6.剣技、そして王都到着
アランカの街を出て2週間ほどが経った。
ハル達一行は未だにグリフォンには出会えておらず、ただ日々現れるグリフォンではないモンスターと対峙していた。
しかし、この2週間はヒーラの作ったブレスレット型の魔道具をルルとリリィが使っており、小石などに風魔法を付与し、投擲することで2人はより精度の良い投擲術を身に付けつつあった。
当然、魔力のコントロールも徐々にだが、上手くなっていった。
また、ハルもハルで魔道具に頼らずクロスボウのみで戦っているため、以前よりも更に射撃の腕は向上していた。
冒険者でもないのに何故か戦うことの多いハル達にとって強くなることは決して悪いことではなく、むしろ誇らしいことではあるのだが、
(女の子として、あまり強いのもどうなんだろう……?)
と思わないでもなかった。
ただそれを言ってしまうとカナタやシュナの心臓を抉ることになるので、決して口にはしなかった。
そんなこんなでこの日もいつもと同じようにモンスターを倒していたのだが、ふと違和感を感じた。
「何か今日、やけにモンスターが多くない?」
「そうか?」
ハルとカイの会話に、前を歩いていたシュナが振り向く。
「確かに、今日は昨日と比べても明らかに倒しているモンスターの数が多い。それも、全てそこまで強くないモンスターばかりだ」
シュナの言葉に今度はロイドが答える。
「それも全部逃げてる最中みたいなモンスターばかりだったね。これはまず間違いなく、森の奥に強いモンスターがいる証拠だよ」
「強いモンスター……」
全員の脳裏にグリフォンと単語が浮かび上がる。
「あ、ねぇ、その強いモンスターっていうのが、ドラゴンっていうことは……?」
ハルが口にしたドラゴンという単語にカイの肩がビクリと跳ねる。
「いや、それはないと思うよ。もしドラゴンならもっと強いモンスターだって逃げ出すはずだし。それこそフライベアやグリフォンだって」
「そ、そうだよね」
「ハル。ドラゴンというのはモンスター界でトップに君臨するモンスターだ。こんなところにそう易々と現れるわけないだろ?」
「は、ははは……」
ハルとカイにとってはトラウマになるレベルの出会いを体験しているので、冗談でなく割りと本気でビビっていた。
いつ森の奥から強敵が現れるか分からないので、警戒を怠らずに森の奥へと進んでいくと、一行が進んでいる先から猛獣の悲鳴が聞こえてきた。
「……!? な、何事!?」
森の木々がざわっと揺れる気がした。
「……っ!! 全員伏せろ!」
先頭を歩いているシュナがスンスンと鼻を鳴らした直後、後ろに向けてそう叫んだ。
その声に全員が地に伏せると、数瞬後一行の頭上を巨大な何かが高速で通過した。
そして少し遅れるように猛烈な風が襲い掛かる。
「ぶはっ! なに今の!?」
「グリフォンだ! だが、何か咥えていたような……」
シュナはすぐに立ち上がり腰の刀を抜く。
シュナが向く方向を振り返って見てみると、そこには大きな身体を持ち、背中からは翼を生やした鷲の顔の獅子が大空を旋回していた。
「あれが……」
「……グリフォン」
初めて見る鷲獅子をぼんやりと眺めるハルとカイ。
「旋回してこちらに戻ってくるぞ! 気を抜くな!」
シュナの声に慌てて戦闘準備に入る。
「え……うわ、あれ、咥えてるのってフライベアじゃない?」
旋回してこちらを向いたグリフォンがその大きな嘴で咥えているのは何と子供のフライベアだった。
子供とはいえ、大人のヒグマ並みの大きさはあるにも拘わらず嘴だけで優に持ち上げている。
グリフォンはハル達に気づいているのか、フライベアの子供を咥えたまま真っ直ぐ向かってくる。
『アクアウォール』
その詠唱が聞こえたと同時に、ハル達の前に水の障壁が現れる。
高速で突っ込んできていたグリフォンはロイドの使った魔法を見て、急停止、急上昇をする。
「へえ、やっぱりグリフォンは頭いいね。これがただの壁じゃないって気づいたんだ」
グリフォンはユニコーンと同等かそれ以上の頭脳を持っていると言われている。
今ロイドが使った防御魔法はただの防御魔法ではなく、壁に衝突した敵をそのまま絡めとり、水の結界の中に閉じ込める拘束魔法も付随されていたのだ。
それを咄嗟に読み取り、衝突を避けたグリフォンは頭の切れるモンスターの確固たる証拠だ。
「大きさは初日に見たフライベアとそんなに変わらないのに、威圧感が半端ないねあれ。どう見てもフライベアより数倍強いでしょ」
グリフォンはロイド達を危険な敵と判断したのか、咥えていたフライベアを捨て、再度旋回する。
「必要なのはグリフォンの羽だから、グリフォンそのものを消し飛ばしたりはしないでね」
