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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第4章 彼女の師
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5.アマネ=クライシスの1日


 アマネ=クライシスの朝は早い。

 明け方、まだ日の出もしていない時間から、彼は屋敷の前で待機している。


「む……?」


「おはようございます! 師匠!」


「ああ。おはよう」


 師匠であるシュナが出てくるのを待ってから、共に朝稽古のために山へと向かう。

 

 シュナの鍛練は非常に厳しく、最初始めたころは腕がもげるかと思ったほどだ。

 しかし、師匠であるシュナも横で一緒に同じ鍛練をしている以上、文句も泣き言も言えない。むしろ、彼女と同じことをしていれば、いずれ彼女と同じくらいの実力にはなれるということである。それなら、必死に頑張るのも当然だ。


 朝稽古が終わると、彼は汗を軽く流すためにいったん宿泊している宿へと戻る。

 カイは別に屋敷で一緒に暮らせばよくないか? と言っていたのだが、他の女性陣が流石に年頃の男女が同じ屋根の下で生活するのはよくないとのことでこういう形になった。特にハル曰く、「私の目が黒いうちは、美少女プラス美獣耳っ娘達とのハーレムは許さない」らしい。ちなみにカイはマスコット的存在だから問題ないのだとか。


 なので宿で軽く汗を流した後アマネは屋敷へと向かい、シュナが風呂から上がったり、他の皆が起きてくる前に朝食の準備を始める。

 初めはアマネ1人で作ったのだが、これがあまりにも美味しくてリリィの闘争本能に火がついたのか、今は2人で作っている。


「おはようございます、アマネさん」


「あ、おはようリリィちゃん。今日はどうする?」


 こんな感じで、現在彼と一番仲が良いのはリリィと思われる。


 そして起きてきた皆と朝食を終えると、各々準備を始める。

 ハルとシュナは学校の準備。ルルは最近魔道具に興味があるのか、ヒーラの研究室で魔道具研究の手伝い。リリィは夕食やその他諸々日用品の買い出し、カイは甲斐甲斐しくもユニーの世話。そしてアマネは主にリリィやカイの手伝いをするのだが、この日は洗濯物が洗濯カゴに溜まっていたので、洗濯を――



 バキッボコッポコッグキャッ。



 4人分の蹴りがアマネを襲う。


「アマネぇ……それは私達でやるからいいっつたよね?」


「で、でもカゴから飛び出すくらい溜まってたので……」


「わ、わたしがやっておくので、アマネさんはカイくんのお手伝いをしてきてください!」


「はい……」


 なんでも、彼は実家ではいつも家事を任されていたため料理も掃除も得意だし、洗濯もいつもの癖でやってしまうのだとか。

 しかし、カイ以外女性が住んでいる家の洗濯物を15歳の少年に任せる訳にはいかないので、いつも目を光らせているのだ。

 ちょっと目を離す隙に勝手に部屋の掃除などもしてしまうのでは、と気が気でならない。

 しかも悪気がないところが、余計質が悪い。


「またあいつらに怒られたのか?」


「うん……なんで洗濯しようとしただけであんなに怒られるんだろう」


「さぁ? ま、掃除が得意ならこっちの掃除を手伝ってくれよ」


「そのつもりで来たんだけどさ……この子また怒ってない?」


 ユニーの小屋にアマネが来た途端、先程までもご機嫌斜めだったユニーの機嫌がさらに大暴落である。


「相変わらず男嫌いだなこいつ。オレとお前が揃ったらもう言うこと聞かねぇったらありゃしねぇ」


「でもユニーが動いてくれないと小屋の掃除できないよ?」


「大丈夫だ。最近使える秘策を思い付いたんだ」


「……?」


 そう言ってカイはユニーに近付くと、耳元で小さく囁く。


「言うこと聞かねぇと、ロイド呼んでくるぞ?」


 それを聞いた途端、ユニーが無抵抗で小屋の外に出ていく。


「あれ!? 急にしおらしくなった!?」


 何故かユニーはロイドに抵抗できないらしい。

 何があったのかは不明だが、是非ともユニーの扱い方をロイドに聞いてみたいものだ。


「よし、今のうちに小屋の掃除だ。アマネはブラシがけを頼む」


「りょ、了解」


 2人がかりで小屋の掃除をし、ついでにユニーにもブラッシングをしたアマネがユニーに蹴飛ばされたりもしたが、これもいつも通りの光景なので特に気にすることなく、一仕事終えた。


