メイド喫茶で待ち合わせ
僕とユウリは午後イチには東京に着いていた。
花井部長とのアポも取れ、秋葉原のメイド喫茶、『チェリッシュ』で待ち合わせた。(ご不便をおかけしますが、これまでの経緯は、『ガトリングコミッティー・ストライクス・アゲイン 4th bullets』をお読みください)
マフィアと警官隊の衝突で破壊された店内の改修も終わり、営業を再開していた。ネットで事件も店も知れ渡っていたので、店は客で溢れかえっていた。
「ヒロオさん」
僕はしばらくぶりに満月さんと対面した。僕とユウリの応対をしてくれる。
それよりも満月さんは驚くべき観察眼で僕たちの状況を言い当ててきた。
「お2人、何かありましたね」
「え? 何か、とは」
「いえ。ヒロオさんとユウリさんの親密さが増しておられるようですから」
「いえ。特に何もないですよ」
そう答えるとユウリは僕をきっ、と睨んでまくしたてるように喋り出した。
「あの、わたしとヒロオは結婚を前提に付き合うってことになりましたので」
「いえ、あの。親が僕たちを追い出すのに使った方便ですよ」
「ヒロオ!」
再度僕を睨みつけるユウリに対して満月さんが答える。
「あ、やっぱり。よかったですね、ユウリさん。頑張ってください」
「え、と・・・はい」
満月さんのやたら素直なコメントに拍子抜けしたのかユウリもやたらしおらしい反応を示した。
僕は話題を変える。
「満月さん。花井部長はお元気なんですか? あの時結構落ち込んでたんじゃないかと思うんですよね」
「ヒロオさん。花井さんは大丈夫ですよ。そんな弱い方じゃないですから。ほら、来られましたよ」
ちょうど花井部長が手を上げて店の中に入ってくるところだった。
「おー、ヒロオくん、ユウリちゃん。会いたかったよー」
安心した。笑顔でテーブルに着く花井部長は以前と同じ自信と活力に溢れた表情をしている。
僕たちは地元での状況を花井部長に伝えた。
「そう、大変だったわね。で、高校はどうするの?」
「とりあえずそのまま放っておこうかと。わざわざ自分たちから辞める必要はないって思いましたので」
「そっか。じゃあ、東京での生活はどうするの?」
「アルバイトはなんとか探せると思うんですけど住む場所がどうかなと。とりあえずこれから不動産屋さん回ってアパート探そうって思ってるんですけど」
「ふーん。同棲するんだ」
「いや、同棲って・・・単に2部屋借りるお金の余裕がないってだけで」
僕は焦ってオロオロと説明するけれども花井部長は容赦なかった。ガンガン攻めてくる。
「ヒロオくん、ユウリちゃん。2人はもう15歳でしょ。世が世なら元服して一人前の男と女として責任を果たすべき年齢だよ。はっきりしないと」
ここまで言われてしまうと説明しない訳にはいかなかった。
僕も恥ずかしかったし、ユウリもとても恥ずかしそうにしていたけれども、戦場でのトラウマのせいで、『そういうこと』を僕ができる状態にないとごくストレートに話した。
「あら、そう。せっかく2人がいい感じになってきたのに『そういうこと』ができないなんて、かわいそうに」
「いえ、その・・・」
僕もユウリも顔が火照っているのが自分たちでよくわかった。まあお互いにこの手の話には免疫がまったくないからね。
花井部長が突然、ぱん、と手を叩いた。
何かいい案を思いついたようだ。
「ねえ、どうせなら格安がいいでしょ」
「もちろん。少しでも節約できれば」
「いわゆる『同棲』じゃなくって純粋なルームメイト同士っていうウブな関係なんであればいい所紹介できるわよ」
「え? どこですか?」
「うちの大学の寮」
「嫌、です」
ユウリがコンマ1秒以下で即答した。