第六〇話 親方
あけましておめでとうございます!
船大工と言えば造船所。それらしい場所は素材の交換や買取などで巡っているときに見かけた記憶があったので、まずはそこを目指す。
記憶にあった造船所は、港からすぐの場所にある比較的新しそうな所。
「すいませーん、ちょっといいですかー?」
「お? なんだ坊主、迷子か?」
入るなりブラットが発した言葉に振り返り、とぼけた顔をした半魚人の男性NPCが気さくに話しかけてきた。
「いや迷子じゃない。あのさ船大工の人ってここにいない?
ここって造船所だよね? 作りかけの船とかあるし」
「え? あぁお客さんかい。ここにいるのだとアイツとアイツとアイツ、そんでもって────俺も船大工だぜ」
見た目は純人種だが緑色の肌をした青年、ピノキオのように鼻の長い案山子男、タコ足のマッチョなビキニを上に着たお姉さんの順に指差していき、最後にもったいつけるよう溜めを作ってから自分自身に両方の親指をドヤ顔で当てた。
「ちょっとうざいキャラだな……この人」
「きっとランク1の職人だね」
「見るからにお調子者だからなぁ」
「初対面なのに君たち辛らつだねぇ!?」
「じゃあ、ランクはいくつ?」
「あっちのお姉さんはランク4の船大工だぜ! 坊主。どうだ凄いだろう」
「いやそれは凄いのかもだけど、私らが聞いてんのはハンギョさんのランクだって」
「俺の名前はブーンっていうだぜ。スライムのお嬢さん」
無駄にターンを決めてカッコつけながら、しゃちたんを両手の人差指で指すブーン。
三人は無言で視線をあわせて、こいつはダメだと心でわかりあう。
ブラットはしゃちたんを指したままの指をグイっと押しのけた。
「もういいです。別の人あたるから」
「君たち俺への当たりきつくなぁい!?」
「「「めんどくさいなぁ」」」
「息ぴったりだねぇ!? ……はぁ、これだからおこちゃまたちはせっかちで困るぜ。
俺の船大工としての技量が知りたいんだろ? なら聞かせてやるよ。
俺をランク1だと君らは言っていたが──俺はランク2だ! はっはー! 見習いと一緒にしないでくれ」
「えぇ……なんか反応に困るランクだね」
「ここはランク1か実はランク4でした! とかじゃないとインパクト弱いよな」
「ねー、どう反応すればいいかわかんないよ、これじゃあ」
「……………………泣いていいか? というかここで泣き散らかすぞ? ええんか? 大人のみっともない姿を見せつけてやるぞ?」
「「「………………」」」
「あ、うん、ごめん、ごめんて。謝るから、そんな冷めた目で俺を見ないでくれ。
なんか聞きたいことあるならなんでも答えるからさぁ」
やいのやいの言ってはいるが、ブーンが傷ついた様子は一切ない。相変わらずヘラヘラと笑い、なんだかこちらが遊びに付き合わされた気分にさせられる。できれば聞く人を変えたいところ。
けれど他の船大工の三人──とくにお姉さんはここでは一番上の職人なのか、他のNPCたちに指示を出していて忙しそうだ。
ならばここで暇そうに油を売っている半魚人こと『ブーン』から、まずは話を聞いてみるのもいいだろう。
「それじゃあ聞きたいんだけど、船大工の親方ってどこにいるとか知ってるか?」
「ん? そりゃあ知ってるが……まさか、お前ら親方に依頼しに行くつもりか?」
「そうだけど。なんか不味いことでもあるのか?」
「いやまぁ……親方にやるって言わせられるんなら誰であろうと問題ねぇけどよ。今はちょっと難しいと思うぜ」
「それまたなんで?」
「俺も人から聞いた話なんだが、親友の船乗りが怪我を負って二度と船に乗れなくなったらしいんだよ。
それで親方は意気消沈して、ここ最近はずっと部屋に閉じこもりきりらしい」
「それはまた……」
この流れで行くと、その友人を治すための薬でも用意してこいなどと言われるかもしれない。
