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アストラル・レコード  作者: 藍沢義也
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波動

ユキはほぼ毎日のように僕の所にやってきた。


ユキの来ない日でも、僕は毎日幽体離脱を続け、トレーニングを積んだ。

次なる目標は瞬間移動だ。


「あれだけ高速移動が出来るんだから、要領は同じよ」とユキは言っていた。


つまり、自分が行きたい場所をイメージして先に意識をそこに飛ばす。

そして、追うように幽体を移動させる。


まぁ、言うのは簡単だけどなかなか上手くいかない。


「初めは仕方ないんだけど、肉体の意識が強すぎるのよね。いい?幽体って自由なものなの。"意識"さえあれば自在に作り出せるの。意味分かる?」


「申し訳ないけど、さっぱり分からないよ」


うーん、とユキがうなった。


「目的地に意識を飛ばしたら……つまりイメージしたら、今ある幽体を消してしまうのよ。そして、目的地で新しく出現させるの」


「3Dプリンターみたいな感じかな」


「そうね。再出現のイメージはそんな感じ。情報だけ送って、そこにあるエネルギーを使って形を作る、みたいな」


3Dプリンターは知ってるのか……。


「結構な難易度だね」


改めて師匠のすごさを感じる。

が、そんなもんではなかったのだ。


「幽体を自由にコントロールできるようになるとね、色んな事ができるようになるのよ。例えば……ちょっと見ていてね」


ユキが目を閉じる。


そのまま見ていると、その姿がだんだんと薄くなり、霧が空気に紛れるかのように消えてしまった。


それからまた少しずつ霧が集まり、人の形になっていく。


「マジか……」


再度現れたのは、少女の姿になったユキだった。中学生くらいだろうか。


これはすごい……。


「どう?」とユキが得意気に言う。


姿が姿なだけに、まるで新しい服を自慢する女の子みたいだった。


「……かわいい」


思わず心の声がぽろりと口から出た。幽体時は本当に口が軽くなる。


「そうじゃなくて!」


ユキが怒ったように言った。

照れているみたいにも見えたけど。


もう!と言ってすぐに元の姿に戻ってしまったけれど、僕の頭には今とはまた違った美しさを持った少女の残像がしっかりと残っていた。


もし、僕が中学生くらいの時に彼女に会っていたらと思うとぞっとした。

それはそれは激しい恋に落ちて悶死したことだろう。間違いなく。


「この世にあるものは、全て振動しているの」


美人教師の講義が再開した。「だから、それぞれに振動数というものがあるのね。音波のようなもの。波動、と言ってもいいわね」


「うん」


「石には石の波動が、植物には植物の波動、木にも物にも、見えないものにも全部に固有の波動があるのよ」


「それは、人にもあるってことだね?」


「そう。脳波なんかは分かりやすいわよね。脳から出ている波、つまり波動。それが一人一人みんな違うわけ」


「その人独自の波動を持っているってことか」


「うん。しかもそれは変化するの。気分だったり、感情、環境、体調、経験なんかで」


「そうか!」


合点がいった。「それでさっきは自分の少女時代の振動数に幽体を変えたんだね!」


「おー、どうしたヤマト」


完全にできの悪い生徒の正解に困惑する教師の顔である。

「その通りよ。自分の波動を変えることによって、好きな状態でいられるの」


「僕にも出来るってことだよね」


「そうよ。訓練が必要だけど。……実際、幽体離脱者達は自分が一番エネルギーに溢れていた若い時代の姿でいることが多いわね」


「そうなんだ……」


あれ?まてよ。


僕の頭に疑問が浮かんだ。

僕は当たり前のようにユキの事を同世代だと思っていたけれど、幽体である以上見た目はあてにならないという事になる。


実際にはかなり年上だったり、もしかしたらおばあちゃんだっていう事だってあり得るんだ。


「あのさ……」

僕は思いきって訊いてみた。「ユキって歳いくつなの?」


それに対して、


「面白いこと訊くのね」とユキはにっこりと笑った。「女性に年齢を訊くなんてことが許されるとでも思ってるのかしら。しかも離脱者に」


ああ、これは怒る寸前の顔だ。


「お許しを」


深々と頭を下げる以外打つ手はなかった。

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