第百二七話 鬼ごっこ開始
鬼ごっこの会場となるフィールドは、夜のゴーストタウンといった風景。
コケやツタに覆われた家屋があちこちに立ち並び、木々や植物もあちこちに野放図に生え、逃亡側が隠れる場所には事欠かなさそうではある。
明かりは本物のゴーストタウンであればおかしいが、ここはそういう夢の世界だからとばかりに頼りない明るさの街灯があちこちにあるので完全な暗闇ではなかった。
五人はすぐに物陰に隠れながら、一番最初にやらなくてはならないことを速やかに済ませていく。
『あーあー、聞こえるかー?』
『問題ないよ』『大丈夫です』『おっけーだよ』『聞こえるよ』
はるるんからの通話に、ブラット、HIMA、しゃちたん、サクラがほぼ同時に応じる。
最初にやるのは当然ながら通信チェック。プレイヤーに許されたBMOでのチートツールとでもいうべき通話機能。
これさえあれば、どこにいようと互いの情報を交換し合える。
中にはこれを絶って縛りプレイを楽しむ者もいるが、通話に関してはブラットにとってもあって当然の機能なので気にせず利用する。
『じゃあ私が見て回るから、いざというときのフォローはお願い』
『おっけー、サクラさん。じゃあ、オレは見つからないようにあちこち確認して回ってみようかな』
サクラは重要な役割を持っているので、すぐさま動き出し、他のメンバーは邪魔をしないように周辺確認に徹する。
『こういうランダム生成される場所で、優秀なマッパーがいるのは本当に助かるね』
『だな。オレみたいな素人がやると大雑把になるけど、サクラさんのはメチャクチャ正確だし』
『私も見たことあるけど、すっごい綺麗だったなぁ』
『わっはっは、俺の彼女は凄いだろう』
『もう、何言ってるの? はるるんは……まったくもう』
サクラもまんざらでもなさそうに聞きながら、アラクネの隠密性と機動力を生かしてメモアプリを立ち上げ、フィールド内を駆け回りはじめる。
彼女のメインとなる活動は衣装づくり──縫製となっているが、それ以外に製図家と罠師という二つの特技も持っていた。
そのどちらも縫製でも役に立つスキルがあったからでもあるが、はるるんがクラマスを務める『百家争鳴』のデータバンクに保存されている地図情報、その他のプレイヤーに公開する地図情報として、そのほとんどに彼女の地図が用いられるほど信頼性は高い。
サクラを見送りながら他の四人も固まっていてもしょうがないと、四方向に散らばるように離れていった。
ブラットは茂みに潜みながら音を立てないように慎重に移動し、何かないか探っていく。
するとそこそこ歩いたところで、足に何かがコツリと当たった。
(うえぇ……頭蓋骨だ。あ、でもこれって)
茂みの中にひっそりと置かれていたソレは、人骨にしては少し大きな頭蓋骨。
よく見ると妙な黒いオーラを出し、禍々しさ全開な呪いのアイテムにしか見えない。
『はるるん。頭蓋骨の設置物は壊したほうがいいんだよね?』
『もちろんそうだが、頭蓋骨が真円形だったり、欠けてたり大きな亀裂が入って割れてたり、下あごがなかったり、どこかに三センチくらいの穴が開いてたりした場合、それは全部フェイクだから気を付けろ。
壊すと、でかい音を鳴らして死神に居場所がバレるからな』
『あー……なんかそんな説明もあった気がする』
ブラットが見つけた頭蓋骨は【致命の頭蓋骨】と呼ばれるオブジェクトで、その近くで死神の斬撃を受けた場合、一撃で行動不能にされてしまう。
もしこれに気が付かず一回くらいなら受けてもいいだろうと油断してしまうと、一撃で捕獲されて檻に入れられてしまうのだ。
これは本物なら破壊しても死神にバレることはないアイテムなので、見つけ次第、積極的に破壊していったほうがいい。
ブラットは、はるるんから言われた特徴を確認して、本物だという確信を持ったところで、手から魔刃を出して縦に切り裂いた。
パカっと左右に分かれて転がり、頭蓋骨は粒子となって消えた。
『よし。さっそく一個、頭蓋骨破壊』
『『『『ナイスー』』』』
一つ落ちていれば、その周囲に二つ目があることはないので、その位置を覚えておきながらブラットは、さっそく目についた二階建ての廃屋に近づいていく。
茂みから少しだけ頭を出し、慎重に周りを確認し、廃屋に何もいなさそうなのも見てからサッと飛び出し、開きっぱなしだった玄関から中へと身を滑らせた。
