第4章 3
向かった商工会館の部屋には、十人ほどの人がいた。
部屋の中央には縦長の箱がニつ。
装飾が施され、上には黒い筒が付いていて、人々はその筒から箱の中を覗き込んでいる。
(ゲームで見たのと同じだ)
わくわくしながら順番を待つ。
やがて私たちの番が来た。
「この筒の上から中を覗いて下さい」
機械の前に立ち、筒から覗き込む。
「それではスイッチを入れます」
機械が動く音がすると共に、暗かった視界にぼんやりとした光が見えた。
室内で、女性がお茶を飲んでいる様子が映し出される。
(動画だ……)
十秒くらいだろうか。
音もないし、画質も悪いけれど。
この世界に転生して初めて見る、動く映像はとても懐かしかった。
見終わると、私たちは隣の休憩室へ向かった。
「いかがでしたか?」
ヒスイさんが尋ねた。
「写真が動くのは不思議だが、ただ茶を飲む所を見せられても正直面白くはなかったな」
アゲイト様が答えた。
「レディは?」
「……はい、私も……もっと、見て楽しいものがいいなと思います」
最初は珍しがられても、中身が単調ならばすぐ飽きられてしまうだろう。
「ふむ。内容の充実が必要、と」
ヒスイさんは呟いた。
「製作者はもっと大きく大勢が一度に見られるようにしたいと言っているのですが。実現すると思いますか?」
今後、この技術は映画という大きな娯楽に発展していく可能性が高いことを、私は前世の知識で知っているけれど。
(この世界では、どうなんだろう……)
「そんなものが作れるのか?」
アゲイト様は眉をひそめた。
「私も疑わしいのですが、彼らは自信満々で。レディはどう思いますか」
「――夢があって、いいなと思います」
私は答えた。
「写真も、最初の頃はぼやっとしていたのが今はかなり鮮明になりました。技術の発展は目覚ましいので、出来る可能性はあると思います」
私が生きている間に、テレビまでは無理かもしれないけれど。
いつか映画館に行って、映画を見てみたい。
「夢、か」
ポツリとヒスイさんは呟いた。
「――そうですね。夢に賭けるのも、いいかもしれません」
「珍しいな、お前がそんな不確実なものに手を出すとは」
「たまには冒険するのも必要なのではないかと、そう思う時もあるんです」
ヒスイさんは小さく笑った。
「お二方、本日はお付き合いいただきありがとうございました。まずはもっと面白い写真を作るよう提案します」
私たちを会館の出口まで見送ると、ヒスイさんは中へ戻って行った。
ゲームのヒスイさんは、金儲けに固執するあまり忘れていた「夢」を、このキネトスコープで思い出す。
キネトスコープの開発に資金援助することで、忘れていた夢を取り戻そうとするのだ。
「面白かったです」
私はアゲイト様を見上げた。
映像の内容は稚拙だったけれど、久しぶりの動画はとても新鮮に思えた。
「そうだな。――ベリル嬢は、本当にもっと大きなものが作れると思う?」
「……そうですね。もっと綺麗で、色がついたものが見られるようになったらいいと思います」
「色?」
「はい……色が付くのは写真が先だと思いますが」
「色付きの写真か。――写真が普及し出した時に、画家はいらなくなるって言われてたけど。色付きになったらもっと言われるんじゃないかな」
「そうですね……でも、絵も画家もなくならないと思います。写真には写せないものを絵は描けますから」
「写真には写せないもの……」
写真は今、そこにあるものしか撮ることが出来ない。
けれど絵ならば、例え存在しないものでも描くことができるのだ。
「――ベリル嬢。頼みがあるんだけど」
アゲイト様が私に向いた。
「……はい」
「俺の、母親の絵を描いて欲しいんだ」
真剣な表情で、アゲイト様はそう言った。




