18.発明家のモチベーション
「サクバ様が王都に行ってらっしゃる間、一度学校を建てると仰っていたサクバ様の所有地を見に行きました」
「え、今のあそこを見たんですか?」
「はい。もちろん敷地内には入っていませんが……」
ハルが驚くのも無理はない。
何故なら今ハルの屋敷の周りは――
「あの、大きな穴達ですよね?」
「はい」
カナタがカイの修行をつけると言ってやり過ぎてしまったときに出来た穴達。
サイズは様々だが、大きいもので直径30メートルくらいのものもある。
「まずはあの穴をどうにかしなければ学校を建てることは出来ません。子供が落ちたら危険ですし。そもそも、あの穴は一体なんなのですか?」
「いやー、この間までロイドとカナタが来てたじゃないですか?」
「はい」
「それでカナタがカイとシュナを稽古をつけたときに出来た穴なんですよ」
それはもうやり過ぎなくらい。
「あのカナタ様が作った穴なのですか!? しかも稽古の最中に!?」
「……? はい」
何をそんな驚いているのか。
「なるほど、なるほど……うん、これはいける」
なにやらブツブツ言っては何度も頷いている。
「サクバ様。あの穴の中で一番大きな穴は残しておきましょう」
「え、何でですか? 一番大きいのが一番危ないのに」
あそこに学校を造る以上、危険な場所は排除しておくべきだ。
さっきシルシ自身子供が落ちたら危険だと言っていたのに。
「もちろん、穴の周りには柵なりを立てて立ち入りは禁止にします。ですが、この穴はあのアインツベルク最強の女冒険者であるカナタ様が作った訓練跡と知れば、自分もこんなすごい冒険者になりたいと思う子供が増えるのではないでしょうか」
なるほど。実際に最強の力のほんの一部でも見られたなら、確かに子供達は興奮するかもしれない。
どうせなら『カナタの訓練跡』みたいな石碑なんかを作ってみてもいいかもしれない。
「お、なんだなんだ? やけに目立つクエスト用紙だな」
「なになに……ヴァンパイアのマントに王族蜂の毒針!? おいおい。誰だよこんな無茶なクエストを依頼してんのは」
どうやらクエストに出ていた冒険者達数名が帰ってきたらしい。
「やっぱりあれってかなり無茶なクエスト内容なんですかね?」
少し不安になってシルシに訊ねるハル。
「確かに高難易度のクエストだとは思いますが、それ相応かそれ以上の報酬ですので特に問題はないかと」
「おい、でも見ろよこの報酬金額」
「うおっ、マジかこれ。こんなにあったら今年いっぱいはなにもしなくても生きていけるぞ」
「依頼者は……サクバ ハル? あれ? この名前どこかで……」
その声に反応するハル。
さすがに自分の話題がすぐ後ろでされていたら気になる。
「あれだろ? ほら、先月の連続殺人の犯人を見つけて、しかも他所から入り込んだ賊からこの街を守ったっていう」
「あー! あのいつも獣人を連れてる嬢ちゃんか。でもあの娘もまだ子供だろ? 本当にこんな金持ってんのかよ」
「お前知らないのか? あの嬢ちゃん、街外れのずっと空き家だった屋敷に住んでんだぞ」
「え、あそこって確か農作物も一切育たず、雑草すら生えないから牧場にもできない謎の土地だろ? あそこの土地全部買ったってことか?」
「らしいぜ」
「マジか。何者なんだろうな、あの嬢ちゃんは」
一通り話してから彼らはギルドを出ていった。
結局ハルのクエストを承ける気はなかったらしい。
「本当、一体何者なんですかサクバ様は」
「はは……普通の17歳の女の子です」
「普通の17歳の女の子はあんな土地を所有して、賊から街を守り、国王陛下からお呼ばれされるなんてありえません」
確かに。
「まあいいです。とにかく今日お話したかったのは、学校を建てる前にあの穴をどうにかしなければいけないというお話です。とにかく、一番大きな穴だけ残して、他の穴は全部埋めてください」
「了解です」
この5日後、カイとシュナに手伝わせながら穴を埋める作業をしている最中に連絡が入り、見事にヒーラが言っていた魔道具の素材であるヴァンパイアのマントと王族蜂の毒針が手に入った。
そして――
(さて……どうしたもんか)←今ここ
ハルから素材を渡されたヒーラは頭を悩ましていた。
これはヒーラだけかもしれないのだが研究者というものは、一度熱中してしまうと食事も忘れるほど集中してしまう。
逆に一度完全に諦めて、頭の片隅のさらに奥の引き出しに仕舞われてしまったものを再び引っ張り出してくるのはかなり困難なのだ。
まずモチベーションが上がらない。
こういう発明系の研究は思い立ったらその場で行動しないと、引き延ばしていくに連れてやる気もどんどん失われていく。
それが一度材料が手に入らないため不可能だと諦めてしまったものならなおさらだ。
(もっとこう……なにかテンションが上がるような、キラリと閃く何かがないと……)
材料は揃っているし、理論的にも今作ろうとしているものは不可能ではない。
でも理論は分かっていてもそれを組み立てて形にするまでが難しい。
今回はハルの左目に無意識に発現した魔法を抑えるということが一番の目的だ。
一番効率良くする方法は……
ポク
ポク
ポク
チーン!
「…………眼帯?」
これは来たかもしれない。
閃いたかもしれない。
左目の魔法を封じるなら出来るだけ左目に近いところの方がいい。
と、いうのは建前だ。
ハルはヒーラ程ではないにしろ、どこかボーイッシュっぽいところがある。
なんていったってヒーラを守る為に操られたシュナの刀に飛び込んでいくほどの度胸を持っている。
ヒーラ自身よく女性からカッコいいカッコいいと言われるが、ヒーラからしてみればハルの方が何十倍もカッコいい。
いつものフード付きの茶色いジャケットに紺色のスカート。
ヒーラが作った白いブレスレット型魔道具を右手首に装着してクロスボウを構えるハル。
そしてそのハルの左目には黒い眼帯が――
「あっちゃー……これはさらにカッコよくなっちゃうなぁ」
密かに憧れている人が自分の魔道具を付けることでどんどん自分好みにカッコよくなっていく。
「うん。ハルちゃんに眼帯。全然ありだね。むしろ似合いすぎてやばそう」
恐らく自覚はないのだろう。
そもそもこちらの世界にそういった概念はないのだ。
ヒーラは日本で言うところの中二病というやつにあたる。
というか、発明家は大抵中二病である。
そうでないと突飛な発想も思い付かない。
ある種、発明家はこれで正解なのだ。
「よーし。そうと決まれば、早速やりますか!」
眼帯を付けたハルを妄想することで自分で勝手にテンションとモチベーションを上げて、作業にあたるヒーラ。
そんな彼女がそう遠くない未来、この異世界を揺るがす魔道具発明家になることは、この時はまだ誰1人として知る由もなかった。
もちろん、ヒーラ本人でさえも。
「~~♪ ~~♪」
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