第40話 ライバルとの決勝戦
特筆すべきことなく、優勝を勝ち取った者たち。
警備隊の隊長から入隊したばかりの兵卒まで、割愛しながら順繰りに紹介しよう。
「ま、決勝戦もこんなもんかの……青茶でも飲も」
一人目ローガ。
決勝戦すらも、手刀のみで相手を昏倒させ優勝。
「はい、おしまい……闇魔法師相手には、目だけの情報で戦っちゃだめだよ」
二人目シノ。
闇魔法による搦手と身体能力で、相手を翻弄して優勝。
「決勝戦の相手も張り合いが無いネ。くじ運、悪かったネ」
三人目ラウラ。
身体能力のみで相手を昏倒させ優勝。
「これで優勝賞品の熊掌はおじさんのものだね。あぁでも、今人気の、ビスケットとナッツと果物を混ぜて作った、ハルヴァもいいな」
四人目ギンジ。
決勝戦とあってか、積極的にポイントを取って優勝。
「よくここまで力を付けました。これからも、もっと精進するように」
五人目ロジェオ。
同じ区分けになった弟子との戦いに勝利して優勝。
「優勝じゃぁぁぁああああ!!!」
「一騎打ちに備えるか」
「これで私の傭兵業も、バラ色に染まることでしょう!」
六、七、八人目の元傭兵の男たちも、いつも通りに優勝。
「蓮華パイは僕のもの……」
九人目のテンジ。
猪突猛進してくる怪力相手を華麗にいなし、紛淆させて優勝。
「よし! これで優勝だ!!」
十人目のリフ。
準決勝とは打って変わって特に苦戦せず、持ち前のセンスで優勝。
「クソ、優勝したというのに、午後の一騎打ちの所為で緊張が解れない」
十一人目のアリス。
こちらもリフ同様、優勝候補を倒したことで楽々に優勝。
さて、ここまでが特筆すべきことなく優勝したメンバーだ。
彼らの活躍は、後の強者との一騎打ちで見れることだろう。
ここからは、名勝負を繰り広げた者たちの戦いである。
記念すべき一組目は、
「ここであったが百年目! 俺の方が強いってことを、証明してやるよ!!」
「その慣用句、使いどころが間違っているぞ。私は最初から、逃げる気も負ける気もない」
因縁のライバル同士の戦い。リクライ対ケイシュンである。
兵卒同士の珍しい戦いとして注目度はそれなりに高く、観客席は満席に近い。
訓練では互いを高め合う為に協力し合っていた二人が、今は決勝戦で互いを蹴落とし合う為に戦おうとしている。一組目の試合としては、十分すぎる程の試合となるだろう。
「へッ! 相変わらず細かい奴だぜ、お前はよ」
「私の所為にするな、教養のないお前が悪い」
「んだと! というか、お前はそういう文句を平然と言える性格の悪さを、何とかしろ!?」
リクライがふざけた発言をして、それをケイシュンが冷淡に指摘。それにリクライが赫然と吠えまくるという、いつもの光景だ。
「なッ!? 私のどこが性格が悪いと!?」
「自覚なしかよ!?」
ただ今回ばかりは、リクライの言葉が気に入らなかったらしい。
最も指摘されたくない相手から指摘され、らしくなく色然と声を上げるケイシュンに、リクライが信じられないと驚き返す。
珍しくいっぱい食わされたようだが、第三者からすれば、これも特に変わらない日常だろう。
「あの二人、決勝戦なのに全然緊張してねぇな」
「だから新人なのに、ここまで勝ち抜いてこれたってことか」
「まだ成人したてのガキだってのに、やっぱ才能ある人類ってのはすげぇなぁ……」
もうすぐ試合が始まるというのに、両者は普段と変わらずうるさく漫罵し合っている現状。観客も、肝が据わった彼らには驚かざるを得ない。
兵卒だというのに決勝戦で緊張せず、平然としているのは才能故か、それともそういった性格なのか。
ともかく、両者ともに試合で高いパフォーマンスを発揮できるのは、揺るぎない事実だろう。
そしてそれを、二人とも分かっている。
これから互いに蹴落とし合う仲だというのに、互いに向けあう歓楽した顔色が、両者の信頼を如実にしている。
「まぁいい、勝った方が正しいんだ。とっとと、おっぱじめようぜ」
「そうだな。珍しく、お前の意見に賛成だ、リクライ」
審判に指示されるまでもなく、リクライとケイシュンは怡怡と鼻で笑いながら、距離を離した。
両者が適切な距離まで離れたと同時、審判は「それでは、両者離れたところで、決勝戦、始め!!」と、試合開始を宣告した。
「搦手は使わせねぇぜ!!」
リクライが試合開始の宣告と同時に、背負っていた武器を取り出し、前に出る。
リクライの大きな背中でも隠しきれていなかった、それなりに大きい武器だ。
「そう来ると思っていたよ!」
リクライの行動を事前に予測していたケイシュンは、小さな火球を連射――中位の火魔法フラマライエを行使して対抗する。
「当たらねぇな!!」
「早い!?」
しかし、リクライは小さな火球の連射を、その俊英した身体能力で回避する。ならばと、ケイシュンは移動先を予想して、火球の射出角度を変えたが、
「あめぇな!」
――読まれたか!?
