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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第4章 彼女の師
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17.師①


 この少女と出会ってから2年と少しが経った。

 彼女とは2年のほとんどを森の中にある小屋で過ごしたが、たまに街へ連れていくこともあった。


 彼女と初めて会ってからちょうど1年が経った日には、街で新しい服を買ってやった。少しばかり高い買い物ではあったが、彼女のこれまでの境遇を考えたら値段など気にならなかった。

 その服をたった3日でボロボロにしてきたときには、このガキぶん殴ってやろうかと思ったりもした。


 2年が経った日には、彼女に見合った刀を買ってやった。

 これまではずっと自分の刀を振らせていたので、彼女にとっては大層重かっただろう。ただそのおかげで筋力が鍛えられ、新しい刀は自由自在に扱うことが出来ていた。

 それで調子に乗ってフライベアに単身で挑み、たった2日で刀を折って帰ってきたときには殺してやろうかと思ったりもした。


 だが、それから数ヶ月が経ち、ようやく少女は己の師匠から一本取ることが出来た。

 鍛練のため手加減はしていたとはいえ、油断はしていなかった。なのにこの少女は様々な実績を持つ自分から一本を取った。そのことがただ嬉しかった。


 ただ、あまりにもはしゃぐもんだから、腹が立って次の手合わせではボコボコにして泣かしてやった。


 そんな少女が12歳になったとある日、突然こんなことを訊いてきた。


「私はいつか、グリフトより強くなれるだろうか?」


 真剣な眼差し。彼女は自分にも知らない強い信念を持っている。だからきっと、彼女が自分を越す日はそう遠くない。

 そもそも、自分が12の時、ここまでの実力はなかったと思う。彼女はかなり剣の才能がある。魔法の才能はからっきしだが、魔力も普通の12歳よりはかなり多い部類と言える。魔力の強さはそれだけ生命力の強さに表すことができる。


 ただ、ここで肯定すればまた調子に乗りかねん。これまでそれで何度痛い目を見てきたことやら。服に刀に、次は何をやらかすか分かったもんじゃない。


 ――それに、儂もまだまだ越されるつもりもない。


 だからここは調子に乗らせんように、強い口調で言ってやった。


「お前が儂を越す? ふんっ! 無理じゃ無理。12の小娘が調子に乗るでない!」


 顔を背けながら、意地を張る子供のような感じになってしまったが、これだけハッキリと言ってやれば調子に乗ることもないだろう。


 少女はそんな師匠の顔をしばらく見つめると、フッと柔らかい笑みを作り、


「そっか!」


 と、どこか嬉しそうに頷いてから、食事を再開させた。





        ×  ×  ×





 街に戻ったハル、シュナ、クワシンは今後の方針を警備団の詰所で話してから、解散することになった。


 家に戻ると言ったハルに、今夜の夕飯はいらないということを伝えてシュナは警備団の詰所に残った。


「クワシン。少し頼みがあるんだが」


「……? 何だ?」


「あの司祭や教徒達の死体を見せてもらうことはできないだろうか?」


「死体なら警備団の死体安置所に保管されているが……何をするつもりだ?」


「少し、気になることがある。その後は教会に行って一応匂いが残ってないか調べるつもりだが」


 クワシンは手を顎に当てて考える素振りを見せた後、一度頷くと顔を上げる。


「まあいいだろう。だが、それならハル君にも残ってもらった方が良かったんじゃないか?」


 確かにその通りかもしれないが、シュナは首を横に振る。


「ハルは学校再開に向けて忙しい。それにさっきの様子を見るとやはり魔力が安定していないようだ。これ以上無理はさせたくない」


 1週間前のあの日は上手く魔力を制御出来ていたように見えたのだが、やはりまだ完璧にコントロールできてはいないらしい。実際先程も、たったあれだけのことで魔力切れを起こしかけた。


