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第一話


 目を覚ますと……

 周囲は薄暗く、石造りの小さな部屋にいた。

 部屋の中央には黒い台座があり、その上には透き通った丸い玉、

 水晶玉のようなものが置かれていた。


「ここは……どこだ……?」


 確か、俺はβテストの最終ランクを突破したところだったはずだ。

 それから体が光に包まれて……そこからの記憶がない。

 最後の記憶はゲームの中だったというのに、

 この空間独特の匂いが、肌に感じる感触が、この世界がゲームの中ではないと伝えてくる。


「拉致でもされたのか?」


 そう独りごちるが、すぐにその考えはないと思い至る。

 ゲームをプレイしていたのは、ビル内部の管理された部屋だったはずだ。

 とすると───


「大体あっているよ」


 声の方へと目を向けると少女がいた。

 ただ真っ白な、雪原のように白い印象の少女だった。

 肩にかかるほどの髪は雪のように純白で、簡素な衣装が少女の美しさを更に引き出している。


 だが、その少女を目の前にして俺は恐怖を感じていた。

 ───存在感、圧倒的な存在感が人とは隔絶した存在だということを教えてくれる。


 この存在に気付かなかったのか? それとも今現れたのか……。


「どういうこと、ですかね」


 見た目は少女だというのに、

 不思議と敬語の方が正しい気がした。


「君には元居た世界とは別の世界に来てもらっている。

 転移──いや転生と言った方が正しいかな。それを利用してね」

「はあ……」

「納得していないようだね。まぁいいよ。

 君にはちょっとした代理戦争をしてもらおうと思ってね」

「……代理戦争、ですか。そのためにわざわざ俺を?」

「うん、そうだね。あのゲームはボクが作ったものだから、

 君は見事ボクの御眼鏡に適ったというわけさ」


 目の前の少女は突拍子もないことを言ってくる。

 転生?代理戦争?あのゲームを作った?

 何を言っているのか。

 俺はほんの少し前までVRゲームの世界にいたのだ。

 リトライ不可の最終ランク戦に覚悟を以て挑み……そして、死闘を制した達成感を味わっていた。

 もしかして、これは、クリア後の演出だったり……。

 

 ……。

 …………。 


 いくら現実逃避したところで、状況がその考えを許さない。

 この異常な状況を説明できる考えが浮かばない。


「オホン。話が逸れたね。代理戦争の話に戻ると、ただ最後まで生き残っていればいいというだけの簡単な話さ。

 敵は魔王であったり勇者であったり天界の使者であったり……まあボクにもわからないんだけどね」


 思考が追い付かない。

 でも───


「敵が誰であるかわからないのなら、戦争にならないんじゃないですか?」

「それは大丈夫だよ。人の子の寿命も考えて、今から20年後に誰が神の使いか知らせるようになっているんだ。数は───言えないかな。とりあえず目立っている奴を怪しんでおけばいいと思うよ」

 

 さり気なく神を自称してませんかね?


「敵が分かったとしても、魔王だの勇者だのに勝てる気がしないのですが……」

「だからこその転生だよ。君は今、ただの人間ではなくダンジョンマスターになってもらっている。

 そこにある水晶玉がダンジョンコアだね。20年というのも今ある実力差を覆すために用意された時間だよ」


 魔物にダンジョンマスター……そのための、あのゲームね。

 追い付かない思考で思考する。


「他のダンジョンもダンジョンマスターが管理しているんですか?」

「いいや、基本的には魔力の吹き溜まりに自然とできたものだよ。広さも魔力の溜まり具合で自然と増していく。

 例外として、まれにある化け物級のダンジョンがほんの少し自我を持ち、死なないために自分を育てたりはしているけどね。

 まあ、そんなダンジョンに入っても突然死ぬなんて理不尽な事はないから、心配しなくても大丈夫だよ。

 ダンジョンの権限は大体同じ。君も一度ダンジョンを作ってみればわかるんじゃないかな」


 つまり、基本的には俺だけが意思を持ってダンジョンを作れるってことでいいのかな。


「ダンジョンが死なないために、って言ったようにコアを狙ってくるんだよ。

 冒険者達が。

 コアを砕くと、コアからダンジョンの力を吸い取り、一つ上の存在へと至れる。要するに強くなる近道なんだ。けれど最近のダンジョンはパーティ攻略が主流で、

 持ちだして競売に出すのが一般みたいだけどね。高く売れるから。

 中には我先にとコアを壊して、組んでいたパーティで殺し合いが始まって全滅なんてのもあったね。

 ああ、もちろん、壊されたり、ダンジョンから持ち出されたりしても、ダンジョンマスターである君は死ぬからね」

 

