35.落ちた葉
またブックマークしてくださった方々がいて嬉しいです!ありがとうございます!最近忙しくてなかなか書けないのですが、うん、頑張ろうって元気が出ました。
◇◇◇◇
「お嬢様の部屋を風通ししてきてくれるかい?」
薄暗い長い廊下に壮年期を過ぎた男の声が響く。
「わかりました。執事長、明日は領主様が帰って来られるのですよね?」
「あぁ、いつもは王城近くのタウンハウスに入り浸りで領地には顔も出さないのに。いったいどういう風の吹き回しなのだろうね」
「...そうですね。ですが、体の弱いお嬢様に王都でしか手に入らない高価なお薬を欠かさず送ってくださっていたのも事実。あんな方ですが、親類の情はお持ちなのでは?」
使用人のお仕着せを身に付けた女は、執事長と呼んだ男と別れると館の三階へと階段を上がる。
本来なら使用人用の階段があるのだが、彼女は主人や客人の貴族達が使うエントランスの大階段を使った。明日にはこの館の主がやってくるため絵画の位置や階段がきちんと掃除されているかの確認をするためだ。
昼の刻と言うのに館全体が薄暗いのは使用人達の心の現れだろうか。執事長にはああ言ったものの女自身もこの館の主が帰ってくることを心から喜べてはいなかった。
「あら?木の葉?」
目的の部屋の扉を開けると足元に緑色も鮮やかな葉が数枚落ちている。
「おかしいわね。窓は閉めていたはずなんだけど...」
改めて窓を見てもカーテンは風にそよいでもおらず開いてる様子はない。
不思議に思いながら木の葉を全て拾い上げお仕着せのポケットに入れると、カーテンを開け窓を押し広げた。爽やかな風が部屋に入り込むとともに後方に自分以外にも風を受ける対象があることに気付き慌てて後ろを振り向いた。
「ひっ....あ、あなたは?どうやって入ったの?」
恐怖で慄きそうになったが、自分の後方にいた人物が思ったより若い少年だったことで、使用人の女は大きな声ではしたなく叫ぶことはなかった。
少年は窓からの風を受け薄茶色の髪を揺らしながらただじっと天蓋のついた寝台を美しい緑の瞳で見つめている。
そして少年の手には色鮮やかな花束が握られていた。
「...お嬢様に会いに来てくれたのですか?」
花束を見ながらそう問うと彼はやっと女のほうを顔だけで振り向き微笑えむ。
その顔にどこか既視感を感じ女は眉を寄せた。
「......?あなたどこかで?いえ、あの子はもう今は成人しているはず......」
そこまで言った途端、急に女は無言になった。
お仕着せのポケットから木の葉が吹き上がり、女の顔の周りでクルクルと回る。
女の灰色の瞳が一瞬緑色に光り再び元の色へと戻った。
「あぁ、あなたでしたの」
途端に女はにっこりと親しみを込めて少年に笑いかけ、ベッドサイドにある椅子を勧める。
「花瓶をもってきてくれる?」
「ええ。勿論ですよ。綺麗なお花ですね。きっとお喜びになりますわ」
そう言って使用人の女は、一礼してそそくさと部屋を出て行った。
扉が完全に閉まるのを見届けた少年は、寝台の天蓋から吊り下がる布地をまくった。
「......あまり人の意識を操る術は好きではないんだけどね。あの男がこの館の持ち主になってから僕はここに入りづらくなったので仕方ないね。
君や君の両親だったら僕が何者かを知っても気にならなかったけど」
寝台に腰掛けると手に持った花束をサイドテーブルへと置く。
「あぁ。この花束。綺麗だよね。君へのお見舞いらしいよ。...懐かしいね。君がまだ少しは元気だった頃僕たちもよく庭で花を摘んだ。ははっ、庭園の花を摘みすぎてそこだけ花がなくなって庭師を困らせたこともあったよね」
枕元に視線を向け少年は昔を懐かしむように笑った。しかし、その笑みは次第に悲しげな自嘲するような笑みに変わる。
「......。また...あの時みたいに誰かを困らすのかな。僕は自分がしていることがこれでいいのかわからなくなってきたよ」
ギュッと寝台のシーツを握り少年は顔を背けるように俯いた。
「ねぇ、いつまで君はそこにいるの?
君は生きたいと思ってる?」
「教えてよ。アクア」