「そういうことなら案内しよう。ついてきなさい」


 警備団の死体安置所は詰所からそう離れておらず、徒歩で数分とかからず着いた。


「ここに保管されている。許可は私が出しておく。見る分には構わないがあまり弄らないでくれよ」


「分かっている。決して触れたりはしない」


 本来なら警備団と身内以外に入ることも見ることもできないのだが、シュナはこれまでに何度も警備団の捜査に協力しているし、その嗅覚で大いに貢献しているため信用されているのだろう。


 シュナはまず司祭の死体を見る。

 1週間前に見たぶりだが、確かにこれは中々に(むご)たらしい斬殺死体だ。左腕は二の腕辺りから切り離され、全身に鋭い切傷が刻まれている。


 どの傷が致命傷というよりも、大量の傷口からの出血死、もしくはその痛みによるショック死といったところか。確信を持って言えることは、彼は決して即死ではなくそれなりに苦しみながら死んでいったということだ。


「…………」


 他の死体も順に見ていく。

 どの死体も共通して言えることは、即死級の傷がある死体がないということだ。この教徒達は冒険者でもなんでもない。抵抗はされただろうが、殺そうと思えば一撃で殺せないような者達ではない。

 むしろ、必死に抵抗する者を剣や刀で殺さぬように徐々に切り刻んでいくというのは逆に難易度が上がっていく。それもこの数をいっぺんにとなると尚更だ。


 シュナは一通り死体を見た後、一度薄い溜め息を吐いてから安置所を出た。安置所の係となっている警備団員とクワシンに礼を言ってから今度は教会に向かった。


 正直犯人の匂いが残っているとは思っていない。シュナが見たかったのは別の部分だ。

 

 教会の扉を開く。とは言ってもハルのせいで現在の扉は簡易的に取り付けられたおんぼろの扉で、ギギギと不気味な音を立てる。


「ほう……流石は大量殺人現場。血の匂いが強すぎる」


 これでは犯人の匂いどころか、捜査をしたであろう警備団の匂いすら分からない。死者の数が多かったせいか犯行から10時間以上経った今でも血の匂いが充満していた。


 シュナは匂いは気にせず床を見る。

 そこには血だらけの身体を引きずったような跡が至るところにあった。先程死体を見たときに感じた通り、即死した者はおらず、ほとんどの者が痛みや恐怖に震えながら逃げようと這いずり回っていたのだろう。


「苦しめながら殺す、か……そこまで恨みを買っていたのか」


 それだけを確認したシュナは教会を出る。

 気にしないようにしていても、あそこまで血の匂いが充満した場所に長居すれば気分が悪くなる。


 ハルに夕飯はいらないと言っておいて正解だった。

 今は食事が喉を通るほど気分が良くない。


 このまま家に帰るのもいいが、食事を共にしない者が家の中にいて変に心配されても困る。

 街をブラブラしてから帰ろうと家とは逆の方向へ足を向けると、前方から見覚えのある老獣人がこちらに手を挙げているのに気が付いた。


「……グリフト。何故お前がこんなところにいる」


「儂がいつも森や山の中にいると思うな。たまには人の作る飯が食いたくなる時もあるんじゃ。幸いこの街には獣人が開いておる店もあったしな」


「……『フランベ』か?」


「やはりお主は知っておったか。相変わらず食い意地の張った小娘じゃ」


「うるさい。さっさと森へ帰れ」


「ところがの……何でか今朝から街を出ようとすると警備団に止められるんじゃよ」


「ああ、それなら明日の朝には無くなる」


「……ほう。よく知っておるの」


「まあな。じゃあ私はもう行く」


 シュナがグリフトの横を抜けようとすると、その肩を掴まれる。


「何だ……?」


「もう少しいいではないか。ほれ、奢ってやるから一杯どうじゃ?」


 グリフトが人差し指と親指で丸を作り、(さかずき)を呷るポーズを取ると、シュナも強ばっていた表情が少しばかり緩むのを感じる。


「仕方ないな。一杯だけ付き合ってやる」


 

 ニッと互いに憎たらしい笑みを浮かべると、2人は夕飯時の良い匂いを秀でた嗅覚で楽しみながら酒屋へと向かった。





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