角度の変更に気付いたリクライは後ろに退き、反対方向から距離を縮めてきた。
フラマライエでの牽制は画餅か。オドを消費だけして、後に祟ることだろう。
ケイシュンはフラマライエを止め、腰から一本の木剣を取り出した。柄と鍔に綺麗な装飾が施された、普通の剣だ。
「ラァ!!」
「ッ!!」
重い。
リクライの横薙ぎをケイシュンは剣で受け止め、殺しきれない威力は、後ろに飛び退くことでどうにかした。
体格も、筋肉量も、筋肉操作も――接近戦では上のリクライの攻撃は、まともに受けない方がいい。
リクライは横薙ぎの続けざまに、武器の柄頭側に付いた刀身を振り回して、ケイシュンの首を狙う。
「ク……」
完全には避けられなかった。
首に小さく血が滲む。
「武器による一撃! 西側の選手に一点!」
ケイシュンはリクライの武器を睨み、観た。
前方には斧の形をした刀身。後方には三日月の形をした刀身が付いた、両刃の長い武器だ。
――あれは確か、沙門が重宝していた護身具……
「月牙鏟か」
――リクライが扱う得物は、前方には斧、後方には三日月の刃が付いた月牙鏟である。
アンタクが居た太古から、五百年以上前の、アルヒストがまだ何十カ国にまで分かれていた時代まで。沙門が他国や豪族、匪賊の侵略から自他を守るだけでなく、相手を殺さずに鎮圧する為に重宝していた護身具である。
「おうよ、沙門の人に作ってもらった特注品よ。どうやらお前のは、普通の剣みたいだな。生真面目なお前が好みそうな、小綺麗な剣だぜ」
「だからどうしたという」
「リーチの長さに攻防を備える両刃。俺の月牙鏟の方が、有利ってことだ」
機能面に優れた武器を扱う自身に対して、何の優位性もない剣を扱うケイシュンを、リクライは揚揚と煽る。
確かにそれはそうだが、
「武器はそうだろうな」
勝敗の分け目は、何も武器の良し悪しだけで決まるわけではない。ケイシュンは冷ややかに煽り返してやった。
煽り返されたリクライは額に青筋を浮かべ、
「ッ!!!」
怒り狂い、長い月牙鏟を豪悍に振り回して、ケイシュンに切りかかる。
それを、
――来た! 大振り!!
