19.中二装備完成
「……………………またか」
ハルは朝早く自分のベッドの上で目を覚まし、1人ごちる。
魔石に魔力を注入する際に魔力放出が上手くコントロールできず、魔力切れで倒れたのはこれで通算5回目となる。
今では気を失ってしまう時に備えてベッドの上で魔力の注入の練習をしている。
「……おっかしーな、今回こそいけると思ったんだけど……」
しかも、日に日に魔力切れで倒れた次の日に起きる時間が早くなっている。
昨夜は夜遅くに魔力注入の練習をしたというのに、今はまだ早朝の5時半だ。
これはロイドの魔力の回復力が凄まじい証拠だろう。
魔力過多ですぐに身体が重くなるくせに、その魔力は上手く制御できず、更には魔力の回復力も桁外れ。
本来魔力がそこまで多くないハルの肉体には正直合っていないにも程がある魔力だろう。
とりあえずハルはまだ誰も起きていない屋敷のリビングへと向かう。
「喉渇いた……」
冷蔵庫に入った水をがぶ飲みし、気絶によって固くなった身体を大きく伸びをしてほぐす。
その後洗面所に向かい、寝ぼけた顔を覚まし、鏡を見ながらゆっくりと閉じていた左目を開いていく。
するとそこに見えるのは鏡に写った自分の姿。
そして、自分の中に流れる魔力の流れ。
紅く光るこの左目を開いている間は、体内の魔力が左目に集まってきていることがはっきりとわかる。
自分自身に流れる魔力をしっかりと見てから、左目を閉じる。
いつまでも開いていると魔力が垂れ流し状態になってしまうからだ。
そして彼女は考える。
たった今見えていた自分の体内に流れていた魔力を。
自分の全身に流れていた魔力と、自分の心臓付近で小さく灯っていた魔力の違いを。
咲場 春は自分と他人の魔力の違いくらいは、その左目の魔法の効果で見分けがつくようになっていた。
それ故に、自分自身がロイドの魔力にどれだけ助けられているか、自分自身の魔力がどれ程消耗しているのかが言葉の通り、目に見えて分かっていた。
逆に、ロイドの魔力に自分の身体が侵食されていることも。
「……まあ、今は考えていてもどうしようもないか。それより今は、この左目をどうにかしないと。最近慣れてきてはいるけど、ずっと瞑りっぱなしっていうのは以外とキツいんだよね」
誰に言うわけでもなく、自分への再確認として1人で呟いていると、戻ったリビングの窓に突然人型の影が浮かび上がる。
「うわっ、びっくりした……ヒーラさん?」
人影のできたカーテンを開けてその正体を確認する。
予想通りそこにいたのは隣の研究所に住んでいるヒーラだった。
目の下には隈を作り、皺のついた白衣を着たヒーラがふらふらしながらリビングの窓にもたれ掛かる。
「どうしたんですか? ていうか、隈すごいですよ?」
窓を開けて外のヒーラに声を掛けると、眠そうな顔をしたヒーラが白衣のポケットから黒い布切れを取り出す。
「……? これは?」
「約束の魔道具……さっき完成したから試してみて」
よく見るとそれは黒い布で作られた眼帯だった。
「眼帯……? これが魔道具なんですか?」
「うん。とりあえず、これを左目につけてみて」
ハルはヒーラから眼帯を受け取り、楕円の形をした部分が左目を覆うように顔に巻く。
「でも、この左目の魔法は手を翳しても目が開いてる以上は発動したんで、眼帯でも結果は同じだと思いますけど……」
「それはただの眼帯の場合でしょ。騙されたと思って目を開けてみてよ」
ハルは言われた通り左目を開けてみる。
先程ハルが言った通り、ロイドやライン王子と色々調べた際、左目を何かで覆い隠すようにしても目を開いてしまえば魔法は発動してしまい、その覆っていたもの関係なく自分の前に立っていたロイドとライン王子の魔力が見えてしまった。
何かで左目を覆っても、ハルの左目の魔法はその覆ったものが透き通ったように見えてしまうのだ。
つまり、ハルの左目は家の外からでもその家に人が何人いるのかが見えるということだ。ただし、その場合見えるのは魔力だけで誰がいるのかまでは分からないが。
そんな補足はさておき――
「…………あれ?」
眼帯をしたハルから疑問の声が上がる。
今ハルは右目を瞑り、眼帯をした左目を開いている。
しかし、視界は真っ暗で何も見えない。
以前試した時と同じなら、今目の前にいるはずのヒーラの魔力が見えるはずだ。
では、何故見えない?
