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散文詩 87 「花泥棒」
日々、心に残ったことを文字にしてみた
「花泥棒」
農家で直売している野菜を買う。
今日は桜の花が売っていた。
春が来たなぁ、と一束買って自転車に乗った。
花瓶はどんなのがいいか、どう活けたらいいか、楽しく思いを巡らせた。
スーパーで買い物をして自転車に戻ると
カゴに入れておいたはずの桜が消えている。
盗まれた。
昔一度、自転車のカゴに置いたスーパーの買い物袋を持っていかれたことがある。
仕事帰りに海苔巻き、総菜、牛乳など買って、手抜きの夕飯にするはずだった。
ショックで疲れが倍増した。
それ以来、カゴに置きっぱなしにするときは自転車に括り付けたり、
盗られないように気を付けていた。
しかし桜は袋に入れることもできず、括り付けることもできなかった。
迂闊だった。甘かった。隙があった。
人の物を盗む人の心はどんなだろう。
桜を愛でる心と人の物を盗む心は共存しているのか。
桜が売れ残っていないか、もう一度農家に行ってみた。
もうなかった。
さっき買った時に立ち話をした農家の人に盗まれたことを話した。
誰かに聞いてもらいたかった。
農家の人は、ちょっと待ってて、と脚立を立てて
高枝切りばさみで頭上の桜の枝を一本切って、
お金も受け取らずに桜を分けてくれた。
私は有難くいただいてきた。
いろんな心に触れた一日だった。