怪我の度合いにもよるが、その場合お金には困っていない最高峰の技術を持った職人が用意できない類の治療薬となりそうだ。
そうなった場合、今のブラットたちが用意するには難しいように思えた。
「とりあえず会いに行くだけ行きたいから、場所を教えてくれないか?」
「そうか? まあそのくらいなら別にいいぜ」
お調子者な船大工ランク2のブーンに場所を聞き、邪魔にならないようにさっさと造船所を出る。
どうやら親方は造船所にはいないようで、港町の中央付近にある自宅にいるようだ。
これは話を聞いていなければ、かなり遠回りすることになっていたかもしれない。
「ブーンの話だとここだが……なんというか、お金に困ってない人って話だったからもっと……」
「……うん、それに船専門って言ったって、大工さんなんだから自分で修繕くらいはできそうな気はするけど」
「崩れそうって程じゃないけど、もうちょっとねぇ」
親方の自宅は石壁の二階建て。ところどころ壁がひび割れていたり欠けていたりと、港町に一人しかいないと言われる凄腕の船大工が住んでいる自宅にしてはくたびれている印象だ。
ブーンが誤情報を流したんじゃないだろうかとすら思いながら、ブラットが扉をノックした。
「……返事がない。留守か?」
「でもブーンの話じゃ部屋にこもりきりなんでしょ? ノックが聞こえてないだけかも」
「よーし、じゃあ私がどんどこノックしてみよう。
モンスターをしばいて鍛えたしゃちたん節におののくがいい! そーれ!」
しゃちたんがずずいっと前に出てきて、触手と【スライムチ】で追加された三本目の触手も用いて、ダダダッ──ダダダッ──ダダダッダン! とリズミカルに扉を打ち鳴らす。
これが現実なら家の主人がいなくても、近所迷惑で訴えられていたであろうほどにノリノリで。
「いや、太鼓じゃないんだから……」
「お? でもなんか誰か出てくるっぽいぞ?」
すると家の中からガタガタと音が聞こえてきた。そして──。
「うるっせぇぞこらぁっ! どこのクソガキだっ!!」
「うひゃぁっ!? なんかでた!?」
「なんかも何もこの家の住民でしょうに……。
すいません、うちの子が。後で言って聞かせますんで」
「あぁん? おう、そうか。気を付けろよ」
「あれ? 私はHIMAの子供か何かなの?」
枯れたようなガラガラ声をあげながら出てきたのは、恐そうな人相をした犬獣人のおじさん。
獣ではなく人間ベースなタイプの獣人のはずなのだが、顔はブルドッグに非常に酷似していた。
けれど恐そうな見た目に反して案外いい人なようで、HIMAが頭を下げてすぐに謝るとあっさりと許してくれた。
だが用は済んだとばかりに直ぐ引っ込んでいこうとするので、ブラットが慌てて腕を掴んで引き止めた。
「ちょっと待って! オレたちは親方に用があってきたんだ」
「あぁん? お前たちが俺に? なんだ、言ってみろ」
「オレたちの船の改造をしてほしいんだ」
「あー……そっちの話か。だが俺は今忙しい。他をあたってくれ」
事前に聞いていたような、友人の怪我がショックで引き籠ってしまった状態というようにはまったく見えない。
むしろ気力に満ち溢れ、今にも戦に飛び出していきそうな熱っぽさすら感じる。
これは何か情報の齟齬がありそうだとは思いつつも、何とか家に引き返させないように繋ぎとめる。
「忙しいって言うけど、最近はずっと家にこもりきりだって話を聞いてたんだが」
「家にずっといるのは、家でずっと作業してるからだ。ってわけで、すまんな」
「そこを何とかお願いできないか? 何かやってほしいことがあるなら、オレたちも手伝うから」
「あぁん? お前たちがか? ……うーん、どうしてもオレにやってほしいのか? そもそもやるとしても金はあるのか?
