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Become Monster Online~ゲームで強くなるために異世界で進化素材を集めることにした~  作者: 亜掛千夜
第六章

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第百四七話 遊園地

 ランランと秘密の取引をかわしてから、休日までの数日間。

 ブラットは、はるるんから聞いた強い、それもブラットが興味を持ちそうなNPCのリストを作ってくれる前に、彼が知っている何人かを教えてもらったので、その中でも一番気になったNPCとのイベントを起こすために必要な条件を満たすべく動き回っていた。

 もちろん【英傑召喚】で、鍛えてもらうことも忘れてはいない。


 その合間合間に零世界に行き、新たに引き取った子──ファフニールの体に負担がない範囲で経験値ポーションを与え成長させてもいた。

 あともう一度経験値ポーションを飲めば、進化できるほどに成長を遂げてくれることだろう。


 そんな数日を過ごした今日は日曜日。

 たいていの学生は休みとなるこの日、色葉はいつもならBMOにダイブしているところを、鏡の前に立って自身の保有するホロコスのデータ一覧から今日の服を選んでいた。葵と約束していた遊園地へ行くために。



「なんとなく、今日はこれかな」



 遊園地に遊びに行くのでアクティブな格好をと、プリーツのはいった黒のショートパンツに、可愛らしいふわっとしたシルエットのブラウスを選択。

 服装が決まったら、次はメイクの時間。太めのスティックのりのようなものを机の引き出しから取り出し、キャップを外して中の乳白色な棒を顔に薄く塗っていけば、顔がやや白っぽい膜に覆われた。

 それが終われば、今度はリップ用の細いスティックを取り出し口にサッと塗る。



「メイクは普通でいっか」



 左耳に着いたイヤーカフ型拡張デバイスを通じて、自身の視界に表示された化粧一覧を操作し、デフォルト設定から少し自分用にカスタムしたナチュラルメイクを選択。

 すると先ほど顔に塗った白い膜が色を付け、あるいは透明に変化し、ほんのりと色葉の整った顔を彩ってくれる。

 リップも目立ちすぎない程度に、薄いピンク色に変化していた。

 色葉の時代のメイクは、たったこれだけでプリセット通りになってくれる。もうメイクで何時間も──ということもない。



「これで良しっと」



 色葉は支度が終わったと隣の家にいる葵にメッセージを送れば、彼女ももう行けるよとすぐに返事が来る。

 ならばと部屋を出て、小さなバッグ一つ持たずに玄関へ。



「あら? 今日はゲームじゃないのね」

「うん。今日は葵と遊園地に行くの。言ってたでしょ」

「あーそんなこと言ってた気がするわ。気を付けて行ってきなさいよ。あと遅くなりすぎないように」

「はーい」



 途中で出会った母と軽く会話をし外へ出れば、ちょうど同じようなタイミングで葵も自宅から出てくるのが視界に入る。

 葵は少し可愛らしさの残る色葉では着こなしづらいであろう、大人っぽい服装でまとまっていた。

 スラリと伸びたモデル体型も相まって、カッコイイ女性といった雰囲気をかもし出している。



「ぐぬぬ、やりおるな」

「やっほ、どうしたの? 色葉」

「いやぁ、葵はそういう大人っぽい恰好が簡単に決まって羨ましいなって」

「私だって色葉みたいな、女の子って感じの服装が似合うのは羨ましいなって思うよ。今日も可愛いね」

「もぎゅっ」



 さらりと褒められ、そのままギュッとハグされ胸に顔を押し付けられる。

 しかし、これくらいでメイクが服に着いたりすることはないので色葉は抵抗することなく受け入れた。


 葵は少しばかりそのまま色葉を堪能し、色葉自身は格好いい方がいいのになぁと、第三者からすれば恵まれ過ぎた容姿を持っているのだから──と文句を言いたくなるようなことを未だに考えていた。


 ようやく解放された色葉は、少し乱れた前髪をちょちょいと葵に整えてもらい、二人で最寄り駅に向かって歩きはじめる。

 その道中、葵がナチュラルに腕を組んできたが、いつものことと気にせずに。



「えっと東京方面だよね?」

「そうそう。こっちだよ」



 腕を絡めている葵に引かれながら改札を通過する。

 その後は大きな透明のチューブ内にある、ミニバス程度の大きさのポッドに二人で乗り込み隣同士座席に腰かけた。


 座席が全て乗客で埋まるとポッドの扉が閉まり、ふわりと車体が浮かぶ感覚がしたかと思えば、一切の振動もなくロケットが射出されるかのように二人が乗るポッドがチューブ内を駆け抜ける。

