでミトさんの後をついていく。
「どこいくんだろうね⁉︎」
「さぁ〜……カミュールさんは、検討はつかないの⁉︎」
「ごめんね、私もどこに行くかはわからないの」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
住宅区画からそこそこ離れた場所。ここだけ明らかに空気感が違うのは遠目から感じていた。近づくとすでに道は途切れ、日中にもかかわらず、奥は暗くて何も見えない。それでいて吸い込まれそうな大森林が目前に広がった。
「……ここは⁉︎」
「私の秘密の場所さ。昔、疲れた時にいつもここに来ていたね〜。ここは精霊専用の憩いの場所でもある。当然、人間は立入禁止な場所さ」
「ミトさんも疲れる事があったんですね」
「当たり前だよ。生きるって事はそれだけでエネルギーを消費するのさ」
「へ〜意外です」
「でも、立入禁止って事は、オレたちは中に入っちゃダメなのでは⁉︎」
「細かい事はいいんだよ、さぁ〜中に入りな‼︎」
と言いながら、ミトさんは堂々と奥に入っていく。
「ちょいちょい雑になるときがあるよね〜。まぁ〜ミトさんが言うんだから平気なんだろうけど、、、」
「道がないから気をつけな‼︎」
こんなところに俺たちを呼んで何をするつもりなんだろうか⁉︎ そして本来、立入禁止の場所に俺たちを入れることになんの意味があるのだろうか⁉︎ そんな疑問を持ちながら、俺たちは言われるがままに、道なき森林の奥へ進んで行った。




