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Another Elements  作者: 翡翠 律
ー新緑の瞳の王-
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7.ラグナログ


 ポトリ...

 摘もうとしたお菓子が再び銀色の皿に落ちる。

 何故か未知の恐怖が体の奥底から溢れてきて、指先がガクガク震えた。


「......ね、ん」

「え?」

「今は西暦何年っ!?」


「セイレキって何?」

 バラガが首を傾げる。

「だったら、この国の場所は!?大陸のどこっ!?」

「地図ならあそこにあるよ」


 すっと彼が指差した方向を見ると、さっき店員が入って行った扉の奥の壁に大きな世界地図が飾ってあった。

 世界地図には冒険者たちが書いたのだろうか沢山のサインのような文字が書いてある。

 大陸が3つ。

 目を凝らさなくともわかった。

 世界史の授業で習う見慣れた大陸の形などかけらも無かった。


「地球なのに、地形がまるで違う...どういうことなの...?」

 困惑し腰を浮かせる私にバラガは座るように優しく誘導してくれた。

「...僕が思うに、君は『失われた時代』に生きていたのではないかな?あくまで推測だけどね」

「どういうこと?」


「この世界は『最後の日』を繰り返しているんだ。地球上の生物も文明も何もかもが、ある日突然消し去られる。それを何度も何度も繰り返し今のこの世界がある」


「人間たちは気づいていないけどね」


 バラガの視線が私から逸らされたのに気付き、彼の視線を追う。

 すると、白石で囲まれた川の向こうの通りに沢山の人の往来が見えた。

 川を行き交う沢山の荷の小舟や、装飾された観光船が、この国の王都の繁栄を表している。



「潰され、築き上げ、また潰され、築き上げる。

一番最初の文明が崩壊した原因は神々の戦いだと言われている。神々の黄昏......『ラグナログ』さ」


「壮絶な戦いの末、神々は地上から姿を消した。彼らの内にある不思議な力のみを残して。

神々の残した力は器となり、その器に魂が宿り精霊となった。

 僕ら精霊が宿すこの力は、『器の力』。

 神々が残した力の遺産。


 その後、精霊は神のかわりに地上を守った。

 その間何度も世界は滅び、そして産まれた。

 自身の魂が器の力の魔力量に耐え得る魂でなくなれば代替わりをし、器の力を引き継がせた。


 だが、精霊は神と違い実体をもたない。

 精神体なるその存在は強いようで弱く、存在を認めるものがいなければ消滅してしまう。

 自然や人間と深く関わり合い精霊は世界を守護していたが、繰り返される文明のやり直しに、ついに精霊を信じない時代が現れた」


 「精霊を信じない時代ってもしかして...」


 コンクリートのビルが乱立し機械化された街、疲れた人々は人工的に自然を作り出し、その紛い物に癒しを請う。

 私がいた、私が存在した世界。


「そう、それが君がいたかもしれない『失われた時代』。

 人間達は高度な知識を持ち器の力に頼ることなく、その世を生きていた。そして存在を否定された精霊達は眠りについた。

 しかし、この時代もいつのまにか滅んだのだろう。

 精霊達が目覚めたとき、その文明は跡形もなく、大地は作り変えられ、人間は再びあらたな文明を作り出していた。」


「じゃあ、この世界って...」


「君がいた世界から見ると、『未来』かな」


「そんな!じゃあ、私は死んだってこと?もう帰れないの?文明が滅んだってなに!?何がっ、何が原因でなくなったの!!」


 おばあちゃん、皆...!!

 もう、会えない、の?


「言っただろ?『失われた時代』だって。精霊が眠りについていたために殆ど記録がないんだ。何が起こり、なぜ滅んだのかもわからない」

 バラガは首を振った。


「君の魂はおそらく『失われた時代』で力尽き、僕達がいまいるこの時代に転生したんだろう。

 ただ今度は人間ではなく、光の精霊王の器に入る魂に選ばれて」


 私は膝に置いていたオパールの石をじっと見つめた。

 

「私さ、謝らなきゃいけない人達がたくさんいるの。

いっぱい心配かけちゃってさ。なのに、もう会うこともできないなんて...」

「オパール...」

「謝らなきゃいけない相手なのに、名前も思い出せないの。大事な人達だったのに。ぜんぜん思いだせないの」


 吐きそうなほど苦しいのに不思議と涙が出なかった。

 ワンピースのスカートを掴み、くしゃりと歪んだ表情が目の前の緑の瞳に映っていた。

 


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