 数分間二人でBMOについて通話で語り合っていると、すぐに目的地の駅へ到着だ。


 この駅の改札を通るとき自動で自分の口座から乗車賃が支払われ、足を止めることなく駅を出れば遊園地はすぐそこに。

 巨大なアトラクションが、園外からもうかがえる。



「なんか思ったより混んでそうだね」

「だね。けど私たちくらいの年齢の子は見た感じいなさそう」

「そりゃあ私らくらいの子はバーチャルの方に行きそうだし、仕方ないんじゃない?」



 混んでいそうと色葉は言うが、この遊園地の最盛期からすればガラガラと言っていい込み具合でしかない。

 レトロな遊びになってしまったリアルの施設というイメージがあったせいもあり、それでも彼女には多く見えたようだ。


 また入園ゲートに向かう客層は、だいたいが色葉たちの親に近しい年代の人が多かった。

 若い世代は親に連れられてきているような、小さな子しか見当たらない。二人の目立つ容姿もあって、そのせいで余計に注目されていた。

 だが二人は気にせず、ゲートで葵の持つ電子チケットを使ってタダで入園を果たす。



「知らない人が周りに沢山いるってこと以外は、あんまりバーチャルと変わらないね」

「そりゃあ、これを見本に作られてるんだろうし変らないでしょ」



 そうして作られた仮想世界のこの遊園地は毎日のように人で賑わい、モデルとなった本物の遊園地の運営を助けている。

 ゲートを少し歩いたところで、小さな売店を色葉は発見する。



「あっ、頭に着けるやつ売ってる!! ちょっと買っていこーよ!」

「ああちょっと──もう、待ってよ色葉」



 ニコニコと無邪気な笑顔を浮かべ、一人で遊園地のキャラクターをイメージしたデータが入ったカチューシャが販売されているコーナに突っ込んでいく。

 そんな色葉の後ろ姿に可愛いなぁと思いながらも、葵は苦笑しながら後を追いかけた。


 二人は一つ買えば後からネットで別のキャラクターモチーフのデータも購入できる、ホロコス対応のカチューシャを頭に着けいざ出発。

 色葉はリスのキャラクターの耳を頭から生やし、葵は青い水兵帽のようなものを頭に乗せて。


 案内情報にアクセスし、二人でマップを共有しながらどこに行こうかと話し合う。



「これは濡れちゃうみたいだし、乗るなら帰りの方がいいんじゃない?」

「ああ、そっか。リアルだと濡れたら濡れっぱなしだもんね。なら初めは、こっちのジェットコースターに乗ってみない?」

「いきなり攻めるねぇ。じゃあその後は、この上から落ちるやつに行ってみよ」

「いいね。じゃあさっそく行ってみよっか」



 絶叫系も余裕で行ける二人なので、特にどれに乗れないなどということもなく、興味を惹かれた物へと躊躇ためらわず乗っていく。

 バーチャル世界でのこの遊園地には来たことがあったが、それでもどこか新鮮な気持ちでそれらを楽しんだ。



「ねえ、葵。そろそろ、お腹すかない?」

「ああ、もうこんな時間なんだ。お昼ご飯にしよっか」



 当たり前のように仲良く指を絡めるよう手を繋ぎ合い、フードコートへ入っていく二人。

 派手な容姿の二人は他のお客さんたちの視線を奪いながら、メニューへネットからアクセスし、遊園地のキャラクターをモチーフにした料理をせっかくだからと注文する。



「これ美味しいよ、色葉。食べてみる?」

「うん、ちょうだい」



 葵から差し出されたフォークに刺さったワッフルを、躊躇ためらうことなく色葉は口にする。

 外はカリッと中はワフッとした生地とともに、メープルシロップの甘い香りと味が口の中に広がり、色葉の顔がふにゃっととろけていく。その顔を間近で見て、葵も幸せそうだ。


 今度はお返しにと色葉も自分のピザを切り分け、葵に食べさせてあげる。嬉しそうに頬張る葵を見て、色葉も嬉しそうに笑った。



「あ、ほっぺにピザソース付いてるよ、色葉」

「え? どっち?」

「こっち──」

「ん?」



 布巾で取ってあげれば済むというのに、葵は平然と自分の口を近づけチュッとキスをするかのように色葉の頬っぺたについたソースを拭い去る。



「もー、他の人もいるんだから普通に取ってよ。恥ずかしいじゃん」

「ふふふ、小さい子供みたいに、ほっぺに付けてる方が悪いんだよ」

「大人だって付いちゃうときは付くよ、まったく」



 抗議はするが別に嫌そうな気配はなく、内容も人目を気にしてのことだけでやったこと自体は何とも思っていない。

 その対応も含め、はたから見れば二人はカップルでしかなく、こういうことをナチュラルでやっているからこそ、親兄弟ですら付き合ってると思うようになったということを色葉は知らない。


