11
見渡す限り一面砂しか無い空間を大型のトラックが走っている。揺れる荷台には荷物と一緒にアサヒ、フユ、ハスミ、ヨルガが乗り込んでいた。
ハスミが不機嫌そのものの顔で呟いている。
「外がなにも見えない。つまらない」
「仕方ないでしょ!荷物の運搬用の車両しかないんだから!」
膨れるハスミにヨルガが喚く。それでもプイッとそっぽを向いて不機嫌なままのハスミにヨルガはお手上げ状態だ。向かいに座るアサヒはその光景に呆れている。
「この2人はいつもこんな感じなのか?」
「う〜ん。まあ、いつもヨルガがハスミに振り回されてるね」
答えるフユも苦笑いだ。
そうしてギャーギャー騒ぐ2人を見るのに飽きてきた頃に、目指していた食料の生産拠点に到着した。
ココ達と話をしたのが今から1週間前。まだ自分の意見を決めきれずにいたアサヒは、そのままハスミにも話を聞きに行った。するとハスミは自分がコピーであろうと人が滅んでいようとどうでもいいらしく、ただ軍の今まで入れなかった所や他の拠点を見たいと駄々を捏ねていた。
結局一度言い出したら聞かないハスミにヨルガが折れ、上にかけあって食料の生産拠点の見学が許可された。それを聞いてアサヒも一緒に行きたいと言い出したのだ。
「悩むなら、きちんと色んなことを知って悩みたい」
その言葉にアサヒの葛藤を間近で感じているフユはすぐに上にかけあい、今回の同行が許された。
「そもそも上って何なんだ?機械兵達とは違うのか?」
この状況が機械兵達によるものならば上も下もないだろう。だが、フユ達は上に判断を仰ぎそれに従っている。
「ああ。上はね。もともとは国の中央部隊と連絡をとる司令役の機械達だったんだよ。つまり人が滅んだことに真っ先に気づいた連中だね。彼等は感情システムが搭載されてないし、中立な判断ができるからまとめ役をやってもらってるんだ」
「ふ〜ん。機械にも組織ってのがあるんだな」
「その方が便利なこともあるからね」
「……除隊もそいつらが決めるのか?」
ずっと気になりつつも聞けなかったことだ。人の居場所が街にしかないのなら、除隊された者はどうなったのか。
「うん。今回は真実を知るのにも耐えられないだろうって、基地の隔離された場所でパートナーと暮らすことになったよ。本人はパートナーと一緒にいられるならと満足してるみたい」
「そうか」
「まあ、そもそも俺達は人を殺せないしね」
「え?そうなのか?」
「そうだよ。俺達は機械同士の代理戦争のために作られたんだから。機械相手は戦えても、人は傷つけられない。プログラムが暴走して人に害を及ぼさないための措置だね」
当たり前と言えば当たり前の話だった。
機械兵は人より能力が優れていて壊れても直せるのだ。一度その攻撃が人に向けば、戦争などなくても人は滅びるだろう。
真実を知ってからガラガラと変わっていく自分の中にある人と機械の関係に、アサヒは答えを出すのはまだ先になりそうだと感じた。
「さあさあ!扉を開けるぜ!ここに人が入るのは初めてだぞ〜」
トラックが止まり、ヨルガがテンション高く荷台の扉を開ける。
急に差し込む光に目が眩むアサヒが感じたのは、むせかえるほどの自然の香りだった。
『……なんだ?このにおい』
土の匂い。草の香り。水気をたっぷり含んだ空気。
街では切り花さえ見ることがないので、自然そのままの空間にアサヒは嗅覚だけでなく全身で生命の息吹を感じた。
「……クサイ」
隣ではハスミが鼻をしかめている。慣れない匂いに不快感を感じているようだった。
その背中をヨルガが押して荷台から下す。
「ここでは食料用に色んな植物が育てられてるからね。街では感じられない空気だろう?ほらほら、ハスミが見たいって言ったんだから行くぞ〜」