俺は値段以上の仕事をしているっていう自負がある。びた一文、負ける気はねぇぞ」
「お金ならある。ちょうど海賊からとってきたのもあるから、今懐は暖かいんだ」
特に猫のアジトから持ってきた換金アイテムがかなりの値段でさばけたので、それだけでもパーティで管理している所持金はかなりのものになっていた。
だからこそブラットたちはもっと安く済む船大工ではなく、強気に親方を指名しようと思えたのだ。
「……海賊を? お前ら戦えるのか?」
「むしろ戦うことしかできないまである。海賊を倒してお金を稼いでるからな」
「ほう。なら俺がこれから言うやつを倒してきたら、依頼を受けてやる。
どうだ? できねぇならこの話は無しだ」
「ザラタンを倒してくれとかじゃなければ、前向きに検討する」
「ザラタンって……。さすがに俺もそこまで鬼じゃねーよ。
俺が倒してほしいのは『ドン・グリードキャットマン』。この島の近海のどっかに根城を持ってるクソ猫どもの親玉だ」
「「「…………え?」」」
思わず三人顔を見合わせる。どこかで見た名前だなと。
「えっと、もしかしてソイツって海賊帽子をかぶって右目に眼帯してて、そんでもってカットラスを振り回して戦う二足歩行の猫だったりしないか?」
「よく知ってるな。それで眼帯の下にある義眼からレーザーを撃てるってんなら、間違いなく『ドン・グリードキャットマン』だ。
なんだ、あのクソ猫を見たことあんのか?」
猫の首領との戦闘中にはまったく気にもせず、ただ三人の中では首領として通っていたが、よくよく思い出してみれば首領のHPバーの上に見えていたモンスター名がそんな名前だった。
そしてそれはまさに正しかったようだ。
「見たこともあるも……なぁ?」
「うん、そいつなら私らが倒したけど」
「そうそう。私の華麗な反射さばきの前に倒れ伏したもんよ」
「完全なるラッキーヒットだったけどな」
「あれが狙ってできたら、技術だけ見れば上級プレイヤーの仲間入りなんだけどね」
「……いやいや、あいつはアレだぞ。お前らじゃあ、そうそう勝てるような相手じゃ……」
親方の磨かれた職人の目から見たブラットたちの力量は、自分が知っているモンスターが狩れるようには見えなかった。
だがそれと同じくらい、嘘をついているようにも思えなかった。
「──ならそうだ。あいつを倒したって言い張るなら、あいつが落としたアイテムがあっただろ。
そいつを俺に全員分見せられるっていうんなら、倒したってことを認めてやらぁ。どうだ」
「それじゃあ、それを見せて認めてもらえれば、オレたちの依頼も受けてもらえるんだな?」
「おう、二言はねぇよ」
言ったなとブラットたちはそれぞれ、猫の首領戦で手に入れたアイテムを取り出していく。
ブラットは海賊帽子と眼帯を、HIMAは槍を、しゃちたんは装備中の義眼を外し、三人とも見えやすいよう掲げた。
「──っ。おいおい、マジかよ。それじゃあ、ほんとにあのクソ猫をやったってのか!」
「ああ、運がよかったってのもあったけど何とかね」
「なんだっていい! あのクソ猫がくたばったんだからな!」
「なんというかすんごい嫌ってるみたいだけど、あの猫に何かされたの?」
「ああ……、あいつのせいで俺のダチがな……」
「えっと、もしかして酷い怪我を負って二度と船に乗れなくなったって言う?」
「ああ? なんだそれ。俺のダチは襲われて命からがら逃げ帰ったはいいけど、それが心の傷になって船に乗れなくなったって話だ。
しかも許せねぇことに俺がダチのために丹精込めて作ってやった船を略奪して、それを気に入ったのかクソ猫本人が使って他の奴らを襲うようになったんだよ。
本当に忌々しい野郎だったぜ。俺が魂込めて作った船を悪事に使うなんてよお!」
倒したとわかった今でも腹の虫がおさまらないのか、親方は玄関の柱をガンガン叩いていた。