(ふぅ、何もいないよね? じゃあ、まずはここを探索していこう)
家財道具は何故か残ったままで、まるで一夜にして住民だけが消え去り何年も経った町とでも言いたげな内装が広がっている。
足音を鳴らさないよう注意しながら薄暗い部屋を探索していき、脱出のための何か、そうでなくても身を助けてくれるアイテムの一つでもと探していると、HIMAからの通話が入った。
『死神がいた! 私が行った方にいるから気を付けて!』
ブラットとHIMAはそれほど違う方角に進んだわけではないので、自分も気を付けなければと考えながら返事をし、一階の探索を一度切り上げ二階へと上がっていく。
二階へ上がるとHIMAが行ったであろう方角にある部屋に入り、身をかがめながら割れた窓から外をコッソリ覗き見る。
『こっちでも遠目に確認できた。今はなんか特に目的なく彷徨ってるだけっぽい』
『ずっと見てると視線に気が付かれるから気を付けて』
『わかってるよ、サクラさん』
その説明もちゃんと覚えているので、ブラットは遠目に見える黒いボロのローブと、身の丈ほどもある大鎌を持った空飛ぶガイコツから視線を外した。
進む方角的にブラットのいる建物から離れていっているようなので、物音には気を付けながらも多少大胆に部屋にあるクローゼットから棚、ベッドの下まで探していった。
結果、斬られた際の鈍化効果を無くす【解呪のポーション】が四つ。
死神の顔にかければ、その視界を五秒封じる【聖灰】と、目の前で炸裂させれば死神の動きを数秒止められる【ホーリークラッカー】が一つずつと、物資が少し潤った。
『ポーションは、けっこう集められるっぽいのか?』
『ああ、【ホーリークラッカー】もそうだが、一度使うと一〇秒使えなくなるからな。
──っと、ちなみに今、死神は俺の近くにいるぞ』
連続で使えるなら死神から逃げるときも、ゾンビ戦法で引き付けられるかもしれないが、そうではないので沢山あってもそこまで簡単にはならないのだ。
ブラットは廃屋を出て、隣に立っている小さな物置小屋も念のため確認しに向かう。
(はるるんの方角にいるなら、最初に分かれた方角からしても、私から離れた場所にいるはず)
物置小屋は入り口が閉じており、まったくの無音で開けることは不可能だったのでためらっていたが、今ならいけそうだった。
こういう所に良い物があるに違いないと、ブラットはゴトゴトと小さな物音を立てながら、建付けの悪くなったボロの扉をこじ開けた。
(えぇー……ハズレかも? 農具とか掃除道具くらいしかないじゃん)
鍬や鎌、スコップや大きなハサミ、猫車やランタンなどなど普通の道具が入っているだけで、この試練に役立ちそうなアイテムはどこにもない。
せっかく扉を開けたのにと物置小屋を後にしようとした──が、一瞬足元に違和感を覚え立ち止まった。
(なんかここだけ、踏んだときの感触が違うような?)
下はホコリが積り視覚ではわからなかったが、ブラットの繊細な感覚は違和感を覚え、足でその辺りを払いながら探っていくとハッチを開くための取っ手が見えた。
『はるるん。まだ死神はそっちにいる?』
『ちょっとずつ離れていってるが、ブラットからはより離れていってるぞ』
ハッチの蝶番は錆びついているので絶対に音が鳴る。だが今ならばとブラットは取っ手を持ち上げ、ギギッ──ギギギッ──と少し大きな甲高い音を鳴らしながら開くことに成功。
中には地下へと続く階段のようなものがあった。
『なんか地下通路を見つけたから、ちょっと入ってみる』
皆からの「気を付けて」という言葉を通話で聞きながら、ブラットは物置小屋にあったランタンを手に取り地下へと乗り込んでいく。
ランタンはMPを使えば灯るゲーム仕様なので、火などの必要もなくすぐに周囲を照らしてくれる。
あちこち崩れている階段を踏み外さないよう注意しながら降りていくと、細く暗い通路が先へと伸びていた。
死神以外の敵性モンスターはまだいないはずなので、ブラットは警戒しながらもランタンの明かりを頼りにどんどん進んでいく。
すると地下通路の途中で右側に開けた空間を発見した。
このまま通路を行くか、先にここを確認するか一瞬迷ったものの、気になったので右側の空間の方へと足を踏み入れる。
(あれは……?)