ケイシュンは狙っていた。
リクライが悁急であることを知っている、ケイシュンならではの戦法だ。
長い故の月牙鏟のデメリット――刃と刃の間の柄に剣を入れ込んで、リクライの動きを止める。そこから、
「ッ!!」
「うぉッ!?」
懐に入り込んで大きな火球――中位の火魔法フレアを、そのどてっぱらに向かって放った。
しかし、
「やるなぁ、相変わらず」
「お前の方こそ……」
リクライは咄嗟の判断で左後方に飛びのき、致命傷を避けた。
できたのは右手に少しの火傷。傷は浅い。
流石ライバル。リクライとケイシュンは互いに嘆賞し合った。
互いに一歩も譲らない戦いに、二人の胸中が燃え滾り高鳴る。
「魔法による一撃! 東側の選手に一点!」
審判の採点を合図に、二人は前に出た。
――視点はリクライに移る。
長く重い月牙鏟に対し、ケイシュンの剣は少し短く軽い。
その攻撃は素早く、相手の武器を絡めとって無力化するはずの柄頭側の刀身でも、捕えきれない。捕らえる前に、相手の刀身が引き抜かれてしまっているのだ。
素早い攻撃はいなすしかない。
「防戦一方か!?」
――まだ速度が上がんのか!? だが、目をこらして見りゃなんてことねぇ!
長く重い月牙鏟のデメリットを突かれ、リクライは攻め倦ねてしまう。
自分の方が身体能力が高いとはいえ、ケイシュンとて警備隊の端くれ。間合いを詰め、懐に入り続けるくらいの身体能力は有している。
だからといって、自分よりも身体能力が低い相手が攻めてくれている状況を――この好機を逃すことはできない。何より、真正面での戦いを嫌がって逃げては、男の名が廃るというもの。
――集中しろ、もっと目をこらせ……
「ッ! ここだぜ!」
「なにッ!?」
唐突。リクライは見事、ケイシュンの剣を片手で掴み取ってみせた。そこから、
「もらったぜ」
「ガァッ!?」
月牙鏟をケイシュンの頭部に叩きつけた。間髪入れずに二撃目を叩きこもうとするが、
「チッ!?」
ケイシュンがフレアを行使。オドの伝播に事前に気付いたリクライは剣を離し、ケイシュンを蹴り飛ばしながら退く。
「痛打の一撃一回! 通常の一撃一回! 西側の選手に三点!!」
「攻撃の手数と魔法はそっちが上、だが身体能力でいやぁ、俺の方が圧倒的だな。近距離、接近戦じゃ、俺の方が有利だってのは、今ので分かっただろ?」
圧倒的な身体能力の差を見せつけたリクライは、ケイシュンを視覚的にも精神的にも見下ろし嘲る。
一秒間に十数突きも入れる剣の動きを見切って掴む。その動体視力と身体能力たるや、まさしく俊英だ。
搦手とは相手と同じ土俵に立ってこそ、ようやく力を発揮するもの。
それは搦手を扱うケイシュンが一番知っていることだろう。
――奴はまだ手札を隠している、侮りはねぇぜ。
まだ終わりでないことを、リクライは達観していた。
「それを埋めるのが、知恵と、経験だ!」
搦手は多彩であるからこそ搦手。
ケイシュンは立ち上がって、もう一度真正面から立ち向かった。
「じゃあ見せてくれや!!」
面白くなってきた。リクライは馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくるケイシュンを、楽しそうに笑いながら迎え入れる。
始まる剣の突きラッシュ。先ほどよりも早いが、
「へッ!」
見える! 見えるぜ!
リクライは剣の動きを尚も見切って、片手で掴もうとした。
その瞬息、
「ハァ!!」
「ぞォ!?」
身体が出し抜けな浮遊感に襲われ、気付けば空の景色が見えていた。
「隙ありだ!」
「グッハァッ!?」
ケイシュンの突きが、リクライの腹に突き刺さる。
痛打の一撃を食らってようやく状況を把握できた。
――倒された、のか!? なにされたか見えなかった!?
