百十八話 第三階層解放
その日、あらゆる情報配信サービスが同じニュースを報道した。
迷宮都市全土、いや世界全土にその知らせは届き渡る。
その知らせに記載された内容は差異はあれど、殆ど同じ内容、そして同じ画像が採用されていた。
迷宮都市の長、蘇衣然が中央に写りその左右に聖リント教会ギルドマスター朔間疑徒とアナライズアーツギルドマスター天空秀が握手を交わす写真。
記事の内容は簡潔に。
第三階層の完全攻略完了。
第四階層の進出可能。
攻略達成ギルド『アナライズアーツ』『聖リント教会』
参加探索者『Sランク聖名守凛佳』。
それとネットニュースの片隅に『ソラソラのモンスター鑑定チャンネル』の動画投稿再開という物もあった。
「アハハ、やりやがったよ。なんだよ揉めてたんじゃ無かったのかよ。心配して損したぜ」
パープルミストが迷宮都市に建設した事務所の中で、代表探索者セブン・レッドは笑い転げる。
「心配していたのかね?」
彼が笑い転げているのは事務所の社長室だ。
そこには当然、このギルドの社長が居る。迷宮都市が建設されてから、ダンジョン産業の中心地はこの都市になった。
そこに、大規模ギルドの代表が集まるのは当然の帰結だった。
ジョン・エナルドは笑い転げるセブンを溜息を付きながら眺め、そう呟いた。
「そりゃするだろ。たったモンスター一匹のためにあんたを通してアメリカ政府と交渉して、戦車だミサイルだを引っ張ってきて、それを言語を介する人型モンスターにぶっ放せる異常者だぞ。そんな相手とあんたなら戦争するか?」
「そういう意味か……確かにね……つまり彼は理由があれば人間を殺せる人間という事だ」
「違うね、全霊を殺意に乗せる事ができる人間だ」
「何かあってそうなったのか、それとも生まれつきそうなのか。興味深い話だ」
――
前人未踏の領域が一つ減った。
その事実を知り、彼女は微笑みを浮かべる。
「あったばかりの時はまだまだひよっこだったのに、もう大分上に行かれたわね。逃がした魚は大きかったという事かしら」
「どうしたんすか静香さん」
「マスターと呼びなさいと言っているでしょ」
ギルド『鮮血の偶像』が迷宮都市に居を構えるビル。
そのマスタールームで黒峰静香はノートパソコンを覗いていた。
そんな彼女に声を掛けたのは鮮血の偶像に新たに加入した新規探索者。
まだ中学生くらいの少年だった。
「上に行かれた? そうなのかな、それでもどうせ僕が本気でやれば全員倒せるんじゃないの?」
「強さで言えば、確かに貴方はリオンさん以外には勝てるかもね。けど、強いから勝つ訳じゃないわよ」
その事実を黒峰静香はダークエルフとの一戦で思い知らされた。
圧倒的な強さを持つダークエルフを天空秀は、準備の段階でほぼ打倒していた。
「まぁ、静香さんがそう言うならそうなのかもね。けど、実際どっちが強いか、いつかやらせてくれたら証明してみせるよ」
「頼もしいわね。けど駄目よ」
「分かってる。味方だしね」
「えぇ、それに君という情報を天空君の前に出す訳には行かないから」
(悪いわね天空君、私は貴方と競いたいの)
――
「それで、どうして君が私のギルドに顔を出すのだろうか?」
黒峰静香とジョン・エナルドはパープルミストの事務所の中で顔を向かい合わせていた。
「共同クエストの提案をさせて頂くためお伺いしました」
「共同クエスト? 面白そうな話じゃねぇか」
ジョン・エナルドの隣に足を組んで座っていたセブンが声を上げる。
「セブン、失礼だぞ」
「あぁ…… 翻訳のせいだよ翻訳の」
「構いませんわ。私も簡潔にご用件をお話いたしましょう。第四階層の先遣調査を共同で行いましょうというお話です」
第四階層。
第三階層が攻略された事で新たに移動可能となった新階層。
そこは正しく前人未踏。その調査は確かにAランクギルドと言えども容易い作戦では無い。
黒峰静香はそう考えていた。
「面白い提案だが、しかし少し危険すぎるのではないかね?」
極めて冷静に。
そして極めて平静に、パープルミストギルドマスターは一人の長として常識的な判断を下す。
けれど、黒峰静香はその返答を笑う。
「では、パープルミストはアナライズアーツの後を追うのですか?」
「……その言葉は少し失礼では?」
「ですが事実です。そして私たち鮮血の偶像もこのままではそうなってしまうと考えています。あの子に追いつき、まだ追うべき背中を見せて居たい。それが先達としての私の思いです」
「しかし……私は所属探索者の安全を守る立場だ」
パープルミストに所属する探索者のランクはAランクは三名。Bランクが数十名。
これではワダツミの第二階層の探索作戦が関の山だ。
「なあマスター。俺は良いぞ?」
セブンは悠然とした態度で、そう言った。
「実際、静香の言ってる事は正しい。俺たちは最高峰のギルドじゃ無いのか? それが先頭を歩かずして何をやるんだ?」
ジョンがセブンの顔をじっと見つめた。
ジョンは経営者であって探索者ではない。彼が成功を収めるに至ったのはギルドの創成当時から所属していたセブンという存在あっての物だ。
そして、ジョンも自分がアメリカ最高峰のギルドのオーナーであるという自負を持って行動して来た。
セブンの眼は、まだ空腹な龍の様に飢えている。少なくともジョンにはそう見えた。
「分かりました。第四階層の探索を行いましょう」




