第8話 九重優の部活
オレと潤の弁当の中身が同じだった事件は、オレが笑うというクラスではありえない事件に抹消され、誰の記憶にも残っていないらしく、オレはその事にほっとして、放課後になった。
オレはカバンとギターケースを握り、ある場所へと 足を運ぶのだが・・・
「ねぇ、朝から気になっていたんだけどさ。そのケ ースみたいなのに、何が入っているの?」
潤の好奇心旺盛な質問により、オレが手に持っているギターケースに興味津々のご様子。オレはギター が入っていると言い、それを聞いても首を傾げ、分からないと言いたげそうな表情を浮かべる潤。
「部活に使うんだよ。オレは軽音楽部という楽器を使用して演奏する部活に所属していてな?オレも演奏するから、コレがある訳だ」
一通り説明してやったのだが、キョトンとした表情でオレを見るのだが・・・仕方なく部活の見学でもさせるか?仲間も嬉しがる筈だしな。
「気になるならオレについて来い」
それだけを伝え、潤はコクりと頭を頷けさせて、オレの右隣に並び、ある場所へと足を運び始めたのであったーー。
その時、男子諸君はというと・・・オレの真似をし たら女子ともっと仲良くなるのでは?と思ったらしく、真顔の練習をするのであったが・・・女子はその男子諸君を冷たい視線を送っていたのを、そっとしておいたのだ。
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軽音楽部の部室である第三音楽室。
何故そんなに音楽室があるのか?というと、昔から 吹奏楽部や合唱部、そして軽音楽部がこの雷鳴高校の伝統ある部活らしく、主に女子に大人気だそうで 、入部希望が後を絶えず、ずっと存続し続けるし、仕方ないから音楽室を三つ作っちゃえという昔の偉い人の指示で、音楽室が三つもある訳なのだ。
「失礼」
オレはそんな伝統的な部活に所属していて、今日は部活をする気分・・・いや、これからもずっとする予定なので、第三音楽室のドアノブの捻る前に、一 言伝え扉を開き、見覚えのある連中の姿を目視して
「昨日はすまんかったな。今回は、出来る事なら何でもするから、それで許してくれ。っと、その前にだ・・・」
昨日サボったお詫びとして、何でもすると言ってしまったが、その後の衝撃の事実に耳を疑わせて、忘れさせてしまうという算段を起こす事にしたのだ。
「部活見学者を連れてきた。オレのクラスに転校生として来た女の子だ。ほれ、挨拶しろ」
オレは潤をオレの仲間の前に押しやり、潤は頬に朱を浮かばせながら、身長が低い為、若干上目遣いして、口を開く。
「こ、こんにちわっ。本日、この雷鳴高校に転入してきた夕崎潤ですっ!優に誘われてこの部に見学をしたいと思いましてですねっ!」
潤は緊張していて、堅い口調でオレの仲間に話すのだが・・・ある事情で一年生の女子四名しかいないのだ。 おっと、その辺も含めて、何故オレがこの軽音楽部に所属しているのかも語ろうではないかーーー
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side 九重 優 (高校入学時)
オレ達、雷鳴高校の入学者は何らかの部活に絶対に 入らないといけないという掟があり、部活を探して各々気になる部活へと入部していけという教師の命令により、オレはギターが趣味で、バンドに興味を持ったので、バンドが出来るという軽音楽部の部室を教師から聞き、第三音楽室へと足を運び、その音楽室へと入っていくと・・・
「にゅ、入部希望ですかっ?!ってあれ?男子?」
「「「な~んだ・・・違うのか」」」
見知らぬ四人の女子がいて、オレの姿を見ては何だかガッカリしていたのだが・・・人を見るなり何だとは何だ。
しかし、この部は女子しかいないな・・・もしかして・・・
「なあ。ここはガールズバンドなのか?男子は入ったらダメなのか?」
オレは真顔のままで軽音楽部らしき人物達にこの軽 音楽部の情報を聞き出す事にしたのだが・・・四人の女子は顔を弾ける笑顔へと変わり・・・
『入部希望ですか?!』
目をキラキラとさせ、オレを正式に軽音楽部のメンバーに認めてくれたのだが・・・何故、こんなにガランとしているのか?そんな疑問をぶつけるとどう やら廃部寸前らしい。
でも、何故伝統ある軽音楽部がそんな事になっているのか?
