アギトの憂鬱01
「なぁ〜あの人は誰⁉︎」
「さぁ〜知らない女性だね」
魔なび舎でいつもの修練中に、珍しく管理人さんが入り口の扉を開けて呼びかけた。
「アギトさん、お客さんですよぉ〜」
そう叫ぶ管理人さんの隣には見知らぬ女性が立っていた。
「え⁉︎ ……はい‼︎ 今、行きます〜」
慌てたように、アギトは入り口に走って行った。近づいて来たアギトに対し女性は何度もお辞儀をしていた。それに対してのアギトのたどたどしい対応は遠目から見ても一目瞭然だった。
「……アギトは、なにやらかしたんだ⁉︎ セクハラか⁉︎」
「し、知らないよ。授業でそんなの習わないもん」
「だから、ゲンキはなんでもかんでも授業に置き換えるなよ‼︎」
「どうやら、相手の人はお礼をしているね。怒鳴ってる感じじゃないもん」
10分ほどだろうか……話も終わったらしく、一礼をしてアギトはダッシュでこっちへ戻って来た。相手の人は走り去るアギトの背中越しにもう一度丁寧にお辞儀をして、そして管理人と共に帰って行った。
戻ってきたアギトに対して、事の真意を聞きたいみんながまるで芸能リポーターのように周囲を囲んだ。
「今の人との関係は⁉︎」
「ね、ね、あの人は誰⁉︎」
「う、うるさいなぁ〜。そんなんじゃないって」
「ね〜ね〜‼︎ チューした⁉︎ チューした⁉︎」
「するか‼︎ 初対面で、するか‼︎」
「え、彼女じゃないの⁉︎」
「ち、違いますよ。この前偶然、道で鍵を拾って届けたんですよ。そしたら当人がどうしてもお礼をしたいという事みたいなので、ここまで来てくれたらしいんだ」
「ちょっと待てよ⁉︎……アギトは休みの日でも街中で記憶魔法【レコード】やってんの⁉︎」
「そうだけど、なんかまずい⁉︎」
「まずいというか……クソ真面目だなぁ〜」
「ほっとけ、俺は言われた事はやり通すタイプなんだよ‼︎ 影で努力するタイプなんだよ‼︎」
「自分で努力をバラすなよ‼︎ かっこ悪いから」
「……ぐは‼︎」
「で、で、2人の仲は今後どうなるの⁉︎」
「どうにもなんないよ。今、初めて会ったばかりだぞ‼︎」
「いやいや、こういうベタな出会いから始まるんだよ」
「始まらないよ。ただ、改めてお礼をしたいっていうから今度会う約束をしただけだよ」
「おぉぉぉぉ」
「キャ〜〜」
「腹たつ〜〜わ‼︎ そうかよ、やっぱり、そういう流れかよ‼︎ つか、魔法使ってナンパとか許されるのかよ⁉︎ ここの法律どうなってんだよ⁉︎ ミストラルの法律はどうなってるんだよ⁉︎ オマワリさんどこだよ⁉︎」
「し、知らないよ。授業でそんなの習わないもん」
「だから、もう授業から離れろよ‼︎ ナンパの授業なんてないよ‼︎」
「だから、ナンパじゃないって。だって俺は好きな人が……い……いるんだよ」
「え〜〜〜〜‼︎」
流石に、ここにいる全員が一斉に驚いた。
「アギトは、なんちゅうカミングアウトしてんだよ‼︎ つか、誰だよ⁉︎ 相手は誰だよ⁉︎」
「まさか、モモちゃんじゃないだろうな⁉︎」
一斉にモモちゃんも見た。
「ごめんなちゃい」
深々と頭を下げるモモちゃん。
「アハハハ〜モモちゃん速攻断ったよ‼︎ まだ告白もしてないのに、速攻フラれてるよ‼︎」
「やめてよ、なんで俺がモモちゃんにフラれた事になってんの⁉︎ つか、告白してないからね……モモちゃんもその意味深なセリフはやめてよね。みんなのノリに合わせなくていいからね」
「やったネ」
「やってないよ‼︎ 驚かせないでよ」
「んじゃ誰だよ、アギトの好きな人って⁉︎」
「ちょ、ちょ、……私はパパしか興味ないんだからね」
「勿論、私も師匠一筋ですよ〜」
「……ま、ま、まさか、ミトさんなの⁉︎ 年上好きとは聞いていたけど、まさかミトさんが好きなのか⁉︎ いつもいつも注意されてばっかりが、逆に火がついたのか⁉︎」
「おいおい……ミトさんと、くっついたらなったら年の差いくつだよ⁉︎ 1200年差カップルとかだぞ‼︎」
「エグい……エグすぎるカップルだ‼︎ アハハ〜」
「違うって、そういう話じゃないんだって‼︎」
「んじゃ、どういう話なんだよ⁉︎」
「前世の彼女の話だよ」
「……」
みんながアギトをネタにおもしろ半分に茶化しワイワイしていた賑やかな雰囲気が、一転して重苦しい雰囲気に変わった。




