モモちゃんのデート02
かなりの遠目からだが、モモちゃんとトモミはグリーンミストパークの入口付近で、パークの管理人らしき人に止められているように見えた。流石にまずいかなぁ〜と思い、出て行こうとしたが、カミュールさんに止められた。そのうちにトモミの誤解はとけたようだ。無事にモモちゃんと一緒にパーク内に入って行ったのが見えた。
……現状の相関図を確認するならば、モモちゃんとトモミが先頭でパーク内。それをゲンキ、スバル、オサムが尾行して、さらにその3人を俺とカミュールさんが尾行しているという状況ということになる。……客観的に見るとなんとも言えぬこの絵面だが、今更あとには引けない。ところが突然カミュールさんが急に俺の肩を叩いてきた。
「アギト君は先行ってて。私もお花屋さん行ってくる。急にお花が欲しくなっちゃったわ〜」
「あ〜そうですか。お好きにどうぞ」
……どうせ、トウタさんへのプレゼントだろ。勝手にしろっていうの‼︎
俺はカミュールさんと別れ、一定の間隔を保ちつつゲンキたちの後を追った。最初こそノリノリで面白かったが、流石に飽きてきた。というかどうでもよくなってきて、適当に散歩して帰ろうかなぁ〜と公園内に入ったその瞬間……『俺も』全てを理解した。
「なんだ……そういうことか」
俺はもうゲンキたちを追うのをやめた。それよりも公園の入り口でカミュールさんが来るのを待つことにした。時間にして5分もかからなかったと思う。カミュールさんは両手いっぱいの花を持って俺の方に向かって来た。さらになんと、カミュールさんの隣には(ミストさん改め)ミトさんもいた。
「なるほど、役者が揃ったってわけね」
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「トモミも誤解を招くようなことするなよ」
「え?……なんのことかな」
「てめ〜知ってて、知らないフリしてるだろ!!」
「けんかはだめでちゅよ。モモちゃんがトモミちゃんにおねがいちたのです」
「わ、わかっているよ。ケンカじゃないよ。これは、そうだろトモミ⁉︎」
「これはケンカじゃないです。モモちゃん」
「みんなお待たせ〜‼︎。みんなの分も持ってきたんだよぉ〜‼︎」
結構、遠い距離からカミュールさんはみんなに声をかけた。みんなはそれに気づき、走ってこっちに向かって来てくれた。……慌ててミトさんが、優しくこう告げた。
「ほらほら、走るんじゃないよ。危ないだろう」
口調は怒っていても、笑顔だった。ただ、満遍の笑顔ではなく、子供達の一連の行動に感心しているような、充実感に満ちたそんな笑顔に見えた。
カミュールさんは持っていた花を全部一旦俺に渡し、走って子供達を迎えに行った。……この人の感受性豊かな部分は、時に俺の『予測』を超える事がある。まさに今回はそれだったな〜。
「みんなありがとうね。そしてモモちゃんはえらいね〜」
「モモちゃんはトウタおにいちゃんに、ぜんぶおちえてもらいまちた。だからトモミちゃんといっしょにココにきたのです」
『ココ』とはグリーンミストパークの中央池のほとり。そこには小さな石碑があった。まだ出来たばかりの新しい碑だ。その周りには、もうたくさんの花が手向けられていた。
これはミストラル襲撃時において亡くなった野盗たちへの慰霊碑。確かに奴らの行いは許されたものではない。非難することはあれ、擁護するつもりはない。戦いなのだから、死はお互い覚悟の上なのだ。今回の襲撃事件において幸いミストラル側には死者はいなかった。そして、野盗連中においても今回、全員身柄を拘束というミストラルの完全勝利だった。結果として敵味方誰も死者は出なかったはずなのだ。
しかし、そうではなかった。野盗連中は全員が身柄確保した、そのたった1時間後……全員の死亡が確認された。それは自害でも拷問でもなく、のちに解析班が調べたところ魔法の免疫不適合による急性ショック死だということがわかった。
つまり野盗の使用していた魔法は精獣契約による正規な魔法取得ではなく、人為的で強制的な移植魔法によるものだった。当然そのような契約がまかり通るはずもなく、後先考えない強引な魔法転用は、その代償として野盗集団全員の死という結果を招くことになった。
そしてそれを裏で糸を引いていたのは間違いなく『サウスクラウド国』だ。……なんとも悪どい事をしてくれる。
カミュールさんと俺はみんな均等に花が渡るように配り、そしてミトさんを先頭に順番に慰霊碑に花を手向けた。モモちゃんとトモミだけは俺たちが来る前に花を供えていたが、カミュールさんにもらった花をもう一度供え、一番最後にその小さな手を合わせて祈っていた。
モモちゃんの祈っていた時間が長ったのか、みんなもその場でもう一度手を合わせ、そしてもう一度祈った。
第一章『精霊指定都市ミストラル編』 完