これは彼女達の推論だが、ギターやベース等の楽器の費用が高くて、手が出せなくて仕方ないからなのでは? という現実味がある問題があるらしい。
オレは知り合いからギターをもらい受けているので 、費用はメンテナンス代ぐらいしか掛かっていない 。そして、彼女達はどうにか安値で買い取ってくれないか?という値引き交渉をしたそうで、お手頃な価格で楽器を入手したらしい。
部費でどうにかならないものか?と彼女達に質問したのだが、個人の都合では部費を使えないという心狭いヤツの発言があるので、部費ではどうにもならず、今至るという訳だというのだ。
「へぇ、色々と大変なんだな」
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side 九重 優 (現在)
という感じで、なかなか部員が集まらなくて困って いるという訳だ。
だが、女の子と仲良くなりたい男子諸君はオレの状況が羨ましいだの変われだのと言うのだが、女子の冷たい眼差しにより文句は言わなくなったのだ。
「あ~。そういえば、転校生が来たとか言ってたよな~」
ボーカル担当の高橋葵は転校生の情報を再確認していく。 高橋葵は、ボブの髪型で、顔立ちが整っていて美人だ。体型もスラッとしていて身長は160センチ前半だ。
「そうそう~!昼休みに一組の教室に見に行ってみたら、男子達が九重くんが笑った~みたいな事を聞いたよ~」
ギター担当の橘恵子がオレが笑ったという情報を皆に伝え、皆は唖然とした表情を浮かべ、互いを見つめるが・・・オレが笑ったというぐらいで大騒ぎする事なのか? ちなみに橘恵子の容姿は、短いポニーテールの髪型に、その髪型に合う顔の作りを持ち合わせていて、子供っぽい女の子だ。
「えっ?!あの九重くんが?!わ、私、気になりますっ!九重くんっ」
ベース担当の河井美羽は目をランランと輝かせて、オレに近寄り、顔を覗きこむのだが・・・少しばかり離れてほしい。 河井美羽は、肩甲骨を覆う程のボリューム感がある黒くてサラサラした髪の毛を持ち合わせていて、前髪はパッツン。顔も美形。所謂美人だ。
「気にならんでいい」
「もうっ!少しぐらい心を開いてよっ」
河井はオレの笑顔を見るのを諦めて、音楽室にある フカフカした長イスに座っていく。音楽室には机と椅子が部員の人数分用意されていて、更に長イスが二個あるので急に入部希望者が来ても対応する為に、そこらに座らせて演奏なり、相談事なりをやって入部へと導くのだが、今までは成功した事も、それどころかその入部希望者がいないのだ。
まぁ、オレの状況を見たさに、たまに男子の一部が来るのだが・・・オレ達は、それを見て見ぬフリをする訳だ。
「隠してもムダだぁっ!私の邪王真眼によって、それを再現するんだーっ! 」
中二病っぽい発言するドラム担当の松田千枝。
松田千枝は、姫カットの髪型で、その髪型に似合う顔立ちをしており、可愛いを猛アピールさせているが・・・先ほどの発言はネタなので、松田は中二病ではないのでご安心だ。
それよりも、どいつもこいつも美人で、スタイルもよろしい。それで、オレはというと、フツメン。それ以上でも以下でもない。
彼女達はそんなオレの事を信頼しているらしい。
「ほぉ、やってみろよ。その邪王何とかでよ」
松田は中二病のキャラが気に入っているらしく、まだ中二病の設定をやるらしいが・・・
そういえば、松田は気に入った事は全力で取り組む事が癖があるんだよな。軽音楽部の事でもそしてこのコントでも、何でもだ。こんな松田を心より尊敬しているかもしれない。
その松田は、部活見学者がいるのにも関わらず、中二病全開でオレの目の前にスタスタと歩き、ちょうどオレの真正面にいる訳だ。
「爆ぜろ現実っ!弾けろ神経細胞間の伝達部っ!」
松田は謎の呪文を唱えながら、両手をワキワキと動かし、オレの右側と左側の横腹を同時にくすぐってきたのだが・・・別に何ともない。
「バルシュメントっ、ディス「やめんか」あぅっ」
松田の発言がこれ以上続いたら色々とダメな気がしたので、松田のおでこを軽く小突き、松田はそのダメージに数歩後退してしまう。
・・・か弱いのな・・・お前。って、それよりもだな、まずは部活見学者の世話をしろよな・・・潤がポカンとしているぞ?