その開けた場所には中央に何かがポツンと置かれているだけ。なんだろうとランタンを向けると、そこには★のマークが描かれた台座があった。
『黒い星の台座を発見した! 初期地点から少し行った物置小屋の地下にある!』
『ブラットくん。もうすぐ簡易マップが完成するから、それを見て大よその位置を共有できるようにしておいてくれる?』
『初期位置とサクラさんが行った方角さえわかれば大丈夫だと思う』
『うん、なら問題ないね。それも書いておくから』
『ブラットが一番乗りかぁ。私もがんばらないと!』
しゃちたんもブラットの報告でより気合が入ったようだ。通話ごしにも、それが伝わってきた。
微笑まし気に口角を上げながら、ブラットが他に何かないか周りを入念に確かめていくと、台座から見て右手側の壁に不自然な溝が薄っすらあることに気が付いた。
これは絶対に何かあるとブラットはその溝に手を這わせ押してみれば、忍者扉のようにくるりと壁が回転し、その裏側に隠された小さな部屋に行きついた。
(アイテムが沢山がある!)
小部屋には棚が一つ置かれ、そこに【解呪のポーション】が五つ、【聖灰】が二つ、【ホーリークラッカー】が三つ、そしてこのフィールドに三対しかない【ワープリング】が一つ収められていた。
【ワープリング】は二個で一対の金のリングで、壁や地面などに張り付けることで、対になっている片方のリングへプレイヤーを転移させてくれる便利アイテム。
ただし一度設置すれば再設置は不可能。片方だけでは機能はせず、死神が破壊できるアイテムなので、双方見つからないところに設置しなければ貴重なアイテムを無駄に失うことになるので注意しなければいけない。
そんなアイテムを見つけたことを報告すると、とりあえずは温存するためブラットが持っていることに決まった。
そうこうしている間にサクラも簡易マップを完成させ、画像データをブラットも受け取った。
『ありがと、サクラさん。けっこう横長のマップだったのか』
『それに思ってたより広いかも』
慌てて誤報を流さないように横軸は左から右に増えていく数字で、縦軸は上から下に進むアルファベットで表記されていた。
ブラットが言った通り東西に伸びた、横軸は『33マス』縦軸は『18マス』の横に長いマップ。
そこに大よその目印になる建物の位置が記載されていた。
『私たちの初期地点は3E辺りで、私はそのまま北に向かって地図を書いたの。
迷ったらマップのど真ん中に大きな黒い塔が建ってるから、それを目印に方角を確かめてみるといいかも』
『う~ん……、この中から七個の台座を見つけて起動しなくちゃダメなんだよねぇ。
なかなか大変────って、あった! 白のダイヤのカギがあったよ!!』
『しゃちたんナイス!』
ブラットに続いて、今度はしゃちたんが『◇』のカギを発見。こちらは無くさないように、彼女が持ち歩くことになった。
『オレの見つけた黒の星の台座は、4H辺りにある二階建ての建物の横にある、物置小屋の地下を行った場所だ』
ブラットはサクラの向かった方角から自分の進んだ方角を算出し、地図に描かれた建物の位置から現在地を割り出し報告しつつ、まだ行っていない通路の先へと進みはじめる。
分かれ道もなくしばらく進んでいると、また上に上がる階段が見つかり、降りてきたときのようなハッチもその先にあった。
『今、死神の場所が分かる人いる?』
『さっき通ったとき7Bの辺りにいたよ』
『ありがとう、しゃちたん。なら大丈夫かな』
多少のズレはあるだろうが、ブラットが入った物置小屋から地下は真っすぐ東に向かって伸びていたはずので、地図で言えば7Bは7マス上ということになる。
