第九三話 イベント終了
エルドラードを改めて見てみると、そこら中にある素材も魅力的なれど、ただ歩いて回るだけでも楽しめる風光明媚な場所だった。
敵性モンスターも一切おらず、上質な肉となるだけのモブモンスターがうろついているだけで危険もない。
それでいてあらゆる素材がこの島にはあるので、イベントでなければ毎日でも訪れたくなるような場所だった。
そんな場所を意気揚々と三人で探索し肉に魚介、鉱物に草花。今後BMOの本マップの方で必要になりそうなものを、いろいろと採取していたときのこと。
白にわずかにピンク色が混じった肉厚な花弁を持つ花が咲き誇る、桜のような木が密集した小さな森を発見した。
「これ全部が【ピュアブロッサム】……? すごいね。こんなのの群生地まであるんだ」
「なんか凄い木なの? ──って、ブラットはもう、ちっちゃい木を掘り返してる……」
大きな木に隠れて密かに生えていた苗木を目ざとく見つけ、ブラットはいの一番に手で掘りはじめる。
「これは今後のためにも必要なんだ!」
「しゃちたんも何個か持っていって、育ててみるのもいいかもしれないよ?
掘り返してカバンに入れられるサイズの苗木が生えているのも珍しいし、あれの花びらって上位系の回復アイテムには必ずってほど入ってるから」
「えー、でも育てる場所がないなぁ」
「植木鉢に入れておけばカバンの中で、枯らせずに持ち運べるよ。
もちろん毎日の水やりは必要だけど」
【ピュアブロッサム】はその花弁を集めて絞ることで、【命脈の雫】というアイテムが採取できる。
それはあらゆる回復薬の効果を高めてくれ、【命脈の雫】が使われていない安いポーションに、ただ入れるだけでも効果を上げるほど汎用性が高い。
もちろん本職の薬師や錬金術師が調合すれば、より効果を高めることだってできてしまう。
今現在の上位層から中位層のプレイヤーたちが使っている回復アイテムのほぼ全てに、この【命脈の雫】が使われていると言っていいほどに多くの使い道があるアイテムなのだ。
「ただし特殊な土と植木鉢を最初に用意する必要があるけど、それもイベントのポイントと交換できるんだ!
ちょうど、これが欲しいと思ってたんだよ!」
「たしかブラットの目標のモンスターってアンデッド系だし、これで普通のより強い聖水が作れたりもしたっけ」
「そうそう!」
「へぇ~そうなんだぁ。私も何本か持って帰ろっかな。なんかレアらしいし」
「ポーション買うときとかに、【命脈の雫】を持っていくと値引きしてくれたりもするからけっこういいよ。
NPCも高めに買い取ってくれたりもするし、いざというときの金策にもなるよ」
HIMAもしゃちたんに勧めながら、自分の分もしっかりと採取していく。
もしこのイベント後に市場価値が下がっていたとしても、普通に【命脈の雫】は使いどころが多い素材アイテムなので、自分で使うことだってできる。
その後も様々な目ぼしい素材アイテムや、親方が言っていたお酒の湖から上等なお酒を取ってきたりと、船の収納庫がパンパンになるまで詰め込むと、ブラットたちはエルドラードを後にした。
帰りは来た方向へ戻り、【ゲート・オブ・エルドラード】を使うことで道が開かれる。
そこから通常のイベントマップに帰ってきた頃には、すっかりいい時間になっていた。
このままだと止めどころがわからなくなりそうだったので、ひとまず【リミナル・ウェッジ】でゴンド親方のいる島に飛び、その日は解散となった。
イベント七日目。学校からすぐに帰宅してダイブした三人は、はじめに時間の都合でやれなかった各種宝箱のアイテム整理からしていくことにした。
「おっちゃんが何くれるか知んないけど、その前にスペース開けとかないと持ってけないしね」
まずコンスタンティンの宝箱から手に入った物の中から、いるものいらないものを仕訳けはじめる。
