第14話 作戦開始
とある公園のベンチに、九重優とビトクは座り、尾行している潤は九重優に見つからないように、取り寄せポーチからあるアイテムを取り出したのだ。
そのアイテムの名は『スケルトンマント』
スケルトンマントは見た目はただの黒いマントだが、身につけると自分の姿や声、匂い、存在感を消す事ができるが、モノを掴む事や生き物に触る事はできない潜入捜査で有効なアイテムなのだ。
そのマントを身につけた潤は九重優の顔をじっと見つめては顔を赤くし、あわあわ言って非常に困っていた・・・が、そんな潤の姿は誰にも見えないので気にしないでもらいたい。
「で?話って何だ?いや、それよりもキミの名前は?」
「す、すみません、名乗れません。ほら、名乗ったら私が心配してるって潤さんに気づかれるから・・・」
「なるほどな。で、キミはアイツの友達なのか?」
九重優の質問に、ビトクは俯いてしまう。少しマズい質問したのかを本気で心配する九重優。だが、ビトクと潤はほぼ初対面なので友達といえる間柄なのかを考えたが、なんでも屋のビトクはプロ根性を魅せる。
「えぇ・・・友達です・・・だから、潤さんが元気でやっているかとか、そんな些細な事を知りたいんです」
「なるほど・・・友達だから気を使っているって訳か。まぁ、アイツは根は優しいからな」
「ふふふっ、私もその優しさに救われたんですよ。だから・・・私は殺し屋になれたんですよねぇ」
ビトクはボスの命令通りに自分の事を殺し屋と偽って九重優に接した。
そんなビトクはニタリと邪悪な笑みを浮かばせて、ギロリと九重優を睨む。が、九重優はというと・・・
「・・・へぇ~・・・そうなんだ・・・」
全く信じてないようだ。その証拠に全然表情すら変えず、棒読みで喋ったからだ。
「あ、信じてないですね・・・」
「いや、信じてるよ?殺し屋。ただ、驚いただけっつうかさ?その、なんだ・・・ごめんな?」
謝ってくる九重優に優しさとあまり表情を変えないからどこかクールさを感じるビトクは、九重優を異性として好きという気持ちが芽生えた事は誰にも知らない・・・そう、ビトク本人でも。
「う、ううんっ!気にしてないよっ!」
「そっか・・・ありがとうな?殺し屋。あ、それから、アイツは元気でやっているよ」
「そうですか!えへへ~」
ビトクは九重優に真っ正面から見つめるが、頬には朱が浮かんでいて、その赤い顔には笑みがこぼれていた。
「あ、それよりも、その呼び名は止めてください。実際に私は殺し屋なんですけど、名前までは殺し屋なんて事はないんですからっ」
「じゃあ、何と呼べば?」
「なんなりとっ!」
ビトクは地球では自分の名を名乗れないので、『ないとめあ』のメンバーの方や自分で名を考えるのもいいと思ったのだが、折角なので九重優に自分の呼び名を考えてもらう事にした・・・というのは建前で、異性として見てしまう九重優に名を与えられるという事が最大の喜び。
その喜びは本心であり、恋に落ちたからである。だが、ビトクは恋を知らないので、その喜びの原因が恋とは知らない・・・しかし、このときめく胸はなんなんだろうか?もしかしたら、これが恋なのでは?と推理する。
一方、九重優はビトクの呼び名を考えついたらしく、口を開き、ビトクの目を真っ直ぐに見つめてくる。そんなビトクは顔を真っ赤にしていた。その様子を見ている姿を消している潤はふくれっ面をしているが、誰にも見えないのでそっとしておいてほしい。
「そうだな・・・殺し屋を英語で言うとキラー。だから、それを借用して、キラはどうだ?」
「おぉ~っ!カッコいいーっ!ステキー!」
ビトクは目をランランと輝かせて、九重優に接近して両者の顔と顔の距離は30センチまで近づき、無邪気な笑みを浮かべるが、九重優が目の前にいるのが恥ずかしくて、顔を反らすビトク。
