7.国王との初の対面
「ライン様、こちらが午後のご予定になっております」
「ん。ありがとう」
王城の長い廊下、メイド2人を従わせて歩くのはアインツベルク王国第1王子であるライン=アインツベルク。
メイドの1人から午後の予定が書かれた紙を渡され、それをぼんやりと眺めながら廊下を歩く。
午後の予定なら予め大体は頭に入っている。
覚え違いがないかだけを確認していると、長い廊下のかなり先に、見覚えのある姿の少年を見つけた。
「あれ? ロイドとカナタっていつの間に帰ってきてたの?」
「1時間ほど前に王都に到着したようです。これからダルキ国王陛下と会われるはずです」
「へぇ……そっか」
ロイドが帰ってきているとは知らなかったライン王子が後でからかいにでも行こうかななどと考えていると、ロイドの後ろに見知らぬ者達が数名ついて歩いていた。
「……? あの後ろの少女や獣人達は?」
「恐らくダルキ国王陛下が今回お呼びになった方達かと」
「ああ、あれが……。……! よし、午後は予定変更だ」
「え?」
「僕も父さんの部屋に行くことにしよう」
「ええ!? 午後からの会合は……」
「そんなのいつでもできる。今は可愛い弟分と妹分を迎え入れてあげなきゃ!」
パタパタと駆け出すマイペースな第1王子を追いかけながら、恐らくこのマイペースさがロイド様にも移ってしまったんだろうなぁと小さく溜め息を吐くメイド2人であった。
× × ×
「ここが玉座の間。僕とカナタだけなら普通に王室でよかったんだけど、客人を迎え入れるときはいつもここなんだよ」
王城に着き、まっすぐ国王のいる部屋へ向かったハル達はロイドの説明もそこそこに、目の前の巨大な扉をぽかーんと見上げていた。
「こんなの開け閉めするだけでも一苦労じゃん」
「そりゃあ、この先に王様がいるんだから、ちょっとくらい厳かにしなきゃ威厳が保てないだろ?」
「そんな理由なの!?」
扉の前に立つ2人の兵士が部屋の中に呼び掛けた後、ゆっくりと扉を開く。
開かれた扉の向こうには、まず中央に敷かれたレッドカーペット。そしてレッドカーペットの30メートル程先には5段の階段があり、その上に厳かな玉座が置かれていた。
「ただいま帰還しました」
「うむ、ご苦労であった」
カナタの言葉に応えたのは玉座に座った40代くらいの男性。ところどころに宝石が散りばめられたTHE・王様といった服を着て、頭には王冠が乗っている。
以前新聞で見た。
彼がアインツベルク王国の国王、ダルキ=アインツベルクだ。
「……何でお前がいんの?」
「こ、こらロイド!」
ロイドが国王の後ろに立ってニコニコした顔で手を振っている青年を見て、明らかに嫌そうな顔を見せる。
国王陛下の後ろには国王に似た服装の青年と、全身を鎧に包み、剣を腰に携えたゴツく強そうな男性が立っていた。
また、階段の下には執事らしき初老の男性とその横にメイドが3名立っている。
「本日はわざわざ王都までご足労感謝する」
「いえ、こちらこそ。国王陛下とこうしてお会いできるとは、光栄でございます」
片膝をつき、頭を垂れるハルを見てカイ、ルル、リリィ、シュナは目を見開いて驚いた後、慌てるようにハルのように膝をつく。
「へぇ、なんか様になってるね。こういったことに慣れてるのかな?」
ラインの言葉にハルはかぶりを振る。
「いえ、地位の高い方々とは何度か立食パーティーをしたことはありますが、流石に国王陛下ほどの地位のお方とお会いするのは初めてでございます」
いつもの失礼が服を着て歩いているようなハルを知っている面々は、ハルの対応に驚きを隠せない。
ロイドやカナタですらハルの対応に驚いているほどだ。
「ふむ、まあそう畏まるな。頭を上げてよい」
「はい」
返事をした後、ゆっくりと立ち上がるハル。
カイ達もハルに倣って立ち上がる。
「今回お前さんを呼んだのは、謝罪と礼を言うためだ」
「謝罪と礼?」
はて? 何かあったか? とハルは首を傾げる。
「まずは私が貴族に選んだレッセフェール家から犯罪者が出るとは思わなかった。そのせいでお前さん達は危険な目にあったと聞いている。申し訳なかった」
「い、いえ、そんな……」
国王陛下に頭を下げられて流石に焦るハル。
(ていうか、レッセフェール家ってどこだっけ?)
いや、国王に頭を下げられてるからというよりは、何のことを言われているのか理解できずに慌てていた。
(ねえカイ、レッセフェール家って何?)
