第七二〇話 厨パでレイド
必要な三つの素材の内の二つが手に入った。あとはいよいよ鬼退治に行くだけだ。
だが隠しボスのレイド戦になるため、二人だけでは厳しいらしいので、一緒に戦ってくれる仲間を募集する必要がある。
せっかくなので港町開発メンバーにも声をかけてみれば、フランソワに加えて小柄な天使の女性『フィオ』、女性の機械人形『D-17β』も興味を持ってレイド戦メンバーに加わることとなった。
フィオは黒葛鬼の黒葛という名前から、植物に関係した鬼なのではないかと、園芸家としての職も取得している彼女は気になったらしい。
D-17βはちょうど強力な鬼の素材があれば、さらに自分の体をアップデートできそうな状況らしく、渡りに船だと参戦を表明してくれた形である。
他は隠しレイド戦には興味を持っていたようだが、ブラットが出したイベントだけあって、相応の力が求められる。
そうなると実力的に、ただの寄生になりそうだからと断った。
レイド戦で無駄死にばかりされると、ボスドロップのレアリティが下がるなど、なんらかのペナルティが発生する場合もあるからである。
職人としては一線級でも、必ずしも戦いに向いているわけではないのだ。
「あとは……お、なんか思ったよりメンバーが集まっちゃったかも。今のところ、この人たちが来てくれるらしい」
「え、なんか大事になってきてない?」
「隠しボスってのが皆気になったみたいだな。興味持ちそうなフレンドにメッセ送ったら、めっちゃ反応あった」
「スティングさんにヘイムダルさん、SUMOーMANさん、ダンガムさん、カブトさんとスネークさん、それにPVP勢のYuitasoさんまでいるし……厨パかなってメンバーじゃない?」
「皆忙しいかなって思ってたんだけど、意外と余裕があったのかもしれない。これは楽勝になっちゃったかも」
「今日は休日っていうのもあるのかもね。まぁ今回はお祭り感覚で楽しもうよ」
「そうだな。それもまたBMOの楽しみ方の一つだし」
ここにはいない、しゃちたんにランランやFuranという、ブラットのパーティといえばな人たちや、はるるんも予定を空けられるようで参加すると返事が来ていた。
なのでスティングたちも、まだ人がいるなら自分たちのパーティやクランメンバーを連れて行けると書いてあったが、今回は本人たちだけでと返しておいた。
あまり多すぎても、それはそれで報酬が下がりそうだと思ったからだ。そうは言っても、大人数ではあるのだが。
ただSUMOーMANの所に限っては、全員が覇天鬼の根源もちで統一したメンバーなため、そこで得られるドロップアイテムが全員分欲しいとのことなので、ここだけフルメンバーでの参戦だ。
「メンバーが足りなさそうなら、ハイエルンの軍から強NPCを呼ぼうかなって思ってたんだけど、その必要もなさそうか」
「えーっと全員で……にーしーろーはー…………二一人もいるからね。その必要はなさそうかも」
戦いができる上位帯のプレイヤーたちが、二〇人以上集まった。ブラットを除けば、上位三指に入るプレイヤーまで揃っている。
いったいどんな化物を倒しに行くのかと言われそうな、そうそうたるメンバーだ。
皆が唐突に降ってわいた祭りに対し、やる気が満ち溢れているのか集合時間も直ぐに決まる。
準備にゲーム内時間で約一時間とり、黒葛鬼たちが封印されている山に近い町のポータルで集合という流れになった。
ブラットとHIMAもいちど拠点に戻って、鬼退治に向けての調整をしてから、遅刻しないよう少し早めに集合場所へと向かった。
「ブラットー! HIMAー! やほやほ」
「しゃちたん、早いね」
「思ってたよりやること早く終わっちゃったから」
「なるほど。あとは……あ、来た。キロロさんだ」
「あ、ブラットさん。今日は面白そうなイベントに誘ってくれてありがとう」
実は準備期間中に、さらに二人メンバーが追加されることとなった。
一人はブラットがはじめて優勝した公式PVP大会で戦ったこともある、魔導学を高度に扱うキロロ。
トンガリ黒帽子に黒ローブといった、いかにもな魔女の恰好をした美人アバターのプレイヤーだ。
