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#20

 翌日。文化祭二日目。

 目的の劇を見終わり、昼食をとるために体育館から出たところで、ミドリはああ、と声を上げた。


「そういえば、先輩の作品も、柊木の絵すらも見ていなかったな」

「ええー、いる?」

「他の方々の作品も見よう」

「……仕方ないなあ。先に見に行くかあ」




 展示場所に入ると、入口付近でルカが来場者を数えていた。


「あれ?まだよな?」

「見に来ただけだから」


 人が少ないこともあり、静かな教室をゆったりと見学する。

 他にも写真部や創作部などが展示していた。


「市井さん、写真部だったんだ……」


 そのとき、ユカリはアカリの写真に寂しさを感じた。

 なぜかは自分でもわからなかったが、その点が、他の同じモチーフを写した写真と異なっていた。

 しかし、ユカリは写真に詳しいわけでもないため、気のせいだと思うことにした。


 移動しようと隣を見ると、ミドリがいなくなっていた。

 しばらく目を離した隙に、見失ってしまったらしい。


「ありがとうございます」


 焦って探していると、すぐに見つかった。

 創作部のブースにいたらしい。


「柊木」

「もういいの?」

「ああ。手間を取らせたね。昼食といこうか」




 そろそろ時間なので移動しようとしたとき、ミドリのスマホに電話がかかってきた。


「すまない」

「あー、じゃあ、僕もう行くね」

「いってらっしゃいな」


「どうしたんですか?きんとんさん」


 教室へ向かう友人を見送り、電話に出る。

 相手は自分と同じ、もう一人の新人合唱部員だった。




「わざわざごめんね」


 話したいことがあると言われ、体育館裏に呼び出された。

 人気のない場所というものはこの文化祭中にあるはずもないが、ここならば、出入り口からも遠く、人通りもまずない。


「ご用件はなんですか?」


 用件も伝えず呼び出したアグリに、ミドリの語調はやや棘があった。


「シキサイって知ってる?」


 へらへらと笑うその口から飛び出してきたのは、思いもよらぬ単語だった。


「シキ、サイ……色ですか?」


 知っているからなんだと言うのか。

 ミドリは悟られないように、知らない振りをすることにした。


「これならわかるよね」


 アグリは生徒手帳の白紙のページをちぎると、暗い色に染め上げた。

 薄暗くて見づらいが、ミドリにはそれが赤っぽい色に見えた。


「へえ……それを、どこで?」

「昨日、あの後、手のひらから絵の具が出てきて……誰も見えてないみたいだったけど」


 とても怖かった。アグリはそうこぼした。


「シキサイって何?目覚めたって……」

「落ち着いて、深呼吸をしましょう。吸って……吐いて……はい」

「言われたんだ。女の子に……先輩だったかもしれないけど」

「シキサイが目覚めたと言われたということですね?」

「そんな感じ」


 おそらくトオルだろう。

 いつ言われたのかはわからないが、予定から察するに、昨日自分たちが話した後だろうと思った。

 しかし、そのときは何も言われなかったため、気づいたのもその後だろうと思った。


「わたくしも同様の能力を持っています」


 そういえば言っていなかった、と言って、ミドリはポケットからメモ帳を取り出し、一枚ちぎり取った。

 そして、先程のアグリと同様に、ちぎったメモ帳を自分の名前と同じ色に染める。


「やっぱりそうだったんだ」

「……どうしてわかったんですか?」

「あのとき、妙に冷静だったから」


 先輩たちも感じ取っていたということはミドリも感じ取っていたはずだ。

 しかし、経験している先輩たちはともかく、自分と同じく初めての経験だったはずのミドリが状況を理解していたことに、アグリは疑問を持ったのだった。


「名刺を渡されたことはありますか?」

「誰に?」

「音無透さんという女子生徒です」

「うーん……覚えてないけど多分ないんじゃないかな」

「……そうですか」


 春、ミドリたちはトオルに渡された名刺を頼りに研究所を訪れ、これらの事象を知った。

 シキサイについて知っているのは彼女だけだと言っていたため、アグリに接触したのも彼女だと思ったが、名刺は渡されていないという。

 ミドリは今日にでもトオルに連絡を取ることにし、その場は解散することにした。

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