勝利の余波02
そもそもミストさんは大精霊祭の主賓なのだから、こんなところに来ている場合ではないのだ。だからこそ、事の重大さを感じざるを得ない。
「大変だよ‼︎」
「な、何が大変なんですか⁉︎」
「ミスト母さん、何があったんですか⁉︎」
「残念な知らせだ。あんたらが決死の覚悟で死なせずに身柄確保した野盗集団が、今さっき……全員の死亡が確認された」
「そ、そんなバカな‼︎」
「う、嘘ですよね⁉︎」
「本当さ、解析班は特に何もしていない。ただ魔法を使えないように捕獲魔法【ワンハンドキャッチ】をかけていた。つまり野盗連中はこの時点で拘束され魔法すら使えないのさ」
「自害も出来ない状態なんですよね⁉︎」
「当たり前だよ。なんのための身柄確保だよ」
「では、私たちの魔法による攻撃方法に何かしらの原因が⁉︎……どうしましょう〜」
「……そんなバカな⁉︎ 俺たちの作戦は完璧だったはずだ‼︎」
本来2人はもっと冷静なのだ。おそらく今回の野盗襲撃において考え得る想定をして挑んでいたのだろう。そして最高の結果を出した。敵味方問わず一人も死者を出さないルートへと導いたのだ。だからこそ、その反動でここまで動揺するのもわからなくはない。
「アギト君もカミュールさんもまずは落ち着いて。……大丈夫だよ。なぜなら俺の警備担当の西区にも野盗連中は来ていたんた。更にいえば北東区でも同様に攻防は行われたんだ」
「では、一体どういうことなんですか⁉︎」
トウタは今回の戦闘においてありとあらゆる想定をしてきたつもりだった。しかし流石に拘束後の解析班の対応までは範疇になかった。
「実際のところはなんとも言えない。……それでも、可能性は一つしかないと思う」
「わかるんですか、トウタさん‼︎」
「師匠〜〜」
「……トウタ、お前には何が見えるんだい⁉︎」
ミストさんを始め、みんなの視線が俺に集まった。
「実は、ミストさんに会う前にみんなに伝えた事があるんです。」
「あ〜〜サウスクラウド国‼︎」
「そのとおりさアギト君。まず間違いなく奴らが絡んでいる。そして今回の野盗襲撃の真の目的は、おそらく俺たちミストラルの戦力分析ともう一つ……」
「まさか、野盗の使っていた魔法そのものが重要なのでは⁉︎」
「そう……魔法実験だ」
「そんな……野盗集団を魔法の実験台に使ったって言うんですか⁉︎」
「野盗は『精獣魔法』と呼んでいた。おそらく素人にどの程度の負荷がかかるか⁉︎ そんな感じのテストも兼ねていたように思える。それほど魔法のポテンシャルに対し、あまりにも使い手の力が伴っていなかった。今回の件、野盗連中に魔法契約を餌に手を組んだと見せて、もしかしたら最初から野盗連中を騙していたのかもしれない」
「……」
「本気でミストラルを侵略するならば……野盗連中を先陣として、それとほぼ同時にサウスクラウド国の軍は攻めてくるはずなのさ。それをしなかったのは、、、、」
「今回は野盗を捨て石にして、本気で攻める気がなかった……訳ですね」
ミストさんが2人のやりとりに納得したところで間に入ってきた。
「あり得るね。そしてトウタの言う通りならば、口封じのために始末した。解析班が野盗連中に尋問する前に」
カミュールさんも続く。
「で、でも遅効性で殺傷能力の高い毒のような魔法は聞いたことがありません。時間差発動魔法【アラーム】と死に至らしめる魔法を併用すれば可能ですけど。……あ、もしかしたら野盗にいた転生者や反乱した精霊から、複数の魔法を使える『次世代魔法』の情報がサウスクラウド国側に漏れた事になりませんか⁉︎」
「……いや、それはない。」
「師匠〜どうしてですか⁉︎」
「俺は実際に転生者崩れの野盗集団と戦った。しかし、そいつは同系の魔法しか使わなかった。つまり奴ら自身、転生者としての次世代魔法の特性に気づいていなかった。……と、なればその情報は『まだ』サウスクラウド国には伝わっていないと見るのが妥当……だと思う。」
「確かにその情報を知ってるなら、連中は戦闘中に複数の異なる魔法を使うはずですよ」
「どちらにせよ、真相は解析班の結果待ちって事でしょうか⁉︎……ミスト母さん」
「そう言うことになりそうだね。……そして大事なのは『ここから』だよ」
「え⁉︎……まだ、なんかあるの⁉︎」
「アギト君、ミストさんの答えなんて聞かなくても、後ろを振り返れば答えは出ているじゃないか」
「え⁉︎」
後ろを振り返ると、……みんなが不安そうに、こっちを見て立っていた。
「あ、そういうことか。……いや、わかったところで、みんなになんて言えばいいんだ。……これは、どうすればいいんだ⁉︎」