あれからも大会で戦うことがあり、そこで魔導学を極めようとする者同士、なんとなく馬が合ってフレンドになっていた。
その繋がりで鬼退治に誘ってみれば、他と少しだけ遅れて参加を希望してきたため追加した。
またもう一人の追加メンバーはと言えば──。
「くっくっく、酷いじゃないか。この魔王研究家である私をさしおいて、死んだはずの魔王なんていう、心くすぐられるレイド戦に誘ってくれないなんて」
「ごめん、そういえばそんな肩書があったことを普通に忘れてたんだよ」
はるるんのクラン──百家争鳴のメンバーでもある『チュニ』。相変わらずのゴスロリ眼帯、片腕に黒い包帯、腰に日本刀、首元にロザリオのネックレスと、中二病全開でプレイしている、機械人形タイプの魔王大好きプレイヤーだ。
ハイエルンにあるブラットの……というより、魔王クロミアのダンジョンをプロデュースしてくれた人物でもある。
そんな彼女からすれば、隠すように封印されていた、本来ならば何年も前に死んだとされる魔王とのレイド戦など垂涎のイベントであった。
はるるんはブラットに確認をとってから、彼女に事情を話せばすぐに飛びついてきた。
チュニには今でもダンジョン運営で世話になっているため、それで喜んでくれるなら安いものだとブラットもすぐにOKを出した。
通行人の邪魔にならないように、ポータルから見える広い場所に陣取って、次々とレイド戦メンバーが集結していく。
関係ないプレイヤーたちも、有名人ばかりが何故か集結しだしたことで野次馬と化して遠巻きにこちらを見ているくらいには、注目され出している。
「おお、ブラット! うちだけ無茶を言って申し訳なかった!」
「いいよ。気にしないでくれ。けどもしそっちで面白そうなレイド戦とか出たら、誘ってくれよ」
「ああ、もちろんだとも! 一番に誘うと約束しようじゃないか」
一組だけフルパーティを許されたSUMOーMANたちも早めにやってきて、申し訳なさそうにブラットに頭を下げてきたが、野暮なことは言いっこなしだとブラットは顔を上げさせた。
「まさか君と共闘する日が来るとはね。楽しみすぎて準備に時間をかけ過ぎてしまったよ」
「ヘイムダルさんも、来てくれてありがとな。それにスティングも」
「報酬がうまそうだからな、参加する以外にないだろ」
「だよな、スティングなら絶対に来ると思った」
ヘイムダルとスティングがほぼ同時に到着し、ヘイムダルとは握手を交わし、スティングとは軽く拳をぶつけ合って笑い合う。
「しかしまた強くなってないかい?」
「進化しなくても伸びてくとか、どうなってんだ。追いつこうとするこっちの身にもなれってんだ」
「ははっ、」
七次進化してさらに離されたと思えば、そこからさらに深淵だの夢の力だの、魔王だの天使だのとできることも増えて強くなった。
それをヘイムダルもスティングも敏感に感じ取り、それでもいつか絶対にと遥か高みにいるブラットを超えることを諦めはしない。
それは他のプレイヤーたちのような、どうせ追いつけないという諦めの感情はなく、むしろ高い壁を見つけてさらに喜んでいるようにも周囲には見えた。
こういう気質だからこそ、一度はトッププレイヤーの座に君臨できたのだろうと同時に感じさせた。
そうこうしている間に、総勢二三名となった有名プレイヤーたちが集結した。それぞれと軽く挨拶を済ませたところで、ちょうど集合時間となる。
「──二二、二三──よし、全員いるな。じゃあ、オレたちに付いてきてくれ」
ブラットたちは、野次馬も遠巻きながら引きつれて近くの山へと入っていく。
どうせ付いてきたところで、参加者と定めたメンバー以外はついてこれないのだから放っておけばいいとばかりに。
人の手が入らず野放図に木々が生えた山の奥へと進んでいくと、ブラットが持っていた割符が僅かに震えだす。
それを手に持つと、不思議とどこに片割れの割符があるのか分かるような気がする。
ブラットは迷いなく、獣道すらない山道を進んでいき、やがて一本の木にかけられた割符を発見した。
