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コミュ障なせいで婚約破棄された悪役令嬢 遊び人キャラに愛されています  作者: 冬野月子


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第3章 5

 光沢のある、赤い細身のドレスを纏ったベリル嬢はとても美しかった。

 髪を緩くまとめ上げたため顕になったうなじから背中にかけて見える白い肌が眩しいほどだ。


「髪が水色だからな。シンプルな形の赤いドレスが合うんじゃないかと思ったんだが、いい感じだな」


「――おい、これは背中が出すぎじゃないか」


 我ながら低い声だなと思いながら俺は満足そうなハンスを見た。

 肩紐のないドレスは背中の半分以上が見えていて――これはダメだ。刺激的過ぎる。


「そうか? 夜だし今はこれくらい出すのが流行りだぜ」


「彼女は卒業したばかりだ。まだ早い」


「はいはい、過保護だねえ。じゃあこのシリーズは除いて……」


 ハンスは他のドレスを分けるとベリル嬢を振り返った。


「レディ。この中で気になるドレスはありますか?」


「……はい」


 ベリル嬢が目の前を横切る。

 膨らみの少ないスカートが、歩く動きに合わせて足にまとわりつき、細い足の形を浮き上がらせる。


(本当にこれはダメだろ)


「最近は身体のラインを出すのが流行りなんだよ」


 じろりとハンスを睨むと、奴は悪びれる様子もなく言った。


「――これがいいと、思います」


 並んだドレスを見比べていたベリル嬢が振り返った。


 それは濃紺のドレスだった。

 胸元やスカート部分に、斜めに銀糸で刺繍されたレースが入っている。

 大人びた雰囲気のドレスだが、観劇で着るには少し地味だろう。


「いいですね。ちなみになぜそれを選ばれたのですか?」


 ハンスがベリル嬢に尋ねた。


「ええと……。今日の舞台の原作になった小説の、ラストシーンで。夜の海を月明かりが照らす描写が……とても印象的なんです」


 ベリル嬢はドレスに視線を送った。


「それで、このレースが、月に照らされた波のようだと思って……」


「なるほど。ではこれを試着してみましょう」


 ベリル嬢は再び隣室へと出て行った。


「原作のラストシーンをイメージさせるドレスか。なかなか洒落てるね、彼女」


 ベリル嬢を見送るとハンスは振り向きながら言った。


「そうだな」


 ドレスはいかに自分を引き立てるかで選ぶことが多い。

 あのドレスは暗い劇場で見たら目立たないかもしれないが、それよりも舞台のイメージを優先するのか。


(……ベリル嬢の場合、目立とうとは思わないか)


 自分の外見よりも、好きなものを優先するタイプなのだと思う。

 だから小説のシーンを連想するドレスを選んだのだろう。


(本当に、面白い子だ)


 そんなことを思っていると再び隣室のドアが開いた。


 落ち着いた色のドレスをまとったベリル嬢は大人びて見えた。

 地味かと思ったが、銀糸のレースが華やかさを与えている。


「ああ、いいですねえ」


 ハンスが満足そうに頷いた。


「確かにレースが波のように見えますね」


「はい……とても、素敵です」


 ドレスへ視線を落とすとベリル嬢は微笑んだ。


(かなり気に入ったようだな)


 第一王子の婚約者はいつも無表情で無愛想だと、どこかで聞いた噂話にあった。

 けれどそれは、緊張しているか興味がないからで――本当はとても表情に出やすい子なんだろう。


「アゲイト。お前はどうだ」


 ハンスが尋ねた。


「そうだな……」


 品もあって、形も悪くないが。


「胸元が空きすぎじゃないか?」


 深く切れ込みの入った胸元から見える影が、あまりよろしくないと思う。


「父親かお前は。――じゃあ胸元にレースを足すか。腰ももう少し詰めた方がいいな。針子を呼んでくれ」


 ハンスは店員に指示を出して行った。


「ヘアセットとメイクもうちでやるか?」


「ああ、頼む」


「靴も合うデザインのものがある。アクセサリーは……うちは夜用は、庶民向けのイミテーションが多いんだ。ランティックを呼ぶか?」


「ああ」


 ランティックはこの近くにある高級宝飾店だ。

 流石に侯爵令嬢にイミテーションはつけさせられない。


「え、あの……。そこまで用意していただかなくても……」


「レディ。着飾るのはロイヤルボックス客としてのマナーですよ」


 慌てたベリル嬢に、ハンスは満面の笑みでそう言った。

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