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正義の味方  作者: わだだわ


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 私がやっている顧問弁護士という仕事は、知られているようで知られていない。

 ハリウッド映画なんかでは、企業のピンチに颯爽と出て来て一発逆転で裁判に勝利する。みんなが持ってるイメージはだいたいそんな感じだと思う。

 それで当たらずしも遠からずなんだけど、実際は映画のように会社が乗っ取られるかどうか、なんて事件は滅多に起きない。起きるにしても、会社の乗っ取りっていうのはもっと粛々と行われるものであって、それこそ法律に則って行われるから、あまり法廷闘争って感じにはならない。むしろ経理と私たちとの半々の仕事になる。

 だいたい顧問弁護士というのは、弁護士事務所が企業と顧問契約を結んで、企業がお困りの時には優先的に事に当たりますっていうだけのことで、映画みたいに会社のトップと個人的に仲良しで、恋の悩みや人生相談まで受け付けて、週末は一緒にヨットに乗ってディナーを食べて、なんて夢みたいな話はない。

 実際の顧問弁護士の仕事は、もっと地味だ。私たちの仕事はもっとルーティン化されていて、もっと華がなくて、もっともっと数多い。

 本当に、なんでそんなことで訴えるんだっていうくらい、みんなよく企業を訴える。労災、労基法違反、セクハラ、パワハラと、そんなのどうでもいいじゃんってことまで、よくもまあ訴えるネタを見つけてくると感心するほどだ。

 この背景には明らかにアメリカの影響がある。なにかといえばすぐ訴訟。濡れた猫をレンジで温めたら死んじゃったから賠償金を払え、という訴えが認められて多額の賠償金をせしめたお婆さんの話に煽られて、日本人も訴訟大好きになってしまった。

 この話、私たちの業界では常識だけど、まったくの嘘。こういう話を聞いて我も我もとなってしまう辺り、日本人は集団ヒステリーに陥りやすい傾向があるんじゃないかと思うけど、みんなもう少しよく考えた方がいい。

 私も仕事をしていてセクハラを感じないわけでもない。でもそんなのでいちいち腹を立てたり、訴えたりしていたらきりがない。きりがない上に自分のキャリアにとってもなんの得にもならない。もしセクハラを受けたら受けたで、いざというときにそれを武器として使えばいいだけのこと。昨今の訴訟を見ていると、みんな訴えどきをわかってない。もっとも、みんながそうやってくだらないことで訴えてくれるから私たちには仕事があるわけだし、私は二十九才にして人も羨むようなお給料をもらえているわけなんだけど。

 とはいえ、私の専門はなにもセクハラ訴訟というわけではない。弁護士兼弁理士である私の専門は権利関係、特に特許に関することが専門だ。この分野の法整備と弁護士が充実したのはさっきいったアメリカの影響もあるんだけど、いちばん大きいのはお隣中国の影響。

 結局お流れになったけど、二〇〇九年に中国が導入を目指していた「IT製品ソフト設計情報開示法」が業界に与えた影響は大きかった。これは、外国企業はIT製品の制御ソフトを中国政府に対して公開しなくてはならないというもので、要するに企業秘密を明かせというものだ。

 日米欧の猛反発を喰らって成立には至らなかったものの、中国はなにをやって来るかわかったものじゃない。それに対する備えを固める過程で、各企業は特許や知的財産権に関して異常といっていいほど神経質になった。

 それは私が担当している国内特許法関連の分野にも影響して、スタッフの大幅増強がなされている真っ最中に、私はいまの事務所に潜り込むことが出来た。

 私はまだ弁護士になってほんの数年の駆け出しだけど、学生時代からずっと特許法が専門だったし、事務所に入ってからもよい仕事をしていると思う。

 ところで、よい顧問弁護士の条件てなんだと思う?もちろん訴訟に負けないことは大事だけれど、それ以上に大事なのはそもそも訴訟を起こさせないことで、こっちの仕事の方が割合としてはずっと多い。説得だったり、示談だったり、あまり大きな声ではいえない方法だったりを駆使して、訴えるぞといってくる相手を思いとどまらせる。

 私たちみたいな弁護士がいるおかげで、実際に訴訟にまで発展するケースは稀だ。年間の知的財産権関連のトラブル数万件のうち、ほんの数パーセントしか法廷に持ち込まれることはない。

 でもいざ訴訟となれば、最近の裁判所は原告の利益保護に傾き過ぎていて、ちょっとしたことですぐに特許使用の差し止め命令が出る。それだけで、設計も完了し、ラインも立ち上げ、生産も軌道に乗っている企業にとっては大打撃だ。

 だから出来る限り、訴訟に持ち込まれる前に話を付ける。

 もちろん大きな企業には法務部があって、特許の調査や申請はそちらでやっているけど、特許侵害に関係したクレームや訴訟はうちの事務所で引き受ける。要するにやっかいごとはこちらに回ってくるというわけだ。

 私の経験からいって、特許関連で訴えて来る人の約半数はお金に汚い人で、残りの約半数は頭がどうかしちゃってる人で、普段は「約」に含まれちゃってるごく少数の人がまっとうなだけだ。ただこのまっとうな人も、残念ながら法律には詳しくない。

 だから自分が考えたものと似たようなものを企業が発売すると、それは自分の発明を盗んだものだと訴えて来る。企業がその発明について特許法で完全に守られていても、彼らはそんなことは知らないから。

 私は企業と契約している事務所に勤める人間だから、当然企業の利益が最大になるように働く。

 特許というのは、なにかを発明した人がその利益をきちんと受けられるようにと定められたものだ。発明者が利益を受けられなければ誰も発明なんかしようとは思わないし、発明しても公開しようとは思わない。

 そして発明が利益をもたらすというのは、そもそもその発明が人々の役に立つからであって、そうでなければいくら特許を持っていても意味はない。

 企業としては第三者の特許を拝借するよりも、自らが持っている特許を利用した方がいい。その方が話が早いし、余計な特許使用料を上乗せせずに商品化出来る。特許使用料を上乗せしなくて済むということは価格を引き下げられるということであり、その分多くの人が商品が持つ恩恵や利便性に与れるということだ。

 だからそれを阻もうとする人、そしてあわよくば濡れ手で粟の利益をかっさらっていこうとする人を、私は容赦なく攻撃する。


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