 終始、色葉からすれば親友同士のじゃれあい、他からすればただのイチャイチャをたっぷりと周囲に見せつけながら無事に完食。

 満たされたお腹に満足しながら、頼んだ飲み物を口に付け二人は人心地ひとごこちつく。



「うーん、最初はどんな感じなんだろうって思ってたけど、別にリアルの方も悪くないね」

「そうだね。けどやっぱり、リアルより便利なことも多いし、何よりいくら食べてもバーチャルだったら太らないじゃない?」

「あー……けっこうそういう人増えてきたって、お父さん言ってたなぁ」

「そっか、色葉のお父さんは調理ロボットの開発担当だっけ」

「そうそう。最近の若者はリアルの食事はタブレットですませて、バーチャルで美味しいものを食べるようになってるってボヤいてた。

 リアルの体あってこそのバーチャルなんだから、もっとちゃんと食べたほうがいいだろうにって」

「あはは、私もそれ言ってるの聞いたことあるかも。

 でもバーチャルダイエットとか言って、けっこう流行はやってきちゃってるよね」

「みたいだねぇ」



 色葉は親の方針もあり、しっかりとリアルの方で栄養管理された料理を食べていることもあって、困ったもんだよと肩をすくめた。




 それからも二人は仲良くアトラクションを回っていき、辺りが暗くなりはじめるまで目一杯楽しんだ。

 このまま完全に夜まで残ってナイトパレードをと、しゃれこみたいところではあったが悲しいかな二人はまだ学生。

 遅くまで出歩くわけにもいかないと、出口を目指して進みはじめる。



「こういうのを考えると、やっぱバーチャルの方がいいなぁって思っちゃうかも」

「そっちならリアルの体は家にあるし、いくら遅くなっても親に怒られることもないからね」

「おっと、葵──」

「何──きゃっ」



 葵が色葉を見て少しよそ見をしていると、他の来園者にぶつかりそうになったので色葉が引っ張って自分の方に軽く抱き寄せる。



「ご、ごめんなさい」

「い、いえ、こちらこそ……」



 ぶつかったわけではないが礼儀として謝れば、向こうも不注意であったのは変わらないと謝罪しつつ、色葉と葵の容姿に見惚れながらそそくさと去って行く。



「もっと周りを見ないとだめだよ、葵」

「うん、ありがと色葉」



 抱き寄せられた距離のまま葵は自ら、より密着しながら色葉の頬にキスをしてお礼を言う。

 またこんなところでそんなことを……とは思いながらも、まあいいかと葵と手を繋ぎながら先導していく。


 そんな凛々しい色葉の姿を葵はぼーと眺めながら、より今日のデート(葵の中では)で感じていたことを口にする。



「なんか色葉さ。最近カッコイイっていうか、凛々しいっていうか。男前になってる?」

「え? 男前? 私は女だよ」

「そんなこと分かってるよ。何度一緒にお風呂に入ってると思ってるの。今日一緒に入る?」

「いや、お風呂て……。まあ別にいいけど」

「やった♪ けど実際さ、今日アトラクションを周ってるときも、さりげなくエスコートしてくれたりとか、私のことをなんか女の子扱いしてるっていうかなんというか……」

「女の子扱いって、葵だって女の子でしょうが」

「そうだけど、そうじゃなくて。あーもう、なんて表現すればいいんだろ」



 言葉にしづらい微妙な変化であるが、色葉のことを知り尽くしている葵からすれば、やはり微妙に性格が変わったように思えた。

 思えば服装もそうだろう。以前までの色葉ならば、こういう施設に遊びに行くときはショートパンツではなくミニスカートを選んでいたはずと、葵の中でよりその変化が明確化していく。



「もしかしてBMOでずっと男の子やってるから、そっちに引っ張られちゃってるとか?」

「いやいや、そんな精神的な変化が出ちゃったらダメでしょ。

 そうならない技術をEW社が開発したから、リアルではありえない世界も私たちがやれるようになったわけ────だし」



 色葉の中に一つ思い当たることが浮かび上がり、一瞬言葉が詰まってしまう。



(確かにBMOっていうゲームの方は、リアルとバーチャルはきっちりと区別して、精神に影響のないようになってるのは間違いないはず。

 じゃなきゃ国がその技術を認可することだってなかっただろうし。でも零世界の方は……?)



 あちらは現実だ。大企業の最先端技術の範囲内に収まっているBMOならばまだしも、零世界までその技術で守られているとは考えづらい。



(もしかして、本当にこっちの私が零世界のブラットの影響を受けちゃってる?

 いやいや、でもどっちも私は私だし……だからって何がどうなるわけでもない…………よね?)



 色葉もブラットも中身は同じ人物。それに少しばかり精神的にブラットという存在に引っ張られたところで、こちらで心まで男になることはないだろう。

 零世界にいるときは薄まってしまうが、こちらでは色葉であるという確固たる自我があるのだから。

 だがしかし、少しだけ不安な心が彼女の胸によぎってしまう。



「色葉?」

「ううん、なんでもないよ。それより早く帰ろ。けっこう暗くなってきちゃってる」



 そのことを悟られないように、色葉は葵の手をより強く引っ張った。



「あっ、ほんとだ。ふふっ、でもまあ色葉がカッコよくなろうと可愛くなろうと、私はどっちだって大好きだからね?」

「はいはい、ありがと」

「色葉は、私がカッコよくなっても、可愛くなっても好きでいてくれる?」

「どんな葵だって葵だよ。それは絶対に変わらない」

「じゃあ好きってこと?」

「はいはい、好き好き」

「なにそのテキトーな返事ー!」



 多少強引ではあったが既に別の話に切り替わり、葵に不安な心を悟られることはなかった。



(帰ったら、ちょっと鈴木小太郎に聞いてみよう)



 だが家に帰るまで、その小さな不安が消えることはなかった。

次は火曜更新予定です!

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