「いや、そんなことできるのロイドだけだから」
「軽口叩いてる暇はないよ。シュナさん、行きますよ!」
「承った!」
カナタとシュナが再び突っ込んでくるグリフォンに向かっていく。
その2人の姿を見たグリフォンは、真っ白な翼を羽ばたかせ、猛烈な突風を生み出す。
「ぐっ……」
「ふっ!!」
その突風に当てられつい足を止めてしまうシュナ。
しかしその横では最強の女冒険者が大剣を一振りして突風を切り裂いていた。
「カナタすごっ」
そのままグリフォンに向かって駆けていったカナタは、グリフォンの目の前まで迫ると大剣を構える。
『剣技・乱舞!』
そう叫んだと思ったら、カナタが一瞬で姿を消した。
そして次の瞬間、四肢、胴体、背中、顔、翼、グリフォンの身体の至る所に無数の斬傷が出来ていた。
傷の痛みに耐えきれずグリフォンは勢いそのまま地面に墜落し、数十メートル進んだところでようやく停まる。
3秒にも満たない世界での高速連続斬撃。
アインツベルク王国でカナタにしか出来ない神業の1つであり、最強の域にある回避不可能攻撃だ。
一撃一撃が重く鋭く、グリフォンは斬られた箇所から血飛沫を上げている。
もう既にグリフォンに息はない。
「ばっか、やり過ぎ! 羽が血に染まっちゃうじゃんか!」
ロイドが急いで血まみれのグリフォンに近づくが、
「大丈夫大丈夫。羽なら斬ってる最中に何本か毟ってきたから」
そう言って手にした数本の真っ白で大きな羽をロイドに手渡すカナタ。
どうやらカナタには、目視できない速度の斬撃の最中に羽を毟る余裕まであったようだ。
「……グリフォンの羽でかいな。こんなのどうやって羽ペンとして使うんだよ」
ロイドがブツブツ言いながら、グリフォンの羽を自分のリュックサックに詰める。それでもリュックから買い物袋のネギのごとく羽の頭が飛び出していた。
「……ホントにこの2人がいればこの国は安泰な気がしてきた」
「……実際そうなんだろ? だから国王の護衛なんて任されてるわけだし」
「……でも弟子はいつか師匠を越えるものでしょう?」
「……がんばって、ください」
ハルとカイは一度顔を見合わせてからロイドとカナタに視線を向ける。
そして同時にフッと鼻で笑う。
「「無理に決まってるでしょ(だろ)」」
自信満々に答える2人だった。
× × ×
「全員魔方陣に乗って」
地面に浮かんだ青く光る魔方陣に7人全員が乗る。
転移魔法の魔方陣だ。
「一気に王都の門前まで飛ぶから。魔方陣から出ないように」
全員が頷いたのを確認し、ロイドは詠唱を再開させる。
そして、最後の1節。
『テレポート!』
浮遊感と共に目の前が真っ白になって――
大きな門と鎧を着た門番兵士の前に立っていた。
「おおーー!! 今ふわっとした! ふわっとしたよね!?」
「確かに今の感覚は初めてのものだった! こう――ふわっ、ひゅっとしたな!」
ハルとシュナが初めての転移魔法にテンション爆上げになっている間にも、門番兵士がロイドとカナタに近づいてきていた。
「お疲れ様ですロイド様、カナタ様。あちらの方々は?」
「国王が呼び出した人達」
「ああ、彼女らが……また随分と田舎っぽい者達ですが、何故国王様は彼女らをお呼びになったのでしょう? しかも獣人が4人も……」
その声が聞こえたハル達は、動きを止める。
ルルとリリィは少し俯きがちになり、カイとシュナはわざと聞こえるように言ったのだろう門番兵士を睨み付ける。
そしてハルは――
「それで師匠ー、国王様がいる王城へは今から行くんですかー?」
「……師匠、だと?」
ハルが言った言葉に門番兵士が怪訝な表情を見せる。
ハルの分かりやすい魂胆を理解したロイドは面倒臭そうに溜め息を吐いた後、
「一応あれ、僕の弟子ね」
「ついでに猫耳の少年は私の弟子だよ」
ロイドとカナタがハルとカイを指差しながら言うと、門番兵士の顔色がどんどん青白くなっていく。
「も、もも申し訳ありませんでした! 決してお二人のお弟子さんを馬鹿にしたわけではなく……」
いや、普通に田舎者だの獣人だの言ってただろと言いそうになったハルだが、ここはロイド達に任せた方が効果ありそうだと判断し、黙ることにした。
「あと、あいつ一応王城並みの土地を持ってる大金持ちだから。あまり機嫌を損ねさせると、金の力で何されるかわかんないよ?」
「ヒイィッ」
(いやしねーよ)
ロイドの適当な脅しに完全にビビってしまった門番兵士の横を通り過ぎ、ハル達一行は王都へと足を踏み入れた。
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