「ここだ。えっと……」
「二つを合わせてください」
「OK」
角に巻き付いている白蛇がどうすればいいのか教えてくれる。その通りに持ってきた割符を、木に掛かっていた割符にくっつけた。
割符を持っているブラットしか見えていないため、何をしているんだと皆が興味深そうにこちらを見つめているが気にしない。
ぴったりと木の板同士が合わさると、双方真っ黒に染まっていき、一か所だけ鍵穴のような形の白い部分が浮かび上がってきた。
「開けと、ただ念じてくださいませ」
「──開け」
ブラットがそう呟きながら合わさった割符に念じれば、鍵穴自体がぐるりと一回転して、真っ白に今度は塗りつぶされる。
すると割符が掛けられた木の一か所の空間が捻じ曲がるように大きく膨らみ、全員が通れる暗いトンネルの入り口を作り出した。
ブラットが「準備はいいか」と視線で問いかけるように振り向くと、二三名全員が頷き返してくる。
ならばよしと、ブラットはHIMAと並んで木にできたトンネルへと足を踏み出した。残りの面々も遅れぬように後に続く。
全員が入り切るとその入り口は自動で閉まり、ブラットの手元に割符が転移するように戻ってきた。
後続にいた野次馬たちは、突然消えたプレイヤーたちにいったい何があったのか、何をしようとしているのか、気になってそこらじゅうを探し回ったのだが、結局誰一人としてブラットたちの行く先を辿ることはできなかった。
「おっと、これは聞いていた通りの強さみたいだな」
「まだ遠いはずなのに、背筋がゾクッてしちゃったよ」
「私も背筋なんてないけど、ヤバそうな気配は感じたかな」
「どんな毒を使えば効くのか、その素材でどんな毒が作れるのか、今から楽しみだよ~」
「そんな呑気な……。でもパンダ先生らしいです」
「ランランさんは、どこにいってもランランさんよね」
ブラットのお馴染みのパーティメンバーで固まって暗いトンネルを進んでいると、その先にいた鬼たちが目覚めはじめる。
特に黒葛鬼であろう気配は、遠く離れていてもよく分かるほどで、ブラットも楽しい戦いになりそうだと思わず口元に笑みが浮かぶ。
「抜けた……が、折瀬村? チュニ、聞いたことはあるか?」
「くくっ、ないね。だけど何かしら、黒葛鬼とやらに関係した村の名前なのではないかな。これはさっそく、帰ったら調べないといけないね」
はるるんがトンネルを抜けた先にあった、人の足で踏み固められただけの素朴な細い道に立てかけられた石に彫られていた『折瀬村』という名称をチュニに聞いていたが、やはり魔王研究家といえども、その存在すら知らなかったのだから彼女も知るわけがない。
ブラットたちは、ここからは本格的に警戒態勢に入り、それぞれが自分の得物を構えていつ戦闘がはじまってもいいようにしておく。
村へと繋がっているであろう道に出た瞬間に、悍ましいほどの殺気が向こう側から膨れ上がってきたからだ。
二三人はそれぞれに分けた組ごとに固まり、敵に囲まれぬように横に広く陣取って進む。
道を進むのは、代表者であるブラットたちお馴染みのAsh redのメンバーだ。
他は道から外れ、はるるん、チュニ、フィオ、D-17β、ヘイムダル、Yuitasoの即席パーティ。
SUMOーMAN、OBUGYO!、Osyo、OKITUNE、KUNOICHI☆、
AYAKASHIのI❤︎NIPPONパーティ。
スティング、ダンガム、カブト、スネーク、キロロの即席パーティ。
という具合にまとまって、周囲を警戒して付いてきている。
「いよいよか。奇襲を仕掛けてくるかとも思ったけど、そもそも村の中に閉じ込められてるって形だったんだな」
「ええ、でもそろそろ村の結界は消えますよ。では私は邪魔にならないよう、大人しくしていますので。ご武運を」
白蛇はそれだけ言うと、居心地の良かった角から離れてブラットの精霊鎧ネクロヴァールの下、軍服のポケットの中で丸まった。
眼前には古びた村がある。そして気で作られた簡素な柵の向こう側には、大勢の鬼や妖怪たちが涎を垂らし、早く戦わせろと鼻息を荒くしている。
