トウタの新魔法04
いわゆる『オーラ』という類の光エネルギーが全身から吹き出しているのとは、まるっきり違う。トウタさんとラルを包み込むように無数の小さな白い光の粒がランダムに浮遊し始めている。そして高速でクルクル回る光の粒もあれば、1箇所に集まって激しく光を発している部分もある。
とにかく、数え切れない無数の小さな光の粒がまるで生きているかのように群れをなしてトウタさんの全身をランダムに縦横無尽に周回している。
「これが、俺のオリジナル魔法。混血魔法【ミリオンブラッド】です」
「ミ、ミリオンブラッド⁉︎」
「素敵です〜〜師匠〜〜」
「よく、わかんないけど、スゴィ‼︎」
「……ミストさん、この魔法は一体なんですか⁉︎ この魔法はどうなっているんですか⁉︎」
俺は、理解出来ずにミストさんに食い下がった。
「俺の精度が上がった記憶魔法【レコード】ですら理解出来ないんですよ」
「僕の解析魔法【ワイヤーフレーム】でも意味がわからないよ」
スバルのワイヤーフレームは俺のレコードよりも解析精度が高い。正直悔しいのだが、ここのところいつも解析勝負で負けていた。……そのスバルですらトウタさんの魔法は解析出来ないのか⁉︎
「こいつは驚いた‼︎ ついに……ここまできたのかい」
こんなに驚いたミストさんを見たのは初めてだった。
「ど、どういう事です、ミストさん‼︎……俺たちにもわかるように説明してください‼︎」
みんなに緊張が走る。目の前のことが理解出来ないので尚更、気になって仕方ない。
「……アギト、そしてみんなもいいかい‼︎ どんな魔法にも発動には詠唱が必要となる。つまり魔法には『発動前準備時間』と『発動後終息時間』が存在する。どんなに精度を高めても連続で魔法を詠唱するにはタイムラグが生じる。そこまではわかるかい⁉︎」
「息継ぎみたいなのが必要って事ですよね」
「いい例えだよ。見た目に連続で撃っているように見えても、実際は撃ち終わりに一呼吸の間が生まれる。熟練者になる事で、間は短くなるが決して『ゼロ』にはならない」
「それはわかります……けど」
「何が言いたいかというと、異なる魔法を同時に複数発動する事は『現代魔法』でも『次世代魔法』でも出来ないのさ。それはみんなはわかるはずだ。実際に時間短縮のための修練もしているんだからね」
「魔法精度を上げる一環の練習ですよね」
「ところが、トウタのミリオンブラッドは一切、魔法詠唱を経由していない。手持ち全ての魔法を最初の一つの詠唱で完了している。そしてあの光の粒がそれぞれの魔法の元なのさ」
「え⁉︎ どういうことですか⁉︎」
「つまり、ミリオンブラッドを発動した時点で、それ以降はもう詠唱なしで異なる複数の魔法を同時に何度でも発動出来る」
「な、なんですって‼︎」
「それって、チートじゃないかよ⁉︎」
「すげ〜」
「もう〜なんでもありじゃん」
「で、でも、それっておかしいじゃないですか⁉︎ 確か授業では、魔法の威力に比例してリスクも高くなるはずって習いましたよ」
「そうだね」
「威力が高い魔法は詠唱時間が長い。射程が長い魔法は発動中に無防備なる。……とにかく、どんな魔法にもリスクはあるんですよね」
「そうだね」
「ならば、これほど高度な同時多種魔法が出来るなら、トウタさんのリスクは、なんですか⁉︎ その代償は、いったいなんですか⁉︎ いったいどれほどの犠牲をすれば、こんな魔法が発動出来るんですか⁉︎」
「……おそらく、『今は』何も犠牲にしていない。ノーリスクでしかも無制限だ。唯一あるとすればラルの魔法を利用している」
「え⁉︎ ラルは、なんの魔法を使っているですか⁉︎」
