第8話 農業改革!
城に戻ったマーガレットは、さっそく報告書を作成する。
その中でマーガレットが提案した改善策は2つある。
まず、種をまくときに畑の両側に等間隔に紐を張り、適度な間隔を保つことだ。そうすることで、日当たりや風通しが良くなって病害虫を予防できたり、雑草取りや収穫作業がしやすくなる。
次に、麦類以外の作物を栽培することだ。
前世の知識があるマーガレットには、寒さに強い作物に心当たりがあった。
報告書を書き上げたマーガレットは、アーサーに提出するべく彼の書斎を訪ねた。
「アーサー様、視察の報告書をお持ちしました」
「早いな、もう出来たのか」
アーサーは驚きながらも、マーガレットから報告書を受け取った。
しばらくペラペラと読んでいたが、読み終わるとマーガレットに質問した。
「貴女の考えだと、種を等間隔にまくことと、栽培する作物の種類を増やすことで、収穫量が増えるということか?」
「はい、他の領地のようにはいかなくても、今よりは収穫量の増加が見込めるはずです。新たに栽培する作物には、寒さに強いじゃがいもや葉物野菜、根菜類をおすすめします。必要なものは辺境領の予算で購入し、農民たちに支給します。一時的に出費が増えますが、いずれ他の領地から購入する食料が減ることを考えれば問題ないはずです」
アーサーは腕を組んで考えていたが、うなずいた。
「分かった。さっそく領地に触れを出そう」
「ありがとうございます。お触れの内容は『新しい栽培方法についての説明会をする。誰でも参加可能。軽食も用意してお待ちしています』というような内容に下さい」
「説明会をするのか?」
「はい。ただお触れを出すより、説明会をすれば農家の皆さんからの質問にも直接答えることが出来るので、認識の違いをなくせます。説明会にはアーサー様にも出席していただきたいので、日時はアーサー様のご都合に合わせてください」
マーガレットの思いがけない依頼に、アーサーは驚いて顔を上げた。
「私も出るのか!?」
「アーサー様が出席されることで、領主のお墨付きだということを示せるので」
「…私は人前に出るのは苦手なんだが…分かった」
アーサーは渋々といった感じで了承してくれた。
説明会当日。
(そこまで期待してなかったけど、結構集まったな~)
マーガレットは集まった農民たちを前に心の中で呟いた。
集まった農民は全体の約4分の3。一家に一人来てくれれば御の字だと思っていたマーガレットにとっては、いい意味で予想外だった。中には家族連れもいる。やはり、軽食という「アメ」が効いたようだ。
「用意する軽食の数を増やすように、厨房に伝えてちょうだい」
マーガレットは、側に控えていたアンに指示を出す。
アンが厨房に行くのと入れ違いに、アーサーが姿を見せた。
「かなり出席者がいるようだが、軽食は足りるか?」
「ちょうど、アンに軽食を増やすよう、厨房に伝えにいってもらったところです」
マーガレットがそう言うと、アーサーは苦笑した。
「そうか。さすがはマーガレット嬢だな。用意がいい」
そんなことを話しているうちに、説明会の定刻になった。
アーサーが農民たちの前に進み出て、挨拶を述べる。
「集まってくれた諸君には感謝する。今日は、私の婚約者であるマーガレット嬢から、新しい栽培方法について説明がある。しっかりと聞くように」
挨拶が終わると、マーガレットは用意していた資料を農民たちに配布する。全員に行き渡ったのを見計らって、説明を始めた。
「…このような栽培方法をすることで、皆さんの負担が減るだけでなく、収穫量の増加が期待できます。この方法を試していただきたいのですが、何か質問がある方はいらっしゃいますか?」
マーガレットの問いかけに、農民たちは互いにざわざわと話し出した。
しばらくすると、1人の男性がおずおずと挙手をした。
マーガレットが促すと、男性は口を開いた。
「私ら農民には、十分な貯えがございません。貴女様が提案して下さった方法は良いと存じますが、紐や新しく栽培する作物の種を買うと、毎日の食い物が買えなくなります」
男性の訴えに、マーガレットはにっこりと微笑んだ。
「もちろん、必要なものは辺境領の予算で用意します。辺境伯様も了承済みです」
マーガレットがちらりとアーサーに視線をやると、アーサーはうなずいた。
「他に質問はありますか?」
マーガレットの再度の問いかけに、農民たちは相談を再開したが、質問は出なかった。
マーガレットはパンパンと手を打って、注目を集める。
「それでは、お待ちかねの懇親会にしましょう。軽食を用意しているので、楽しんでくださいね」
マーガレットの言葉に、農民たちから歓声が上がった。