「フラマライエ」
「ッ!? ぶねぇ!!」
続けざまに、フラマライエを行使しようとしたケイシュン。リクライは両手を使って、月牙鏟を扇風機のように回転させることで、華麗に火球群を弾いてみせる。更に、そのまま月牙鏟を回転させ続け、得物から光魔法を撃つことで反撃を試みた。
光魔法は当たらない。
ケイシュンは飛びのきながらフラマライエを行使し続けて、光魔法を相殺する。
「剣による痛打の一撃一回! 東側の選手に二点!!」
武器が無かったら、今ので負けていたかもしれない。
リクライは審判の採点を聞き流しながら体勢を立て直し、走り出して先刻の出来事を振り返る。
――なにをしやがった、いったい……
足が急に浮いたかと思ったら、空が見えていた現実。
ケイシュンに特に変わったところはない。大会の規則で、隠し武器は事実上不可能。
魔法での応用。それとも、武器に何か仕掛けがあったのか。
オドを飛ばした可能性もある。服装もなんてことのない被服だが、ケイシュンなら何かあってもおかしくない。
分からない。現状の情報だけでは判断できない。
このまま考えても、憶測という沼に飲み込まれるだけだろう。
だから今は考えない。もう一度、倒される覚悟で見極めるしかない。
「もう一度行くぞ!」
「クソ!!」
ケイシュンがもう一度仕掛けてくる。そして始まる、リプレイを疑うほどの攻防。
「ハァ!!!」
「ガァッ!? またか!?」
またもや、リクライは地面に転ばされてしまった。
「フゥウン!!」
「二度は食らうか!」
「クッ!?」
転がった矢先に追撃してくるケイシュンだが、リクライは受け身をとって、片手を身体を起こす為に。もう片方で月牙鏟を振り回し、ケイシュンの侵入を阻遏する。
二度目となれば、対応もできる。
――ん? なんだ?
宙に浮いて体勢を戻す中途、ケイシュンの両足に偶然目がいった。まさかと思い、更に自分の両足を目視。そこで新事実に気付く。
――なるほど、足で足を掛けたって訳か。
「二回引っかかって、ようやく分かったぜ」
ケイシュンの両靴の表面の一部と、自分の両足の裏の一部にだけ、土埃が多く付着していたのだ。足で足を掛けたことによる衝撃。転ばした顛末で、土埃が叩き落とされたのだ。
なんと初歩的なことか。
魔法の応用でもなく、武器に何らかの仕掛けがあった訳でもなく、ただの足払い。搦手だからと複雑に考えすぎてしまっていた。
「根拠あり……私の剣に意識を行かせすぎたな。それでは私の胸から上しか見えないだろう。だから足が疎かになった」
言って、得意そうな笑みを浮かべるケイシュン。
その通り。だから何をされたのか目視できなかった。自分から目視できなくしにいっていた。
「お前は私の剣の攻撃を捌き、更に俊英な身体能力で掴めはするが、目を凝らして剣の動きを見なければならない。しかしそうすると、私の足払いで倒されてしまう。どうするつもりだ?」
相も変わらない上から目線。全くもって生意気で苛れる奴だ。しかしここは恨みを飲め。
「おいおいおい、その手には乗らねぇぜ。そんな分かりやすい誘導に引っかかるほど、俺はアホじゃねぇ。絶対に近距離で戦わせてもらう。近距離以外じゃ、お前の思う壺だからな」
リクライは冷静に反言した。
それに初歩的なことに頼るということは――、
――接近戦じゃ、もう隠した手札はないとみた!
戦い方は変えない。漢なら搦手も含め、真正面から勝ってみせる。
「では、私の連携をどう打破するつもりなんだ?」
「さぁ? 閃いちまったが、教えねぇ」
一番重要なことを問われ、ハッタリをかますリクライ。
それに鼻で笑うケイシュン。
分かってるじゃねぇか。
――策は今から考えりゃいい!
「ッ!!」
いままでの如く詰め寄って懐に入り、月牙鏟の弱点を突く戦法で攻めるケイシュン。リクライが突然強くなることはない。剣での突き攻撃か、足払いか、どちらかを捨てる必要がある。
そしてリクライは剣での突き攻撃を優先した。しかし、
「ッ!?」
ケイシュンの左足が、リクライの右足首の場所で停止する。
何をしたというのか。分かり切ったこと。
踏ん張ったのである。
「捕まえちまったなぁ!」
左足は右足で、剣は素手で。完全にリクライのターンが。
「甘いな」
「は?」
瞬息、目を疑った。
掴んだはずのケイシュンの剣が抜けて、二本に分裂したのだ。
――隠した手札は、まだあった!