「これは噂がいろいろ混ざって、ハンギョさんの話になったって考えたほうがよさげかも?」
「怪我が原因で乗れなくなったわけじゃないみたいだしね。心の怪我と言われたらそうなんだけど」
「あ、じゃあもしかして家に籠ってなんかやってたのって、猫対策の何かをしてたとかか?」
「おお、よくわかったな、坊主。誰にも負けねぇ無敵艦を作って、俺が自らアジトをぶっ壊しに行こうかと思って設計に専念してたわけよ」
「いや、自分で行くつもりだったんかい。武闘派すぎるでしょ、このおっちゃん」
船大工ってそこまで強いものなの?としゃちたんはブラットたちのほうに視線を向けるが、そんなことは二人も知らないので肩をすくめた。
とはいえ無敵艦を作る必要もなくなり親方は今フリー。ブラットたちは要求も叶えて認められてもいる。
そこでさっそく船の改造の話を切り出した。
「ああ、船の改造な。わかってるっての。俺に任せときな。
じゃあ、とりあえずお前たちの船にどんな改造ができるか確かめてやるから、前金で五〇〇万b払ってくれ」
「「「ご、五〇〇万!?」」」
しかも前金でである。払えるだけのお金はあるが、いったい最終的にいくらになるのか不安になってくる。
今の三人からすれば、前金だけでも大金だ。ちゃんと払いきれるだろうかと心配になるのも無理はないのだが……親方には不思議そうな顔をされた。
「あぁん? あのクソ猫を倒したんなら懸賞金が出たはずだろ?
そこから出せば五〇〇万くらい余裕だろうが」
「賞金……? いや、それなんのことだ?」
「なにって、もしかしてお前らまだ役場に報告してねーのか?」
「うん。というか報告するもんだとすら知らなかったんだけど」
HIMAも他の二人と同様にそんなシステムがあったのかと、そう言って驚いていた。
「なるほどなぁ。どおりで俺にも倒されたことが伝わってなかったはずだぜ」
「報告してたら、おっちゃんにも伝わってたの?」
「そりゃそうだろ。あいつを倒すための無敵艦を作ろうとしてるのは知ってたからな」
「そうなってた場合、オレらからの仕事を受けるための要求も変わってたりする?」
「そりゃあ俺が仕事をするに足る奴らかどうか確かめるためにも、何か別に言ってただろうさ」
「「「…………」」」
これは逆に報告していなくて正解だったと、三人は無言で頷きあった。
けっきょく懸賞金は今からでも貰えると親方が言っていたので、ブラットたちは急いで本当にすぐ近くにあった役場に向かった。
するとあの猫たちの首領の絵が目立つところに張られており、その上には『WANTED』、下には『一五〇〇万b』と賞金額がでかでかと明記されていた。
もし親方探し中に先にこちらに入っていたら、間違いなく懸賞金を貰いに受付に走っていたことだろう。
そうなれば親方に猫の首領討伐の報もいって、ブラットたちはこんなに楽に仕事を引き受けてはもらえなかったはずだ。
討伐証明は親方の時と同じで、猫の首領を倒したときに得たそれぞれのアイテムを見せるだけで済み、即金で『一五〇〇万b』支払ってもらえた。
「けど親方に依頼したらこれほとんど、もしくは全部吹っ飛んじゃうんだろうねぇ」
「下手したら今私らが持ってる、ほぼ全財産搔き集めることになるかもね」
「羽振りがいいイベントだと思って内心喜んでたが、たぶんこういうドカンとお金を使わせるような何かが、あちこちにあるからなんだろうな。このイベント」
だがイベントのポイントは消費されない。例えイベント終了後には一文も残っていなくても、ちゃんと得られるものはある。
なのでイベントを有利に進められるようになるのなら、ケチっている場合ではないだろう。
「親方に船を改造してもらったら、もっとお金も稼いでいこう。
たぶん今後もこういう出費はあるはずだ」
「「だね」」
大金を手にしても浮かれることもなく、ブラットたちはそれをもって親方の元へと再び急いだ。