 昼過ぎになると学校が終わり、ハルやシュナが屋敷に戻ってくる。ここからはシュナに付きっきりとなり、クエストを受けたり訓練所で手合わせをしてもらうこともある。


 クエストを受ける際には学校の教師役を務めている2人とも、一緒に山に入ったりもする。この2人は流石王都の冒険者といったところで師匠であるシュナと同等の実力者である。特に白髪白髭の老剣士の男性は、時折年齢とは不釣り合いの動きを見せる。


 アマネはシュナやカナタと同じで魔法の才能が全くなく、正直魔法使いである老剣士のお孫さんの戦闘はあまり参考にはならないのだが、後方からかなり強力な魔法で支援をしてくれるため、だいぶ楽にモンスターを退治することができる。

 数日前に彼が同郷の仲間と山に入りやられたのは、3人全員が前衛職というバランスの悪さも原因の1つだったと今更になって後悔することになった。


 朝は体力と基礎を身に付け、午後は実践で経験を積む。

 まさに理想的な鍛練を積ませてもらっているだけに、尚更今の自分の実力や考えの甘さが顕著に窺うことができてしまう。


 そうなると、実力不釣り合いのクエストが、どれほど危険な行為なのか身に染みて分かってきてしまうのだ。


「師匠」


「ん? なんだ?」


「師匠は今まで1人でクエストを受けてきたんですよね?」


「まあそうだな。私は獣人だったから自分から誰か他人とパーティーを組もうとはあまり思わなかったし、獣人の冒険者はこの街では私だけだったしな」


「今まで、クエストで危険だったことはないんですか?」


「そりゃあるさ。でも、引き際は弁えてたからな。危険なことはあったが、クエストで死にかけたことはない」


 この言い方では、クエスト以外のところで死にかけたことはある。と言っているようなものなのだが、シュナ自身それは別に隠すつもりもないらしい。


「やはり私も獣人だしな。昔はよく人間に虐げられてきたさ。そんなとき、私の師匠に出会ってな」


「師匠の、師匠?」


「ああ。あの人も獣人だったんだが、幼い私をここまで鍛え上げてくれた。あの素振り1000回もあの人のやり方だ」


 幼い少女に真剣で素振り1000回やらせていたというスパルタ指導を聞き、若干顔を引きつらせるアマネだが、懐かしそうな表情で話すシュナに見とれてしまう。


「その人は、今は……?」


「さあな。どこかの森の奥で、熱いスープでも作っているんじゃないか?」


「…………?」


 シュナのよく分からない返答に首を傾げるが、死に別れた訳ではないと知り少し安堵する。


「ま、私の過去などどうでもいいさ。腹も減ったし屋敷に戻ろう」


「そうですね」


 正直なところ、もう少し彼女の過去も聞いてみたかったのだが、腹が減ったのも確かなのでそれはまた今度に取っておくことにしようと先を歩く彼女についていった。



 夕食後は皿洗いを済ませ、皆に食後のお茶を淹れた後は桶に水を汲み雑巾を持って屋敷の外へ出る。


 屋敷の裏、そこには小さな墓石が2つ建てられている。

 先のクエストで命を落とした同郷で幼馴染みだった2人の墓石だ。

 ハルとシュナの厚意でここに墓を建ててもらったのだ。もちろん2人の遺体は発見されていないし、ここには何も埋められていないのだが、それでもこうして親友の墓を建ててくれたことに心の底から感謝している。


「……今日も頑張ったよ。もっともっと修行して、2人が羨むくらい……強くなってみせるから。そこから見守っててくれ」


 濡れ雑巾で墓石を綺麗に拭き、アマネはそっと笑いかける。

 いつも一緒だった2人を失い、本当ならあそこであのまま失っていたはずの命。

 命を拾われただけでなく、寄る辺の無くなった自分に居場所までくれた。


 2人の分まで絶対に強くなって、いつか彼女たちに恩返しをしよう。と、アマネは2人の親友の前で1人静かに誓いを立てた。



「アマネ」



「……! ハルさん……?」


 いつの間にか後ろに立っていたハルに不意に声を掛けられ肩をビクつかせる。


「少し、訊きたいことがある」


 いつもどこかお茶らけているイメージのハルの真剣な表情に、アマネは疑問符を浮かべた。








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