のべつ幕なし。心慌意乱している間に、ケイシュンの横なぎがリクライの右腋下に直撃する。更にそこから、踏ん張っていた右足が浮き、
「ッ!!!!」
左の叩き潰しが顔面にヒットした。
続くラッシュ。最後に、
「ハァ!!」
「ブゥッ!? ガフゥッ!?」
二本に分裂した剣で、胴体を突き抉った。
「剣による痛打の一撃三回! 通常の一撃五回! 東側の選手に十一点!!」
何が起きたのか。何を行ったのか。
――幾許かケイシュンに視点が移る。
絶体絶命の危機に陥ったはずのケイシュンが、リクライを出し抜いた方法。それは、剣が主因であった。
『どうやらお前のは、普通の剣みたいだな』
そう思い込んでいたであろうリクライ。
――だが、剣には仕掛けがあった! 普通の剣ではなかったのだ!
初歩的な戦略をとることで相手に隠した手札をないと思わせ、加えて一度目や二度目では剣の仕掛けを使わないことで、虚を突き相手に致命の一撃を食らわせる。
――これぞ、これこそが搦手である!
ケイシュンの剣は子母剣と呼ばれる、剣の中に剣が入った隠し武器。
一見、綺麗な装飾が施されただけの剣に見えるが、それはブラフ。鍔の部分にスライド式の仕掛けがあり、それを動かすことで、中にあるもう一つの刀身を抜き出すことができるのだ。
母剣と子剣による二刀流。母剣を相手に奪われそうになったり、絶体絶命の危機に陥った時に、子剣を抜いて相手の虚をつく。
それがまさに、剣も足も絡めとられた、先ほどの絶望的な状況。それを、ケイシュンは抜いた子剣で右脇下に攻撃し、更に、止められた左足の踵からオドを噴出させることで、リクライを転倒させた。
機略で絶望的な状況から逸したのである。
当たり前だが、隠し武器を含めて、大会には登録してある。
最後の最後まで温存していた甲斐があった。
「潮時のようだな」
「ふ――ろ、よ……」
リクライの顔面から左拳を離し、冷たく見下ろしながら、落ちた母剣を拾うケイシュン。歓声で試合場が喧騒にのまれる中、倒れたまま微動もしないリクライが、何か囁いた。
最後の言葉を聞いてやろうと、ケイシュンが「なんだ?」と覗き込むと、
「ふざけろ、よって、つったん、だッ!」
リクライが唐突に月牙鏟を振って反撃してきた。
とはいえ、満身創痍の相手だ。ケイシュンは後ろに退いて軽々と避ける。そして、
「まだやるつもりか? 母剣と子剣での突き攻撃に、踏ん張りをも無意味にする足払い。この戦い、私が有利だと分からないのか?」
冷静に、泰然と、リクライに勧告した。
だが――、
――こいつ、目が……
「へッ、また、閃いちまったからなァ」
立ち上がったリクライの目に、精気が宿っている。
やせ我慢の笑みの向こうに、勝利の確信を抱いている。
こういった時、決まってリクライは驚くようなことをやってのける。
「ハッタリだな」
厳戒に留心。慢心はない。
ここで倒しきる。
そこからの展開は急転直下であった。
開いているのは片手だけ。ケイシュンが月牙鏟の間合いの内側に入り込んで、二刀流の手数で圧倒するはずだった。
「掴んだぜ!」
「馬鹿が!」
左手で子剣を掴まれた。ここまではいい。
母剣で反撃してやればいいからだ。首に当てて足払いで転がし、最後の一撃を食らわせる。そのつもりだった。
「ほうはなぁ!?」
「なにッ!?」
月牙鏟の柄で軌道を上にずらされたのだ。そこからずらされた母剣がリクライの口に。そうだ、なんと母剣を噛んで挟んだのである。
だが、仮に二刀流を掴まれ封じられても、足払いという保険がケイシュンにはある。
ケイシュンは右足の踵からオドを放出させ、全力で足払いを試みた。その瞬間に、
「ッんギ!?」
足に激痛が走る。
ケイシュンの右足には、何かで潰されたような陥没圧が。