普段振り回されている仕返しができて嬉しいのか、ヨルガが上機嫌でハスミを畑へと連れていく。フユは心配そうにアサヒの顔を覗き込んできた。
「大丈夫?これだけ植物が多いところなんて初めてだから、気分悪くなってない?」
トラックを降りるために抱っこしていたワタアメにも顔を覗き込まれ、アサヒはフワフワの毛を撫でた。
「大丈夫だ。せっかく来たんだから色々見ないとな。早く行こう」
真っ直ぐに前を見る瞳にフユも頷いて、2人は畑へと歩いて行った。
畑には小麦や米の主食から野菜、果物まで様々な物が育てられていて、広大な土地を全て回ることは難しく、アサヒ達は歩いていける範囲を周りながらヨルガの説明を聞いていた。
「これは大豆。重要な食料だぜ。今の環境じゃ家畜を育てるのは難しいからな。代替肉として優秀なんだ」
「代替肉?」
聞いたことのない言葉にアサヒが鸚鵡返しするとフユが優しく教えてくれた。
「昔は動物の肉を食べてたんだよ。牛とか豚っていう動物のをね。鶏は卵もとれたし。でもここじゃ動物を育てるのは難しいからね。全部植物を代わりに使ってるんだ。アサヒの好きなハンバーグも昔は牛や豚の肉で作られてたんだよ」
「動物を……食べる?」
思わずアサヒはワタアメを抱きしめた。
街で暮らしていると食べるものは全て出来上がった状態で出てくるし、料理するところを見てもほぼ加工された物しか使わない。そもそも娯楽用に生成された犬猫の動画を見ることはあっても、牛や豚の画像すら見たことがなかった。
そんな環境で育ったため、生き物を食べるという未知の世界に怯えた目でアサヒはフユを見る。
「大丈夫!ワタアメのことは食べないから!って言うか、機械なんだから食べれないでしょ!」
「そうなのか?その牛とかいうのは機械じゃないのか?」
街での生活がいかに偏ったものかを感じてフユは脱力する。
「アサヒ達は機械とは違うでしょ。人みたいに有機物でできた生物が、昔はたくさんいたの」
食物連鎖やら自然界のことを軽く説明すると、あまり実感が湧かないまでもアサヒも少しは理解したようだった。
「まあ、まるで知らなかった世界だからね。少しずつ知っていけばいいよ」
「今は俺達以外に生物はいないのか?」
「いるよ。あちこち汚染されてほとんど絶滅したけど、それでも生き残った生き物達はいる。俺達が少しずつ自然を元に戻して数が増えてきてるし、俺達がまだ把握できていないエリアにはもっといるかもしれないしね」
「そうか。……命って凄いんだな」
今まで生物の概念すら理解していなかったのに、それは動物として持つ本能なのか、アサヒは生命の強さを肌で感じ取っていた。
「うん。じゃあそれを支える大切な食料を見に行こうか」
そのあとは畑を歩いてまわり、食料の加工場も見学した。「味覚を測れる機械が復元できて助かったよ」と話すフユの横で、そのロボットを解体しようとするハスミをヨルガが必死に止めている。その光景に笑うアサヒに「ハスミがいてくれて良かったね」とフユは穏やかに微笑んでいた。
帰りのトラックの中では「今度はハチを整備している所が見たい」とハスミがわがままを言ってヨルガを困らせている。
それを苦笑して見ているアサヒにフユが「今日はどうだった?」と聞いてきた。
「急に世界が広がって全然頭が追いつかない感じかな。………でもあそこの匂いは嫌いじゃなかった。生きてるって感じがして」
どこか逞しくなったパートナーにフユは満足そうだ。
「このままいくとハスミはハチの拠点にも突入しちゃいそうだね。アサヒも行く?」
「ああ。できるだけ多くのものを見たい。お前達が抱えているものを俺も知りたい」
ワタアメを優しく撫でながらそう呟くアサヒに、フユは驚いたあと嬉しそうに笑うのだった。




