#21
アグリと別れ、その辺をうろついているうちに時間になったので、ユカリを呼んで閉会式に向かった。
自分たちのクラスは映像部門の優秀賞をもらった。
一番ではないが、それでも評価されたことが嬉しかったのか、感極まって泣き出した者もいた。
教室へ戻っても、何か道具を用意したわけではないため、普段と何ら変わりはない。
それは少し寂しいな、とユカリが言う。
「――!」
帰ろうと階段を下りていたそのとき、声が聞こえた。
時々聞こえてくるこの声は、何を叫んでいるのだろうか。
ユカリに尋ねても通じないということは、この声は自分にしか聞こえていないのだろう。
疲れているのだろう。
ここしばらく、周りがなんだか騒がしくてよく眠れずにいた。
それもあって、ミドリは気にしないようにしていた。
「――!」
また、声が聞こえた。
何もないことはわかっているが、振り返ってみる。
F組の教室が、茜色に染まって見える。
「すまない。忘れ物をした」
なぜか胸騒ぎがしたミドリは、ユカリに断って教室に戻ることにした。
「えっ、ちょっと……三枝!?」
言うだけ言って走り去るミドリ。
「……何?あれ……」
ユカリは、その先に禍々しい影を見た。
教室の前に着くが、なぜか静まりかえっている。
まだ残っている生徒がいたはずだ。
何かが起きていると思ったミドリは警戒しながらドアを開けようとした。
「あれ、三枝?」
そこへ、ルカがやってきた。
「どうしたの」
「……忘れ物を取りに来ました」
「私は市井を探しに。……見てない?」
「いえ、見ていません」
「ここに」
いる気がする。
そう呟くと、ミドリが静止する間もなく、ルカは勢いよくドアを開けた。
そこにあったのは異様な光景だった。
明かりのついていない部屋は、夕日に照らされ赤く染まり。
まるでクモの巣のように教室中に張り巡らされた紐は、あちこちにまゆ状の塊を作っている。
そして、何よりも――
「よけて!」
何かが二人を目がけて飛んできた。
ミドリはルカの腕を引き、その場に伏せる。
声の主はユカリだった。
「助かった」
「それより何?あれ……」
「どうしたんだよ、市井」
アカリは教師のように黒板の前に立っていた。
ルカが声をかけるが、反応はない。
ルカは机を避けながらアカリに近づいていく。
「待ってください」
ミドリが腕をかばいながら立ち上がる。
「危険です」
逆光ではっきりとは見えないが、アカリの目は虚ろだ。正気ではないのかもしれない。
大きな針が飛んでくる。先程飛んできたものもこれだったのだろう。
つい先程ミドリの腕をかすめたが、直撃すれば怪我で済まなかったかもしれない。
「――!」
痛い、痛い。一人にしないで。お父さん、お母さん、お兄ちゃん……。
「市井!」
はっとして声のする方を見る。ルカがアカリに声をかけていた。
『行かないで!』
これまで聞こえていたあの声がこのとき初めてはっきりと聞こえた。
「三枝?」
ユカリは心配そうにミドリを見る。
ミドリはアカリを見据えて言った。
「一人になりたくないのですね?」
ミドリの問いかけに、アカリはゆっくりと口を開いた。
「……誰もあたしのことなんて見やしない」
「記憶の中のあたしはいつも一人で待ってた」
「お父さんもお母さんもあたしのことなんて見てくれない」
「あたしを見て!」
アカリの叫びに呼応するかのように彼女の背からクモの足が生えた。
この奇妙な状況は、やはりシミラによるものだったのだろう。
ユカリはロッカーからほうきを取り出し、ミドリに投げ渡す。
アカリは目の前にいるルカには目もくれず、紐を操ってミドリとユカリを絡めとる。
「だったら私が見てる」
ルカが言った。
「元からよく喋ってるし、寂しいなら話し相手くらいにはなる」
「だからさ、こんなことはやめて、今から遊びに行こう」
「そこの二人は?」
そう言って二人に尋ねる。
二人は顔を見合わせて答えた。
「行けます」
「行ける」
「じゃあ決まりだね」
「嘘」
「嘘じゃない。少なくとも今日は」
観念したのか、紐がほどけていく。
まゆからは気を失ったクラスメイトたちが出てきた。
そして、数分も経たずして教室は何事もなかったかのように元通りになった。