この宝箱からは【ドレークの冒険記】が、三人で全巻ちょうど揃うようになっており、ダブった個所の本だけをいらない物の方へ仕訳けていく。
「もう全部いらないかもしれないけどね」
「けど全巻所持っていう裏ミッションもありそうだし、念のため一冊は持っておきたい」
「あとは~あー……、このエービトンのトランクケース。
見るたびにアイツを思い出しそうだけど、性能がいいから欲しいよね」
コンスタンティンが常に持っていた【エービトンのトランクケース】を、しゃちたんが取り出した。
これは一人一個ずつ入っていたので全員、持っている。
下手な盾より頑丈で、本体も見た目より収納量が多く軽め。
防水、防塵、耐衝撃に加えてプレイヤーの手持ちのアイテムスロットや、カバンに入れることも可能。
手持ちのスロットやカバンからトランクケースを出してまた、その中身を取り出すという手間はかかるが、一スロット分で複数のアイテムを圧縮できると思えばかなり便利だろう。
あとは三つ目の【ディテールド・アナライザー】と【リミナル・ウェッジ】。魔法が込められた、使い捨てのスクロールなんて物もいろいろと入っていた。
装備品などのアイテムは三人ともなかったが、便利だったり使える品が多い宝箱だった。
「よし、これでコンスタンティン関連のアイテム整理は終わりだな。次に行こう」
次はロロネーの解放報酬として出てきた宝箱。
さすがに難易度が高いこともあって、中身もかなり豪華なことになっていた。
ブラットの宝箱にはロロネーの残骸が用いていた魔刃の剣柄──黒桜、白桜、灰桜の三つ。
ブラットが装備しようとしても『種族としての格が足りません』と表示されて今は、まったく使えない魔刃の強化用装備だ。
(これは次の進化先でも使えるかどうか怪しいなぁ……)
他には【極ダンベル】に足や手、腰に巻くことができる【極ウェイト】。
これらを使ってトレーニングすることで、物理攻撃力を強化できるようだ。
さらにトレーニングを効率化してくれるとも書かれているので、ロロネーの言っていた修行内容をする際、これを使えば普通よりも短い日数で何かのフラグが立ってくれる可能性もあるアイテムだった。
(こっちの肉体を鍛えても零世界の肉体には関係ないから、こっちで修行の結果が出たら零世界に持っていって鍛えるのもいいかもしれない)
他にも見たことのないモンスターの素材やら魔法のスクロール、便利ツールやらいろいろと豪華なラインナップだったが、その中でも目を引いたのは【スキルブック『三叉』】。
『三叉』とは三刀流の剣士系職業で覚えられるスキルのことだが、それらの工程を飛ばして自分のスキルとして習得できるアイテム。
(ただスキルだけあっても対応する職業がないから、スタミナ消費も多くなるし威力も本職より劣るんだよなぁ。
零世界なら職業補正がないから、練習すればどうにかなるかもしれないけど)
やはり職業スキルは職業補正が乗ってこそ真価を発揮する。だがもとより火力の高いスキルなので、こちらでも使えないこともないだろう。
HIMAやしゃちたんも、それぞれ強力な物や魅力的な物を手に入れ仕分けに苦労していた。
「それで次は海の王様からのご褒美だね」
「こっちは二つ分だから大変そうだな」
「けど中に入ってるのはいい物ばっかだし、嬉しい悲鳴ってやつだね」
三人共通で入っていたのは【変換箱】と【合成箱】。前者は一つ目、後者は二つ目の宝箱の中に入っていた。
【変換箱】は一定量アイテムや素材などを詰め込んでいくと、ランダムで別のアイテムに変えてくれる箱。
当然、本当のゴミばかり入れたところで、変換されて出てくるのはゴミ同然のアイテムなので、良い物を狙いたいなら良い物を犠牲にする必要がある。
「不用品で使えるものが出てくるかもしれないと思えば、けっこうおもしろいアイテムかもしれない」