まずいと思って剣を手放し、徒手空拳で反撃しようとした。しかし、リクライに近接戦で勝てるわけがない。
子剣をへし折られ、母剣を噛み砕かれ、殴られ武器を叩きつけられる。
苦し紛れに上着を脱ぎ、リクライの視界を塞いで距離を取ろうとしたが、上着ごと胸倉をつかまれ、百八十度反対。地面に叩きつけられた。
倒され視界が揺れ動き、それでも最後まで抵抗しようと手にオドを集中させる中、
「いい戦いだったぜ」
月牙鏟の前方の斧が振り下ろされる。 笑っていた。清々しいくらいの明るい笑みだ。それが試合の最後の記憶となった。
「KO判定!! 勝者、西側の選手!!」
「しゃあ! 前代未聞の優勝だぜぇぇ!!」
リクライが優勝する。
※ ※ ※ ※
大会備え付けの治癒施設。大会で怪我をした選手たちは、このテントにて無償で治癒魔法を受けることができる。
国営の治癒魔法師をかき集めたおかげか、治癒魔法の精度と効率は高い。当然、無償であり国営である為、完全な慈善となっている。
慈善を含めて国営の仕事なのだ。
そのテントに、リクライとケイシュンはいた。
「やっと起きたか」
「そうか、私は、負けたのか。リクライ、お前が運んでくれたのか?」
「まぁな」
「すまない。助かった」
ケイシュンが目を覚ますと、彼の目の前には治癒を終えたリクライが立っていた。
昏倒した自分がベッドに寝かされ、リクライが目の前に立っている現実。ケイシュンはそこで、自分が敗北した事実を冷静に受け入れた。
「リクライ、優勝おめでとう」
「やめろよ、テレくせぇ。褒めるなんざお前らしくもねぇし……」
突然の称賛にリクライが頬を赤くし、それもその顔を見せまいと下を向いて照れ隠しをする。
ケイシュンに自覚はないが、彼が他人を称賛するのは珍しいことだ。知識に富んでいて周りより頭が切れる分、少し他者を軽慢する節があるのだ。だが俊秀であり不昧であるからこそ、自分の立場を弁えることもできる。
「私は素直に称賛しているんだがな………驚嘆したよ、まさか母剣を歯で噛んで挟むとは、思いもしなかった。あれは盲点だったな」
照れ隠しをするリクライに、ケイシュンは泰然と胸三寸にある思いを吐露していった。
剣を噛んで挟むなど、到底できないことだ。頭でっかち故の盲点だったと言えよう。
「片手は月牙鏟を持つのに使うから、少なくとも掴まれるのは片方の剣だけ。お前ならそう考えるだろうから、噛んで挟んでやろうって考えついてな」
長い付き合いだからこそ分かる、相手の思考の予測。見透かされていたことをいけしゃあしゃあと指摘され、ケイシュンは『全く、こいつには驚かされてばかりだ』と、感心と呆れのため息を吐いた。
「それを思いつくこともだが、実行できる起点と身体能力は天晴れだよ」
驚くようなことをしてくると分かっていたが、それを予測できてしまえば、それはもう驚くようなことではない訳だ。
ケイシュンは解顔した。
「それが、俺の持ち味だからな……」
「ふん、その通りだな」
またいけしゃあしゃあと言いやがって、こいつは。
だからこそリクライは自分のライバルで、ハオと共に高め合う仲間なのだ。敗北を喫してしまった以上、次は負けられないし、今回ばかりは応援するしかない。
ケイシュンはベッドから降りてリクライの前に立つと、改まって彼の双眸を見据える。そうして手を差し出し、
「リクライ、強者との一騎打ち。私の分まで頼むぞ」
最後の一騎打ちも頑張ってくれと、握手を催促する。
「おう、任せとけ! 打ち負かしてやるぜ! 必ずな!」
リクライはケイシュンの手を取り、清々しいくらいに明るくさっぱりした笑顔で、握手を交わした。
本当に、そんな笑顔を向けられては、もっと応援したくなってしまうではないか。
ケイシュンは照れ隠しににっこり笑った。