「ただの弱い自己防御魔法。だだし半永久的な『持続魔法』だよ。ラルの周辺を防御魔法が漂っているのさ。それにトウタは光の粒【魔法の元】を乗せている。だから、無数の光の粒が空中で止まらずに、浮遊しながら動き続けているように見えるのさ」
「……い、いくらラルのサポートがあったにせよ、本質はトウタさんの魔法のはずです。リクスマネージメントの根本的な説明にはなっていませんよ‼︎」
「そうだね。……なんでもアリではない。……つまり、このオリジナル魔法に見合うだけのリスクをトウタは……もう5年前からすでに受けて来ていたのさ」
「5年⁉︎……ど、どういうことですか!?意味がわかりませんよ」
「アギト、あんたもこのミストラルの街に来た時にやっただろう……血液検査の為の『採血』を‼︎」
「あっ‼︎ う、嘘でしょ⁉︎ つ、つ、つまりトウタさんは、これまで関わってきた転生者全員の能力を、魔法を『採血』によって自分のモノにしたんですか⁉︎ ミリオンブラッドとは、そういう魔法なんですか⁉︎」
「採血は本来、ミストラルへ入る為の転生者の健康診断、魔法適性のための個人情報さ。それは間違いない。ただし、トウタは検査後の残った血液を自分の体内に取り込んでいたのさ」
「……そ、それって輸血ってことですよね⁉︎ しかも健康な体内に適量以上の輸血なんてしたら、ただ事じゃないですよ‼︎ まして血液型の違う血液なんて輸血したら、体が『拒絶反応』を起こして、生きていけないでしょ‼︎ ……いや、たとえ生きていたとしても悶絶レベルの苦しみでしょう⁉︎」
「だからこれまでの日々において、日常生活において、私たちの想像をはるかに超える痛みと苦しみを、5年間ずっと味わって来たんだよ」
「……そ、そんなバカな、、、、」
「うそぉ……でしょ⁉︎」
……信じられない。そんな事が可能なのか⁉︎ いや、そもそもそんな無茶を実行しようとする時点で、常軌を逸しっている。
「トウタはね……任務以外は決して集団の輪に入ろうとしなかった。常に人付き合いが悪かったらしい。最初は単に、コミュニケーションが苦手なのかと思っていた。でもそうじゃなかった。……それは、自分のもがき苦しむ姿を誰にも見せたくなかったかもしれないね。それ以上に日常生活においても常に支障が出ていたのかもしれない。……カミュール、あんたは、そんなトウタの苦しみを知っていたのかい⁉︎」
「……はい。私『だけが』知ってました。だっていつも側にいましたもん。……それは見るに堪えない激痛の日々でした」
「そ、そんな〜」
「トウタおにいちゃん、かわいそぉ〜」
「トウタはこの魔法を習得する為に5年前から準備をしてきた。……目先の事でなく、、、、数年先、、、、5年先10年先の事を明確に考えていた。いつ来るともわからない『今後』のために、日々死ぬような辛さを耐えてきたのさ。……わかるかいアギト、あれが『本物』さ‼︎ だから、お前も頑張らないといけないんだよ。……みんなも頑張らないといけないんだよ」
俺は、全身の震えは止まったが、今度は涙が止まらなかった。トウタさんは確かに凄いけど……見た目はとっつきにくいけど……話してみると茶目っ気がある『兄さん的存在』にしか思っていなかった。カミュールさんに、いつも言い寄られて羨ましいとか、そんな浅はかな印象しか持っていなかった。そんな自分が急に恥ずかしくなった。
この人は、全てにおいて『覚悟』が違う。文字通り『命』をかけてミストラルを守ろうとしている。見た目のキラキラした光の粒の神秘的な印象とは対象に、その裏にある命懸けの意気込みが、その想いが、ここにいる全員に伝わった瞬間だった。