「持ち帰ったら部屋のストレージのこやしになってるアイテムでも入れてみようかな」
「私はまだそんなに、いらないものは無いなぁ~」
【合成箱】も似たような効果だが、こちらはアイテム同士をくっつけて、完全にランダムではなく、ある程度の法則性にのっとって別のアイテムに変えてくれる。
ただ上振れと下振れがあるので、合成したところで元より粗悪品になる可能性があるので注意が必要。
あとは今のブラットやしゃちたんでは装備不能な装備品なんかもあり、現在としては微妙だが、未来の自分にとってはいい物もたくさん入っていた。
また今でも使えるものとしては、ブラットには【スキルブック『ウォータークッション』】というアイテムが入っていた。
こちらは水の塊を生成して、盾にしたり壁や床に叩きつけられそうになったときのクッションにしたりできる水系統の魔法。
当然、水魔法系統の職業には就いていないので、こちらもMP消費量が多く水のクッションの大きさも小さいが、雷系統の職業を持つブラットにとっては使いどころのある魔法になってくれる可能性は高い。
それらを仕分け終わり、売れるものは三人で手分けしてあちこちで売りさばいて船の収納を空けていった。
最低限の作業を終えたブラットたちは、ようやくゴンド親方に会いに行く。
親方は自宅で作業をしていたので、簡単に見つけることができた。
「おう、お前らか! 無事でよかったぜ」
エルドラードに行ったかどうかよりも、こちらの安否を最初に気にかけてくれることに軽く感動しつつ、ブラットが代表して口を開いた。
「親方、オレたちエルドラードに行けたよ。その証拠も持ってきてる」
「──っ!? そうか、ならそれを見せてもらえるか」
ゴンドは疑っている様子はないが、見せるというのが約束だ。ごくりと息を飲んで、次のブラットたちの行動を見守りはじめる。
そこでブラットたちは、海の王から貰った宝箱の中に共通して入っていた蒼い宝玉を取り出した。
「こ、これはっ──。すげぇ……この世の物とは思えない代物だ……」
それは【蒼竜の瞳玉】というアイテムで、実際に竜の目玉というわけではないのだが、異様な魔力を内包した宝石の玉。
そして説明欄には『海の王と会った証。エルドラードに行ったことを示す証』と書かれていた物。
他のルートでは他の行った証があるが、ブラットたちのルートではこれが証明になる。
ちなみにこれは今現在のプレイヤーでは加工できないアイテムとなっていたので、しばらくは皆、飾りや売り物として使うしかない物でもあった。
ゴンドは自分の拳ほどしかない宝玉が放つ、異様な圧力に腰が抜けそうになりながらも、それをグッと堪えて証であることをしかと確かめた。
「こりゃぁ……間違いねぇな。これが普通の場所にあってたまるかよってなもんだ……。
他の誰が何と言おうと俺は信じるぜ。お前らが本当にエルドラードなんていう楽園の島に辿り着いたってことをな。
そんなお前らの船を俺がいじれたことも、誇らしいぜ」
「オレたちも親方に任せてよかったと思ってる。行けたのは親方のおかげってのもあるよ、絶対」
「へっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか……」
「あ、おっちゃん泣いてる!」
「な、泣いてねぇよ!」
「じゃあ、なんで目をぬぐってるんですか?」
「うるせぇ! お前らは、ちょっとそこで大人しく待ってろ!」
ホロリと涙を流すゴンドを冷やかすと、少しだけ拗ねたような顔で家の奥へと引っ込んでいく。
言わないほうがよかったかと三人が反省しながら大人しく待っていると、彼は何事もなかったかのように三つの大きな箱を抱えて戻ってきた。
「これが俺が持ってる、とっておきのお宝だ。ちょうど三人分ある、持っていけ」
