ケイの憂鬱01
……私は本当にパパ(トウタさん)を好きなのかしら!?
少し前に、ミトさんとカミュールがトウタさんと一緒に暮らしているのを知った。悔しさはあったがラルの事を考えると、どこかで納得している自分もいたのも事実だ。正直、私は構ってあげたいより、構ってほしいの。それが毎日じゃなくても、ほんのひと時でも……
前世において私は一人っ子だった。そして私の両親、つまり実の父はわりと厳格で「パパ」とは呼ばせてくれなかった。常に「お父さん」と呼ぶように言葉使いに関して厳しい躾をさせられていた。あともう一つ、食事のマナー……特に箸の持ち方から食べ方も厳しかった。ファミレスで、私がはしゃいだり貧乏ゆすりをして食事が運ばれるのを待っていると、人目も憚らず大声で叱られた事もあった。
それでも挨拶を含めた言葉使いと食事のマナー以外は、柔軟な考えの持ち主だった。とても優しかった印象がある。とは言っても、遊んでくれた記憶は数える程しかない。そもそも父は仕事の関係で出張が多く、家を空ける事が多かったのだ。半年に1回くらい帰ってくればいい方なのだが、それでも幼心に父の帰ってくる日が待ち遠しくて仕方なかった。理想をいえば玄関に帰ってくる姿に対し『パパ〜おかえり〜』と言いたかったのだ。ただ、現実には最後まで『パパ』とは言えなかった。それでも、玄関を開ける音で父だとわかり、いつも「お父さん〜」と叫んで廊下を走っていた。久しぶりに会う、父の笑顔は今でも忘れられない。私にとっての父との数少ない思い出だった。
一緒にお風呂に入ったり、テレビを見たり、本を読んでくれたり。食事時の厳しさでは考えられないほど、父は子煩悩だった。そして限られた時間内においていつも一緒にいてくれて本当に優しくて大好きなお父さんだった。家族三人でどこかへ旅行とか、そういう記憶はない。ただ普通にささやかな暮らしを『三人』で過ごしている事が、私にとっての幸せだったのだ。ただ待っている時間が長い分、もっと一緒に過ごしたい気持ちがいつもあった。いつまでも甘えていたかった私がいた。
中学生になっても私は親離れ出来ずにいた。相変わらず忙しい父に会いたい気持ちが一層強く、私は寂しさを我慢する事が出来なかった。そして日々の寂しさを紛らわすように、部活の先輩やバイトの先輩と付き合ったこともあった。
当時の私は彼氏の事を『パパ』と呼んでいた。相手は「なんか援交みたいでやめろよ‼︎」と嫌がっていたが、私はとにかく甘えたかったので本来、父に対して呼びたかった『パパ』を彼氏に対して言う事で寂しさを紛らわしていたのかもしれない。
同学年の異性には全く興味がなく、年上を好きになるのも父に対する想いが強かったせいだと思う。一番優しくされたいと思っていた時期に、もっと一緒にいたかった時期に、父とはさほど会えず、世間的には大人になっても『パパが大好き』なんて子供じみた考えは消えなかった。むしろ気持ちが抑えきれなくなる。だからこそ余計に、彼氏に対してパパと呼んでいたのかもしれない。
ここミストラルに来た時も、正直不安で仕方なかった。寝ぼけたフリでもしないとやっていられなかった。かろうじて泣かなかっただけ自分で自分を褒めたいと思ったほどだ。でもトウタさんを見て、ホッとした自分が確かにいた。初めて会った瞬間に、父が玄関に立っている雰囲気に似ている気がした。そして話をすればするほど、しっかりしている部分、己に厳しい部分、不器用な部分、周囲には優しい部分が見えてくる。見た目は全然似ていないが、堅物な部分と優しさの両方を持つ部分はまさしく……私の理想の『パパ』だった。
この世界に来て、みんながそれぞれの想いを抱えているからこそ、逆に私は無理をせず、見栄をはらず素直にトウタさんに『パパ』と呼んでいる。それは今までと同じ、ずっと本当の父にパパと言えなかった反動なのかもしれない。
ぶっちゃけ、パパ(トウタさん)の苦労やラルを考えれば、私が甘えさせてくれる余地はない。当然、カミュールとも付き合っている感じではない。でも、仮に付き合っていたとしても、私はやっぱり『パパ』と呼びたい‼︎
久しぶりに仕事から帰ってドアを開けて玄関で佇む父に、あの時に言えなかったセリフの代わりを、今は堂々と言いたいのだ。
たまに魔なび舎に来てくれるトウタさんに対して大声で『パパぁ〜おかえりなさい‼︎』と叫びたい。それだけでいい。それが、偽りのない今の私の本心なのだ。