「…………反応を見る感じ、成功みたいだね」
「これ、どうなってるんですか?」
「まあ簡単に言うと、その眼帯が魔法の発動を遮断しているんだよ」
魔法の発動を遮断する。
言葉にするのは簡単だが、本来ならそれはあり得ない現象である。
ヒーラが作ったこの眼帯型の魔道具は、言わば魔法の発動を本人の意思とは関係なく強制的に中止させるという魔道具だ。
「へぇ、凄いですねこれ……」
これは魔法の存在しない異世界から来たハルだからこそできる反応である。
これをもし王都の科学者なんかに見せれば腰を抜かすレベルである。
それは今ハルが愛用しているブレスレット型魔道具にも言えることだ。
この2つの魔道具を王都で売ろうものなら、今ごろヒーラは貧乏生活とはおさらばし、もしかしたら王城に専属魔法科学者として雇われていたかもしれない。
これはハルのブレスレット型魔道具を見たライン王子が実際に言っていたことであり、もし先月の発表会をハル達が強引に中止させていなかったら、ヒーラはハル達と一緒に王都にお呼ばれされていたかもしれない。
それくらい、彼女の作る魔道具は常軌を逸している。
彼女が本気を出せば、以前獣人コレクターのファネルが使用していた隷属の首輪くらい簡単に作れてしまうだろう。
「あ、すごい。眼帯ずらせばちゃんと見えるようになるんだ」
「その眼帯で覆っている部分しか魔法の発動を遮断できないからね。だからその眼帯をつけてても、手首の方の魔道具なら問題なく使えると思うよ」
「なるほど」
眼帯の下の部分を持ち上げたり戻したりして遊んでいたハルが頷きながら納得する。
ハルもこの魔道具に関しては反応以上に気に入っている。
なんといってもデザインがいい。
まず黒い眼帯というのがもう既にハルの心の中に眠る中二心をくすぐるのだ。
今すぐに洗面台に行き、鏡で自分の姿を確認したいくらいには気に入っている。
「気に入ってもらえたみたいで、よかったよ……」
「うおっと!」
寝不足でふらふらのヒーラに限界が訪れ、ハルの方にもたれ掛かるように倒れる。
倒れてきた体を抱き止めたハルの腕の中では、年上でいつも格好良い女性が可愛らしい寝顔ですぐに静かに寝息を立てていた。
× × ×
「か、かっけぇ……」
あの後ヒーラをリビングのソファーに寝かせ、いつもの服装に着替えたハルを見たカイの第一声がこれだった。
「ふふーん。これでクロスボウを構えたら、歴戦のハンターって感じでしょ」
言ってもカイだってまだ10歳前後の男の子。
こういった中二チックな装備に憧れない訳がないのだ。
「おい、なんだよそれ! めちゃくちゃかっこいいじゃん! オレも欲しい!」
「だめですー。これは私専用なんですー。これは選ばれた者にしか装備できない伝説の眼帯なんですー」
「ずーりーいーよ!」
リビングでカイとハルが騒いでいると、ルルとリリィとシュナも自室から下りてくる。
最近は巨大クレーターの修繕のために、シュナもこの屋敷で寝泊まりしているのだ。
「朝から何騒いでるのよ」
ルルが眠たい目を擦りながら騒ぐ2人を軽く睨む。
「ん? ハル。その眼帯はどうしたんだ?」
「ヒーラさんがさっき完成したって言って持ってきてくれた例の魔道具だよ。そしたらこれを見たカイが羨ましがってさー」
「ちょっとくらい貸してくれたっていいじゃんかよ!」
「だめですー、これは私のですー」
「子供じゃないんだからそんなことで朝早くから騒がないでもらえないかしら」
「しょうがないよお姉ちゃん。男の子は、ああいうのが好きなんだって、聞いたことあるもん」
「片方思いっきり女の子だけど?」
「そ、それは……あはは……」
「はぁ……」
今日も1日騒がしい日になりそうだと、もう既に騒がしいリビングの光景を見て思うルルなのであった。
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