散文詩 32 「おばちゃん」
日々、心に残ったことを文字にしてみた
「おばちゃん」
私の伯母(母の姉)は陽気な人だった。
戦争の食糧難を経験したせいか、食べることが大好きだった。
だからデブだった。
よく笑っていた。
笑うとおなかの肉が生き物みたいに上下していた。
従兄(伯母の息子)が小さい時、道の真ん中で自転車に乗っているのをみつけて、
「危ないから端によけなさい!」と伯母は道の真ん中で大声で注意していた。
大きな身振りで息子を叱る伯母の後ろには、
大きなトラックが先に進めないのに
クラクションも鳴らさず困ったように止まっていた。
私はその光景が忘れられない。
交通量も少なくのんびりした時代だった。
どこかから掛かってきた電話に伯母が出た。
するとおばちゃんは「♪母のんきだねぇ~~♪」と一節歌って、
「会社の人だって。」と言っておじちゃんに受話器を渡した。
子供の私は何が起きたのかわからずきょとんとしていた。
電話で歌を歌う人を初めて見たからだ。
いまだになぜ伯母が一節唸ったのか謎である。
そんな伯母に私は生まれてからしばらくの間預けられていた、らしい。
記憶がないが、そうらしい。
私を産んだ後、母が腰の手術で長期間入院しなければならなかったからだ。
伯母は母のように子供への愛情が粘着質ではなく、さっぱりした人だった。
それでも事あるごとに「私が面倒みるよ」
と私のことをいつでも引き取ると言っていた。
『パパと呼ばないで』という杉田かおるが子役として出演していたドラマがある。
何十年ぶりかで再放送を見た。
脚本は尊敬する大好きな向田邦子。
杉田かおる演じる「ちー坊」は母親一人に育てられていたが、
母親が亡くなり葬儀の後、誰が引き取るかと親戚が話し合いをする。
誰も「ちー坊」を引き取ろうとしない。
そして母親の弟が独身なのに「ちー坊」を引き取ることになって物語が始まる。
「ちー坊」が暮らし始めたのが下町のお米屋さん。
その家族が赤の他人なのに「ちー坊」をわが子のように可愛がってくれる。
お米屋のおかみさんが寅さんのおばちゃん役の三崎千恵子さんだ。
この人に私の伯母が重なって、私は思わず泣いてしまった。
親以外に自分のことを大事に思ってくれる人がいることの有難さに涙が出た。
私を育て、引き取ると言ってくれた伯母に何も恩返しができなかった。
ただただ有難く、有難く、感謝している。
おばちゃん、ありがとう。