 コアと一心同体ってことなのか。

 誰もかれもがコアを欲しがっているとすると、有名にならなくても神の使いから狙われるかもしれないという理不尽……。

 まあ、そんなのを代理戦争の駒として使うのだから、それなりに強くなれるのかもしれないけど。


「あと、DPであっちの世界の食べ物は買えるようにしておいてあげたから。

 食の質が落ちるのは嫌だと思ってね。崇めてくれてもいいよ」


 向こうにいたらいくらでも食べられたんだがなあ……。


 納得していないと感じたのか、

 饒舌に語っていた少女は、初めて焦りの顔を見せた。


「そ、それに、勝ち残った暁には、一つ願いを何でも叶えてあげよう」


 願い、か。

 生き残れるかも、叶えてくれるかもわからないから、今はどうでもいいな。

 けどまあ、断る理由もない。そう思い、感謝の言葉を伝えると、

 少女はやれやれといった感じで言葉を続けた。


「あまり干渉は良しとされてないからね。出血大サービスだよ。

 ──ああ、そうそう。君は人間みたいな見た目だけど、

 分類上は魔物に入るから、人の街に入るときは注意してね」


 俺が魔物だとぅ

 慌てて手を確認すると、ほんの少し小さくなっている気がする。

 顔もペタペタと触ってみるが、少しもっちりとした柔らかさがあるものの、

 触り覚えのある、自分の顔だということがわかる。


 その様子に、少女はくつくつと笑っているが……笑いごとではない。


「転生したことで何か変わってたりしますか……?」

「何も変わっていないさ。

 20年後に最高のパフォーマンスで挑んでもらうために、ほんの少し若返ってもらっているだけだよ」


 ──それは果たして、何も変わっていないと言えるのだろうか。


 言いたいことはある。

 けど、今は見た目が変じゃないなら問題ない。

 死活問題が別にある。


「街に入るためには、どうすれば?」

「DPを使って自らを強化───スキルを習得すれば入れるようになるかもしれないね」

「先程も仰っていたDP……というのは?」

「おっとこれは失礼。ボクとしたことが。ダンジョンコアに触れればわかることなのだけど、せっかくだから説明しようか。

 DPというのはその名の通りダンジョンのポイントなわけだけど、貯めると色々なものと交換できるようになるんだ。

 交換できるものは実際に見た方が早いかな。結構な量があるからあとで見てね。

 貯め方は簡単でダンジョン内に人間───知性があり、生きているものがいれば大概はDPが貯まっていくよ。

 極論を言えば奴隷を買えるだけ買って生かしておくだけでも増えるには増える。

 とは言っても、ひ弱で感情の揺れ動かない人間だと入るDPは少ないけどね。

 一番入るのは強い存在を殺した時かな。あとはダンジョンが魔物の死骸を吸収した時にも手に入るよ」


 弱くて感情が動かないやつはDPの入りが少ない。

 つまり、強くて感情が揺れ動くやつが効率的だ、と。


「なるほど。つまりDPを稼ぐには、強い人を大量に呼び込むのがいいんですね」

「うんうん。そういうことだよ。自分なりに効率のいい方法を探してね」


 目下の課題はダンジョンコアまで辿り着かせないことだろうけど、

 最初から強い魔物を置いても、少数精鋭の強力なパーティに攻略されるのが目に見えている。恐らくDPも稼げないだろう。

 となれば、弱い人間から強い人間まで呼べるように階層順に魔物を並べるのがいいはずだ。

 それに死のリスクを上回るダンジョンを作らなければリピーターも見込めない。


 この少女は……人を勝手に拉致っておいて簡単に言ってくれる。


「大体わかりました。ダンジョンは場所が重要だということも。このダンジョンはどういった場所に面しているんですか?」

「勘違いしているようだけど、ここはダンジョンではないよ。ダンジョンは一度作ってしまうと場所を変更できない。

 だからダンジョンは君自身に作ってもらおうと思ってね。この部屋は何もない単なる部屋だと考えてくれていい」


 作るねえ……作るにしても情報が足りなさすぎる。


「この世界の事を教えてもらっても?」

「……ふむ。そうだね。

 ボクとしてはこの世界の全てを君に教えてもいいのだけど、

 法の神がそこまでのズルは許してはくれないようだ。

 すまないが、必要な情報は自分で調べて欲しい」


 そこまで大それた事を言ったつもりはなかったが……。

 

「お詫びと言ってはなんだが、君がダンジョンを作るために必要な条件に見合った場所へと連れて行ってあげよう。まあこれは最初からその予定だったのだけどね」

「条件、ですか……」

「うん。存在する場所ならどこだっていいよ。凶悪な魔獣が住む大森林でも、砂漠の真ん中でも、人が住む大都市であってもね」


 最初に消していった選択肢じゃないか。


「では、一見するとただの洞窟に見える場所……尚且つ

 近場に人気のダンジョンがあり、人が滅多に寄り付かない場所でお願いします」

 

 ダンジョンと冒険者について何も知らない以上、最初から目立つダンジョンを作って、人を呼ぶというのは得策ではないだろう。だからといって、地の果てに作ったとしてもコアは無事かもしれないが、DPが貯まらず何もできないかもしれない。

 となると条件としては、ダンジョンの存在を気取られず、手段の一つとして人を呼べる状態でなければならない。


「ふむ。条件を絞ってきたね」


 さっき失敗したからね。


「当てはまる土地はあるのだけど近くにダンジョンが点在していてもいいかい?」


 まあ、問題ないだろう。


「大丈夫です」

「──さて、君を送る前に名前をつけてあげようか。向こうの世界の名前だと何かと不便だろうしね。そうだな……アルト。アルト・オベール、という名はどうだろうか」


 瞬間、心臓が跳ねるような動きをした。

 平静を装い、返事をする。


「お気遣いいただき、ありがとうございます」

「冷静だね。まあ嫌だったら偽名を使ってくれても構わないよ。

 ……さて、そろそろお別れの時間かな」

 

 生きていたら20年後に───



---



 気が付くと小高い山の麓……洞窟の前に立っていた。


 驚きの連続だった。

 転生にダンジョンマスターに代理戦争。

 正直言って、理解が追い付いていない。

 

 魔物がいる世界。

 冒険者がいる世界。

 勇者と魔王がいる世界。


 正直言って、生き残れる自信もない。

 なぜ、神は俺に目を付けたのか……。


「……はぁ」

 

 …………。


 願いで神以上の存在になったり、この戦争に関わった神全てを抹殺できないだろうか……。



 なーんて。

 恨み節を言っていても仕方がない。

 もう後戻りなんてできないのだから。


 20年後に死んでも後悔がないように。

 いつ死んでも後悔しないように。

 生きていこう。

 この世界を全力で。





内政は8話ぐらいから

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