たまらずカイに耳打ちをする。
(はあ? ファネルの家名じゃねぇか)
ああ! と手をポンと打つ。
「皆無事でしたし、ファネルが罪を犯したことは国王陛下には何の関係もないことですので」
「そう言って貰えると助かる。それと、ファネルの罪を暴いてくれたこと、感謝する」
「それこそたまたまです。私達はここにいるルルとリリィが拐われたので、取り返そうとしただけで……」
「いや、それでもたった2人で貴族の屋敷に乗り込むとは、普通じゃ考えつかない。なかなかに胆が据わっている証拠だ」
「仲間がピンチなのに助けに行かないのは私の流儀に反するので」
「おお! それは素晴らしい!」
国王は声を上げてハルを称賛する。それにつられるように、執事やメイド、国王の後ろで護衛している騎士までうんうんと頷いていた。
周りの反応に気を良くしたのか、ハルも満更ではない表情になる。
その表情を見て、カイは確信した。
(初めからおかしいとは思ったけど……こいつ、国王の前だからってここぞとばかりに格好つけまくってやがる……)
そんなハルに溜め息を吐くカイだが、バチッと視線を感じ、国王の方へ向き直る。
すると、国王とバッチリ目が合った。
カイだけじゃない。国王はルル、リリィ、シュナと順に見ていくと、うんと一度頷き、再びハルに視線を向ける。
「あー……すまんな、お前さん、名を何と言ったか」
「これは失礼しました。私は咲場 春と申します」
「サクバ ハル。うむ、覚えたぞ。そこで、ハル殿、実はここからが本題なのだ」
「へ?」
さっきは謝罪と礼のためと言っていたではないか。
まさかここまでは前座だったとは。
「ハル殿は獣人を仲間にしていると聞いていた。実際、その話も本当だったようだ」
国王がカイ達に視線を向ける。
道行く人が獣人を見るときに向ける視線とは明らかに異なる、獣人を1人の人として見ている視線だ。
「別に獣人だから仲間になったわけじゃありません。私が仲間になりたいと思った彼らがたまたま獣人だっただけです」
「……ふむ。やはり人格者のようだ。獣人に対して少しでも差別的な目を持っている者からはそんな言葉は出てこない。ライン、お前はどう思う?」
「素晴らしい娘だと思うよ。どう見てもまだ10代なのにしっかりしてる。数年前の僕を見てるようだね」
「お前の意見を訊いただけでお前自身のことは訊いておらん」
親子漫才か! とツッコミたくなるハルたが、それを何とか飲み込んで、話を続ける。
「それで、本題というのは?」
「おお、そうだそうだ。ハル殿は私が今やろうとしている改革を知っておるか?」
「……? いえ、存じ上げません」
「ふむ、まあ仕方あるまい。私の長年の夢、いや目標は、獣人の差別を無くし、人間も獣人もない、皆が笑って暮らせる国作りをすることなんだ」
「……! それは……素晴らしい目標だと思います」
国王が口にした目標。
それはハルが目指しているものとほぼ一致していた。
世界が獣人の敵になっても私だけは味方であり続ける。
そんなのは当たり前だ。そんなことは大前提だ。
その上で、そう思う人が私だけでなくなるように世界を変える。
自分だけは味方だと言うだけなら誰でもできる。だが、そんなものはただの自己満足だ。
本当に獣人のことを思うのなら――
「……私も、今のこの世界はあまり好きではないので」
「……くく、くはははは!! 正直者は好感が持てる! 私も獣人を差別する今の状況をどうにかしようと思っているのだがな、なかなか思うようにはいっていない」
「ファネルの事件の新聞記事を読みました。そもそも人という言葉の中には獣人も含まれているって……」
「その通りだ。だが、残念なことにファネルのように解釈する者は少なからずいるのも事実。やはり大幅な改革が必要だと考えた」
腕を組み、目を瞑って現状を噛み締める国王。
「そんなときファネルの事件を解決したのは1人の少女と獣人の少年だという話を聞いた。しかもより詳しく調べてみると、ロイドとカナタが弟子にした2人だというではないか」
「は、はあ……」
「そこですぐにロイドとカナタにお前さんを連れてきてくれと命を出し、数日が経ったとき、今度はアランカで行われた魔道具の魔法科学発表会で、またもとある少女が街を救ったと発表会を観に行っていた王都の科学者が知らせに来た」
どうやら発表会の客の中に王都から来ていた人もいたらしい。
「聞けばファネルの事件のときの少女と特徴が全く同じではないか」
「特徴?」
「獣人の仲間を連れた不思議な武器を使う少女」
確かに特徴的である。
ただハルとして少女の前に美を付けて欲しいところだった。
「その話を聞いて私はあることを決心した」
「決心?」
何故か嫌な予感がした。
国の面倒事に巻き込まれるような……
「サクバ ハル。貴殿をアインツベルク王国の獣人専属大使として任命する!」
……ん?
「この役は獣人のことを思う者にしか務まらない。つまり、お前さんが適任だ」
…………んん?
「頼まれてくれるか?」
……………………んんん!?
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