現場
三日後、材料が揃った。
人も揃った。
ヴァルターが仲間の大工を二人連れてきた。イグルとパウロ。どちらも腕のある職人だった。レオンも石工の仲間を一人呼んだ。
倉庫の前に全員が集まった。
Claudeがパースと工程表を壁に貼り直し、全員に向き直った。「まずこれを見てください」
全員が紙を見た。
イグルが眉を寄せた。「何だこれは?」
パウロは黙って見ていた。
レオンの仲間が紙に一歩近づいた。「建物の中が、外から見えている」
「完成した時の姿です。これを目指して動きます」
ヴァルターが工程表の一番左の欄を指さした。「今日はここだ。レオン、階段から始めてくれ」
レオンが頷いた。「わかった」
現場が動き始めた。
レオンと仲間が入口の石を切り始めた。二段の階段が形になっていった。
ヴァルターと仲間が、工房から加工済みの床板を運び込んだ。鉋で仕上げた板が、整然と積まれていった。
イグルが板を一枚手に取った。表面を撫でた。
「……滑らかだな」
ヴァルターが次の板を下ろした。「工房で仕上げてきた。現場で鉋をかけるより早い」
イグルがもう一度板を見た。「こういうやり方もあるのか」
ヴァルターが床の骨組みを組む位置を指で示した。「床下地から組む。養生を忘れるな。床が終わるまで傷をつけるな」
イグルが顔を上げた。「養生?」
Claudeが積まれた板の上に布を一枚かけてみせた。「仕上げた部分を布や板で覆って守ることです。次の工程で傷がつかないように。これをやるかやらないかで、仕上がりが全然違います」
「なるほど。やり直しが減るな」イグルが布の端をめくって、下の板を確かめた。
「そうです。先の工程を守りながら、今の工程を進める。その順番が大事なんです」
イグルが布を元に戻した。自分に言い聞かせるように繰り返した。「仕上げた床を守る。その上で次をやる」
今まで考えたことがなかった顔だった。
昼前に、Claudeが工程表を確かめた。
レオンの階段——半日の予定が、昼前に終わっていた。
床下地——順調。
Claudeがヴァルターを呼んだ。「レオンさんの仲間の手が空きます。煙出しの穴を、明日からではなく今日の昼から入れられませんか?」
ヴァルターが壁際を見た。床下地の骨組みと壁の間には、まだ養生がなかった。「……壁の養生を先に広げれば、ほこりは床に落ちないな。できる」
「一日縮みます」
ヴァルターがレオンを見た。
レオンが仲間の肩を叩いた。「やる」
夕方、作業が一旦止まった。
全員が工程表の前に集まった。
Claudeが今日の進み具合を書き込んだ。明日の作業を確かめた。誰が何をやるか、もう一度読み上げた。
イグルが工程表を見ていた。しばらく黙っていた。それから、自分の作業の欄を指でたどった。「なあ、これ——全部が見えているということか?」
「そうです」
イグルの指が右へ進んだ。「俺は今日、床下地をやった。明日もやる。その後、床板を張る。それが終わったら仕切りに入る」
「はい」
イグルの指が一段下の欄に移った。「で、レオンは階段をやって、穴を開けて、かまどに入る」
「そうです」
「同時に進んでいる」
「はい」
イグルが少し間を置いた。「今まで——次に何をやるか、親方に言われて初めてわかった」
倉庫の中が静かになった。
パウロが口を開いた。静かな声だった。「俺もそうだ。終わったら次を言われる。言われるまで待つ。待っている間、別の誰かも止まっている。それが当たり前だった」
Claudeは黙って聞いていた。
ヴァルターが腕を組んだ。「トイレの現場でも、ここまで見えてはいなかった」
レオンが壁のパースを見上げた。「あの時は気づかなかった。でも今回はわかる。全部が見えているから」
工程表が壁に貼ってあった。パースが隣に貼ってあった。
どこへ向かっているか。自分がどこにいるか。全員が知っていた。
イグルがぽつりと言った。「俺、こんな現場初めてだ」
パウロが頷いた。
レオンの仲間が帰り支度の手を止めた。「明日も来ていいか?」
「来てください」
全員が散った。
夕暮れの倉庫に、床下地の骨組みが並んでいた。壁には煙出しの穴がひとつ、養生の布の向こうに開いていた。入口には石の階段が二段、きれいに収まっていた。
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168号と仲間たちの物語を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
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