「開けてみてもいいですか?」
「ああ、好きにしな」
ドキドキしながら蓋を開けてみれば、そこには頑丈そうな釣り竿にルアーセットが入った収納箱。大き目のクーラーボックスに魚をすくうタモ。そして極めつきは『釣りの心得書』と書かれた本。
これは……、どうみてもただの釣り人セットだった。
「えーと……これが親方のお宝か。うん、そうか、これがか」
「おう。すげーだろう」
よくよく考えてみれば、親方は世間的には地位の高い人ではあるが一般NPCだ。
竜の王やロロネークラスのお宝など、出せるわけがない。そう思って納得しようとしたブラットたちだったが、効果を知って驚くことになる。
「そいつは特別な釣り竿でな、名を【海繋の釣り竿】という。
洗面器一杯の水や水たまり、そんな少しの水さえあれば、その水とどっかの海を繋いで、どこにいようと釣りができる代物だ。
ルアーは付け替えることで狙えるアイテムや魚、海のモンスターを絞ることだってできる。
タモはその釣り竿で釣ったやつ限定だが、大きさを自由に変えて一時的に拘束することができる。
クーラーボックスは、魚以外にも生ものなら保存期間をかなり伸ばしてくれるぞ」
「え、なにそれすごい。アイテムも釣れるんですね」
「それに海のモンスターまで釣れるのか。陸地に上げれば弱体化するだろうし、タモで拘束もできるなら格上も倒せるかもしれない。海系の素材集めがはかどりそうだ」
しかもこれはイベントマップ限定ではなく、通常マップでも同じ効果を発揮する。
持ち歩いていれば食材のない場所でも、少しの水さえあれば魚を釣って食べることだってできてしまう。
【釣りの心得書】という本のアイテムも、持っているだけで最低限の釣りスキルが使えると釣り初心者へのフォローも忘れていない。
全て自動修復機能も備えているので、ずっと使うこともできる。
便利系のツールの中でも、かなりいいアイテムだとブラットたちは最後には心から喜んで受け取った。
親方は仕事中で忙しそうだったので、お酒をお土産に置いてブラットたちはお暇する。
「じゃあ、あいつにも会って来るか」
「「だね」」
親方と別れた後は、ロロネー解放でフラグが立っているかもしれないあの人物──『ブーン』の元へと向かう。
案の定、こちらの顔を見るなり直ぐに職場を抜け出して彼の家へと案内される。
「ロロネーが解放されたと兄貴から連絡があった。お前たちがやってくれたのか……?」
「ああ、これがその証拠だ」
ブーンにそれぞれロロネーの解放で得た装備品、ブラットでいうと魔刃の剣柄を見せていく。
証明するならこれだろうと持ってきていたのだが、想像通りそれでブラットたちがやったと信じてくれた。
「ありがとな……。これで我が一族の悲願が達成された。
これは礼だ。持って行ってくれ」
「これは?」
「ロロネーが御先祖様、ハヌンに渡した宝のありかを示す地図と鍵の欠片だ。
好きに使えと言われてたみたいだが、俺ちゃんたちの御先祖様は解放者のためにって一切手をつけずに隠したんだとよ」
「鍵の欠片ってことはつまり、他の兄弟にも会いに行って知らせて来いってことでいいのか?」
「ああ、そうだ。それとどっかの家が欲に目がくらんでも、一つの家だけじゃ取れないようにって意味もあるらしい」
「なるほど……。じゃあ、とりあえず貰っていくよ」
「ああ、本当に彼を……ロロネーを解放してくれてありがとう」
最後だけは本当に真面目な表情で、ブーンはブラットたちに頭を下げた。
それから残りのイベント期間。ブラットたちはハヌンに渡されたという宝を探したり、手ごろなアジトを潰したり、小さなイベントを起こしたり、ただぼーと並んで釣りをしたり──三人一緒に最後の最後まで期間限定イベント遊び尽くす。
そうして三人でのはじめての期間限定イベントは、幕を閉じたのだった。




