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クランクイン〜クランクアップ

気は進まないけれどもオカモ先輩に打診してみた。一応、僕が代表して。


「何? ネット小説の映画化だと?」

「はい。オカモ先輩が映画研究会の部長だと聞きまして」

「部長じゃない。研究会なので会長だ」

「はあ」


どうでもいいことだけれども面倒臭いので逆らわずにそうですね、という感じの反応をした。


「で? 長谷の小説はどんな内容だ?」

「え〜と〜。男の子と女の子が高校を休学して敵を倒す戦いの生活に入るっていう」

「全く分からん。とにかく読ませろ」


投稿サイトと小説のタイトルを教えるとオカモ先輩は早速読み始めた。


「うーん。意外と面白そうじゃないか」

「ありがとうございます〜」

「ただキャストもそれなりに居て、アクションシーンもやたら多くてって感じだからなかなか映像にするのは難しいな。よし、あいつを呼ぶか」

「あいつ?」

「もう1人の会員だよ」


そう言ってオカモ先輩は電話をかけた。


「カタヤマ? 映画の話だ。5分で寮に来い」


そのカタヤマさんは本当に5分で僕とユウリの部屋まで来た。


「おお? かわいーねー。俺、カタヤマ。3年生。キミ、名前は?」


来るなりユウリにちょっかいを出そうとする。


「彼女はユウリ」

「あ? 何でお前が答えるの?」


女と男に対する態度が違いすぎる。答える気もないのでオカモ先輩に任せた。


「カタヤマ。久し振りに撮るか」

「いーですねー。でも、オカモ先輩、就活大丈夫ですか?」

「まあ、なんとかなるだろ。それより映画だ」

「キャストは?」

「このヒロオとユウリちゃんが主演だ」

「ああ? こんな奴より俺の方が絶対いいのに」

「俺とカタヤマはあくまで制作サイドだ。それより、どういう構成にする」

「あの。全話はとても無理でしょうからいくつかエピソードを抜き出してという感じでどうですか?」

「素人は引っ込んでろ」


カタヤマさんからポーンと言われてムカッときた。言い返そうとする前にユウリが噛み付いた。


「カタヤマさん。確かにわたしたちは映画のこと詳しくないですけど、そんな言い方ってないと思います。ヒロオに謝ってください」

「うんわかった」

「はい?」

「ごめんよー。ヒロオくん、ごめんよー。許しておくれよー」

「な、何なんですか?」

「・・・これが普段のカタヤマだ。女の子の頼みには何を差し置いても対応するんだ。プライドすら打ち捨てて」


ほんとにどうでもいい。


・・・・・・・・・・・・・・・・


「ヒロオくん、このシーンの表情はこうだよ、こう」


翌週からの撮影が始まると、監督としてのカタヤマさんは人格が一変したかのようなストイックさだった。


撮影はオールロケだ。

小説の中の戦いの舞台は日常なので、街のあちこちでカメラを回し、僕たちは演技した。

はっきり言って、カタヤマさんは厳しかった。曖昧な演技をすると途端に叱責された。


「ほら! その表情、感情がこもってない!」


相手がユウリでも容赦なかった。

映画に関しては誠実な人のようだ。


結局、小説の中から3つのエピソードを抽出してそれぞれ20分程度の絵に収めた。基本は小説のプロモーションが目的なので、最終話は使用しなかった。


「よーし、OK!」


2週間でクランクアップした。


キャスト不足の中でも一人二役等をよしとせず、モブシーンもカネカシ大学の数少ない学生を総動員して撮影する凝りようだった。


「よーし。じゃあここからは俺の出番だな」


オカモ先輩は制作全般のフォローや予算管理等を行う役割だったが、完成後の試写会の構想を今度はプロモーターとしての立場から展開することにしていた。


はっきり言って僕たちはオカモ先輩を見くびっていた。

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