だが、九重優は相も変わらず、ほぼ無表情なのだ。この男、どんな事をしたら照れるだろうか?もしかしたら、女の子に興味を持っていないだとしたらと思うとゾッとしてしまう。
「そんなに嬉しかったのか?良かったなぁ、キラ。おっと、漢字で書く時は、『煌』な」
九重優は地面に指で『煌』の字を書き、ビトクの地球での呼び名を与えた。これがどれほど嬉しいものかとビトクは・・・思考回路がショートし、顔を真っ赤にして、耳や顔から湯気がでるほど恥ずかしい気持ちになった。
「・・・?赤くなってるぞ?熱があるのか?」
そんな赤くなっているビトクのオデコに手を添えて、熱を測る九重優に胸が高まるビトク。まだ見ず知らずの人からこんなに優しくされる事はなかったので、どう反応したらいいのか分からなかったらしい。
「あぅっ、うぅ・・・ち、違いますっ!わ、私、もう用事はありませんので、ここで失礼しますっ!」
ビトクは赤い顔をしながら、ベンチから立ち上がり、その場を去ろうとしていた。
だが、本来の目的である恋の調査はまだ終わっていない事に気づき、ベンチに座っている九重優の隣に座って、顔を俯いてしまう。
「・・・?どこかに行くんじゃなかったのか?それとも、まだ何か用があるのか?」
「い、いえ、ここで別れたらあなたに二度と会えない気がして・・しばらくここに居てくれませんか?」
「別にいいんだが・・二度会えない事はないだろう。オレの家を知っているから会おうと思えばいつでも会えるぞ?キラよ」
九重優の発言に耳を疑ったビトク。何故こうも優しくしてくれるんだろうか?でも、理由なんてどうでもいい。九重優にまた会えるなら、どうなったっていいのだから、とビトクは恋する乙女となってしまった。
「うん・・・でも、いいですよ。またその内、会えるでしょうから」
「おう、お前がそれでよければいいんだがな」
ビトクは微笑みを浮かべ、立ち上がり、数歩前に進み、身を翻して、九重優の真正面に立ち、口を開く。
「改めて自己紹介をさせていただきます。あなたが名付けてくれた名前なんですけど・・・私はキラです。職業は殺し屋ですっ!よろしくねっ」
九重優は、ふと笑い、口を開く。その貴重な笑みを見逃さないと潤とビトクは九重優の顔をじっくりと見つめる。
そんなビトクが見つめてくるのを気にせず、九重優は口を開く。
「オレは九重優、高校一年生のただの人間さ。よろしくな?キラ」
九重優はビトクに自己紹介。その表情には、子供に接する父親の顔のような優しさが伝わるような暖かい笑みを浮かんでいた。
「うんっ、優さんっ!またねっ!」
「ああ、キラ」
ビトクは九重優に懐いてしまったのだが、その理由はビトク自信には分からない。恋を知る筈がいつの間にか恋に落ちてしまった。
そんなビトクは九重優と別れて、辺り一面を見渡し、誰も居ない事を確認した。
「ザドキエルさん、出てきてください。どこですか?」
ビトクは近くに潤がいる事が分かるので、話しかける。その近くに黒いマントを持った潤が急に現れた。潤が身につけたスケルトンマントを脱ぐと、自分の姿を表す事ができるのだ。
「ぶぅ!優に名前付けられるなんてっ!」
いきなり現れた潤はふくれっ面でビトクに怒っている。九重優に優しくしてもらい、そして名前まで与えられるという幸せを目の当たりにしたから、嫉妬してしまう潤。
「えへへ~。やりましたよ~、ザドキエルさん。ミッション成功ですよ~」
嬉しさで満面の笑みを浮かべるビトク。しかし、恋を知る事ができたのだろうか?その顔には、自信満々の表情だ。
「そ、そう?じゃあ、ノアに帰る?」
「はいっ!ミカエルさんに報告しないとっ!」
潤とビトクは「どこでも行けるくん」を使い、『ノア』へ帰還するのであったーー。