「いつまでコイツの事、ほったらかしにしてるんだ?」
『うっ、ご、ごめんなさいっ』
アホな部員達は頭を下げ、そのアホな部員達の姿を見た潤は心優しい性格からか、許してくれた。
「ほれ、とりあえず演奏するぞ。配置につけ」
『う、うんっ』
オレは潤の為に演奏してやる事にして、部員達に指示し、部員達は、それぞれ己が使用する楽器を手に持ち、潤を長イスに座らせて、潤の目の前に立ち、構える。
「アレをやろう。いつものやつ」
オレは更に部員に指示。実は、オレは部長であり、この軽音楽部のムードメーカー的な存在らしいのだが・・・特に困らないのでそっとしておこう。
「おうっ!やろうぜぇ、皆ぁ!」
「「「おおっ!」」」
高橋の喝で橘、河井、松田は腕を高らかに上げてやる気を起こすが、オレはいつもの真顔で、ギターを構え、奏でる。部員達はそれに負けじと楽器を弾いていく。
橘と俺のギターの二つの音が見事に重なり、一つの音楽を奏で、上田のベースはそれを支えてくれる見事な演奏。そして力強く、心に余裕を持たせるくらい上手い松田のドラム。
その音楽を潤に想いと共に届け、オレ達の演奏は終了。すると、潤は立ち上がってパチパチと拍手喝采を送ってきた。
「す、すごぉいっ!よく分かんないけど、なんかスゴいっ!」
純粋に楽しめたらしく、その顔には無邪気な笑み。オレ達の演奏はそこまで上手とは言えないが、こんな風に褒められた事は初めての体験なのだ。それもその筈、オレ達はまだ一年生で、文化祭等の学校行事での演奏はまだ行っていないからだ。
だから、オレ達の演奏を耳にしたのは潤が初めてなのだ。更にこの部室は、防音対策を施していて外に音が漏れない作りとなっているらしく、放課後学校に残っている生徒にも聞こえていないらしい。
「や、やったぁ~っ!褒められた~」
「良かった~っ。上手くできたみたいっ」
「し、失敗しなくて良かったっ」
「いえ~いっ」
部員達は互いに、はいタッチで喜びを分かち合い、笑みを浮かばせていた。もちろん、オレも皆に、はいタッチをして喜んでいると表現した。
「こ、九重が素直だっ?!」
「いつもはこんな事してくれなかったのに!」
「き、今日、大雨振るかもっ!」
「ええ?!か、傘持ってきてないよーっ」
オレの異変?に驚く部員達。そういえば、はいタッチみたいな触れ合いは今初めてだったな・・・いつもは部員達が求めてくるが、オレはそれをやんわりと断り続け、できるだけ女子との接触を避けた。
何故なら、オレが女子と接するだけでうるさい桐島が更にうるさくなるので、めんどくさかったのだが・・・今回だけサービスという事で行ったのだ。
「楽しそうな部活だねっ。優と一緒に部活したらもっともっと楽しくなるかもっ。私、この部に入部したいですっ!」
潤は、この軽音楽部に入部するとオレ達に報告し、部活達は喜びを分かち合うのだが、 ある問題点が潤を襲ってしまうのであったーー。