これだけ離れていれば多少、音を立ててもいいだろうとブラットはハッチをゆっくりと開いていった。
こちらもやはり錆びついていて、どんなにゆっくり開いても音が響く。
(頼むから来ないでくれよ……)
ハッチの隙間から周囲を見渡し、死神がいないことを確認してから外に出る。
場所は同じような物置小屋の中。建付けの悪い扉がやはり閉まっていたので、こちらもガタガタと少し音を立てながら開き外に出ると──。
「ケタケタケタッ」
「──っ!?」
物置小屋の扉からは見えない横で待機していた死神の笑い声が、ブラットの耳に届いた。
左横に振り向けばドクロの顔で笑いながら、既に大鎌を振り降ろしているところ。このままでは確実にヒットする。
まだ距離はあったはず──という思考が持ち上がってくる中、ブラットは無意識的に先ほど手に入れた【ホーリークラッカー】を手に出し紐を引っ張った。
自画自賛したいほど体はちゃんと動き、死神はパンッという破裂音と共に飛び出した閃光で怯み大鎌を途中で止める。
「ケケッ!?」
『──っ!! 見つかった!!』
『『『『ええっ!?』』』』
四人の反応に構っている暇はなく、ブラットは死神から全力で逃げだした。
まだ目がくらみフラフラした状態だが、ブラットの足音の方角にゆっくり進みはじめ、死神がそれを追いかけはじめる。
その途中ブラットは何故ここに死神がいたのか、その原因を発見した。
それはドクロが先端に付いた細長い杭で、死神はこれを使って転移ができる。
四つは固定場所に設置され、残りはフィールド内にランダム生成されるのだが、どうやらあの物置小屋の近くに生成されていて、運悪くそれを使ってここに来たところにブラットが音を立ててしまったようだ。
「こいつのせいかっ!!」
「ケケケケッ!!」
この杭は破壊すると大きな音を立ててプレイヤーの位置を知らせてしまうが、バレているなら関係ないとブラットは通り抜けながら【狼爪斬】で蹴り倒す。
キーーーーーンと耳障りな大きな音を立て、後ろで死神が激怒しているが知ったことではない。
「これはやばいなっ」
次第に死神も調子を取り戻し、どんどん加速しながらブラットとの距離が詰まっていく。
手持ちのアイテムでどうにかできないか考え、ブラットは一か八かの策に出る。
【針触手】を出して死神の位置を正確に把握しながら、あえてこちらから速度を落とし準備を整えながら、茂みの深い場所に入り込んでいく。
姿は茂みで隠れても走っているので居場所はバレバレだ。だがそれでいいと限界まで死神に距離を詰めさせ──。
「くらえっ!」
「ケッ──!?」
振り向きざまに【聖灰】を顔面にお見舞いし、相手の視覚を五秒封じる。
その間にブラットは死神から距離を取ると、先ほど速度を落としながら器用に幽機鉱の翼で拾い集めていた道中の石を、さっきまで進んでいた方角に向かって連続で投げていく。
それは聞きようによっては足音にも聞こえなくないリズムで、怒り狂っていた死神は逃がしはしないと、まともに確認もせずにその方角へ目が見えないまま飛んでいく。
ブラット自身は石を投げながらも、できるだけ音を立てないよう茂みに隠れ、その後ろ姿を見守った。
「ケケケケッケゲゲゲゲケケーーーーーーーーーーー!!!」
視界を完全に取り戻すと、死神の周りには誰もいなかった。
頭を忙しなく動かしながら周囲を探すが、ブラットはもっと後方だ。
追いかけていた、近くにいると思っていた相手が突如消えたような錯覚を起こしながら、死神は怒りの咆哮を上げながら、ブラットのいない方へと飛び去った。
(よっしゃ、うまくいった…………けど危なかったぁ。
あいつ思ってた以上に速いわ。次に追いかけっこするときは、もう少し準備しておかないとだね)
次は火曜更新です!