柵の向こう側にある家々の屋根の上にも、弓矢からはじまり、投擲物や魔法を構えた悪鬼と魍魎たちが手ぐすねを引いて照準をブラットたちだけでなく、その周囲にいるはるるんやスティングたちに向けていた。
「目に見えているのは雑魚なんだろうが、なかなかにレベルが高そうだ。面白い」
ダンガムが機械の体を青く輝かせ、僅かに宙に浮かび出す。
上位勢の彼から見ても、黒葛連と呼ばれた一党の中では雑兵であろう目に見えている者たちですら、気を抜いて相手にできる存在ではなかった。
少なくとも片手間に相手をしていれば、ブラット以外は確実に手痛いしっぺ返しをくらうはめになる。
それが大勢。それだけでこのレイド戦の難易度を示しているが、その雑兵たちの向こう側からは、殺気の柱が立ち昇っていると錯覚しそうなほど濃厚な気配が複数体確認できた。
そちらはブラット以外、一対一ではまず勝てない相手だと誰もが悟るも、面白いと不敵に笑い出す。
ここにいるのは、難易度が高ければ高いほど燃えるプレイヤーがほとんどだ。
臆するどころか、余計に闘志を燃やしてこちらを威嚇してくる雑兵たちを睨み返していた。
そんなブラットたちと敵を隔てていた、柵を境に張られた透明な結界は、次第にひび割れていく。
そのタイミングで村の中にいた巨大な人骨──がしゃどくろが立ち上がり、結界を叩きはじめると、さらにそれが加速する。
「殲滅でいいんだよな? ブラット」
「もちろん。一体たりとも残しちゃいけないからな」
「ならこっちは、こっちでやらせてもらうぜ」
「無駄死にだけはしないでくれよ?」
「誰に言ってるんだ。俺は一度だって死ぬ気はないぜ!」
完全に結界が崩壊した瞬間、スティングはダンガムたちを連れて、雨霰と降り注ぐ遠距離攻撃を超位職【壊獣装者】の力でフォームチェンジし、薙ぎ払いながら村の中へ飛び込んでいく。
「俺だってそうさ! お前たち、行くぞ!」
「早く奥の奴らと戦ってみたいな。じゃあ、行こうか。付いてきて」
SUMOーMANたちのパーティも後に続き、ヘイムダルもはるるんたちを連れて強引に行く手を塞ぐ敵を弾き飛ばして押し進む。
「オレたちも負けてられないな」
「もっちろん。私たちも早くこのお祭りに参加しなきゃ!」
「しゃちたん、張り切るのはいいけど雑魚たちでスタミナ切れを起こさないように気を付けてね」
「事前に聞いていた黒葛三影? とかいうの以外にも、強そうなのがいそうだしね~」
「これだけの面子が集まってるなら、そうそう遅れは取らないでしょうけど、本命と当たるまでは注意しておくに越したことはないわね」
「ですです。特にブラットさんは、黒葛鬼を満足させるような戦いをしないといけないですし」
我先にと行ってしまったスティングたちのせいで、出るタイミングを失ってしまったブラットたちであったが、そのおかげで村の中へ入りやすくなっていた。
柵は砕け、外に打って出るはずだった雑兵たちはさっそく村の中へ押し込まれている。
「分かってるって! じゃあ私からいっくよー! キラッ☆」
しゃちたんは体を虹色に輝かせ、その光を集めた極大ビームを正面に向かって撃ちだした。
本当に力をセーブする気があるのかという威力であったが、星の持つ神秘ではなく、破壊力に振り切りはじめている彼女の攻撃力は伊達ではない。これでも十分に加減した方である。
それでも目の前にいた鬼や妖怪たちの何体かは大ダメージを受けて転がり、そうでなくても爆風で吹き飛んでいた。
「派手だね~」
そしてその爆風にちゃっかりと毒を乗せて、村の奥へと蔓延させていく。
他の突入部隊には、事前に解毒剤を飲ませているので対策済みである。
「突撃だ! オレたちも行くぞ!!」
「だね!」
しゃちたんとランランが切り開いてくれた真正面から、ブラットたちは堂々と敵陣へと踏み込んでいった。
来週はリアルがごちゃごちゃしそうなので、火曜も水曜も更新できそうにないです!
なので次は土曜日更新予定になるのですが、もしかしたら土曜もできない可能性もあります。
その場合は日、月に更新をずらして投稿すると思います。




