8.聖獣
「オパールの名前はその石から?」
膝の上の石を見てバラガは言った。
「...うん、金髪の美女がその名前にするって。
ここに来た時、自分の名前もわからなくて...」
「その石は精霊石と言うんだよ」
「精霊石?」
「魔法を使ったとき光ったりしなかった?
この石は僕ら精霊が器の力をつかうときの媒体なんだ。持ち主の魂の質によって形状が変わる。」
見せて、と言われオパールの石をテーブルの上に持ち上げた。石は優しい光を放っていた。オパールの石を持つ右手が彼の両手に包まれる。
「これから先、真の光の精霊王となるために、君は前世の記憶をだんたんと失っていくだろう。
精霊魔法を使うたびに過去の記憶は失われ、器の記憶が君に流れ込む。そして器と魂が同化していく。」
でも、とバラガは私の右手を包み込みながら私を見つめた。
「オパールは『想像』の石だ。
君が新しい何かになるのを怖がらないで。
新しい何かを作ることを恐れないで。」
新緑のような綺麗な緑の瞳が私をじっと見つめてくる。
「心配をかけた人達は君が大切だから心配したんだろ?
君自身が相手を大切に思っていたから、君に何かあった時相手も心配してくれた。
言葉に出せたら一番良かったのかもしれないけど、君の思いは伝わっていたんじゃないかな。」
ーー私はまた大事なものを作れるだろうか。
もし作れたら今度こそ大事にしたい。
心を閉じないで、気持ちを伝えたい。
辛い時は辛いと、楽しい時は楽しいと伝えたい。
「...うん、ありがとう。バラガ。」
心の奥底から何かあたたかいものがこみ上げてきて私はバラガに微笑んだ。
気持ちが落ち着いた私にほっとしたのか、バラガも優しく微笑む。
......。
ふと視線を感じた。
横を振り向くと店内の客全員がガラス越しに生暖かい目でこちらを見ている。
「あら、まあ」「ふふふ」といいたげな表情で顔を赤らめているご婦人が多数。
「ねぇ、バラガ。そういえばさっき店員さんと何を話していたの?」
少しひきつりながら私は聞く。
「え。あぁ、馬車が出る時間を聞いていたんだ。転移できないとなれば人間のフリをして王都から離れるしかない。」
「他には?」
「他?」
薄茶色の髪をした彼は小首をかしげながら
「あぁ、『彼女に大事な話があるからテラスを貸し切っていいか』と言ったかな」
「アナタノ発言ガ原因デスカ」
あぁ、絶対プロポーズ現場か何かと勘違いされてるよ...。
やたら気恥ずかしいご婦人達の桃色の空気が店内から私に注がれていて、あまりの居心地の悪さにバラガから手を離そうとした瞬間、
「ちょーっとぉ!!バラガ様から離れなさい、この小娘がっ!!」
むにっ!
顔にふにふにの白い何かが激突してきた。
尖った爪のある小さな手、ふわふわの毛なみ、手から足にかけて広がる飛膜。
「も、モモンガ?」
「キーッ!誰がモモンガですって!失礼にもほどがあるわ!」
激突してきた白い動物は、テーブルに舞い降りると、私の目の前でキーキーと両手を腰にあてて、やたらつっかかってくるが、やはりモモンガにしか見えない。
「それぐらいにしなさい。ラタ。彼女は光の精霊王だよ。きちんと挨拶して。」
見かねたバラガが白いモモンガらしき動物を私から引き離した。
白い動物は、むぅっとした顔で私を一瞬睨むと、顔を背けツンとすまして名前を名乗った。
「私はラタ。バラガ様の聖獣よ。」
聖獣ラタ◇世界樹に住む聖獣ラタトスク(決してモモンガではない。多分)




