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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第6章 選択
152/186

12.目があった


 アインツベルク王国の国王が住む王城。

 そこの地下にはこの国で最も堅牢な牢屋が存在している。


 しかし、この牢の存在は世間には知られていない。せいぜい噂話として取り上げられる程度である。ここに入れられる者は所謂警備団が捕まえるような軽犯罪者ではなく、国家級の大犯罪を犯した者だけが閉じ込められることを目的としてこの地下牢は作られたからだ。しかし、過去この牢屋に閉じ込められた者は1人もいない。それほどまでの事件を犯した者は本来、即日中に処刑されてしまうからだ。


 幾重もの結界や魔道具による幻覚魔法が張り巡らされている脱出不可能なこの地下牢に向かうため、ハルは1人長い階段を下っていた。


 コツコツと足音が響き渡り、手に持つランタンの火が一歩一歩と進むごとに揺れ動く。

 今ここにある明かりはこのランタンの明かりのみ。慎重に下りないと一歩踏み外せば、何百段とある階段を真っ逆さまである。


 そもそも、何故こんなところをハルが1人で歩いているのかというと、時は数時間前に遡る。





        ×  ×  ×





 昨日、大陸会談が終了した後、本来ならば数日間アインツベルクに滞在する予定だった各国の代表達はグリフトの登場と、此度の戦争における大陸側の置かれている現状を把握させられたため、予定を急遽変更して直ぐ様それぞれ帰路に着いた。


 会談中に転移魔法で会議室に現れたグリフトはライン王子によって身柄を拘束され、軽い治療の後、地下牢へと隔離された。


「はぁ……さて、どうしたものか……」


 ダルキ国王の執務室に集められたのは会談が行われていた会議室にもいた4名とシュガレットの5名。書類仕事をするためだけの部屋なので、集中しやすいようにと小さめに作られたこの部屋に国王を含めて6人も集まれば、多少なりとも空気が薄く感じる。

 そんな中、机に肘を付きながら軽く目頭を押さえるようにして疲労の溜め息を吐いたのはダルキ国王だった。


 会談には参加していなかったシュガレットには一通り会談中に何があったのかを説明したのだが、彼らが悩んでいるのはこれからどうするかという何とも大雑把な問題であった。


「とりあえず、グリフトには知っていることを全て吐いてもらう必要があるわけだし、私の魔道具と王子様の読心魔法の出番じゃないですかね?」


「……ちなみに、お前の魔道具とは具体的にどんな魔道具を言っているのだ?」


「尋問用の魔道具となると嘘発見器的な物とか……いや、それだと王子様の読心魔法と被るか……なら幻覚魔法で精神的苦痛を与えるものとか、まあ簡単に身体的な苦痛を与えるものなんかもできるとは思うけど、それならロイドとかの方が上手くできそうだもんね」


「お前が言っているのはまだない魔道具のことだろう?」


「そりゃそうですよ。今までそっち方面(・・・・・)の魔道具にはあまり興味がなかったもので。でも作れと言うのであればヒーラちゃんもいるし3日もあれば作りますけど」


「それでは遅いのだ。ただでさえもう丸1日経ってしまった。正直1分1秒として惜しい。グリフトに関しては今すぐにでも取り掛かれるようにしたいし、それと平行して警備の問題もある。そしてシュガレット、お前にはできればそっちに参加してもらいたいのだ。お前の魔道具はそっちの方が活きると思っている」


 そう、グリフトからビスト帝国に関する情報を引き出す必要があるのと同時に、敵がいつでもこの城の内部に転移できるということが発覚してしまったため、そちらも対処する必要があるのだ。それに、万が一グリフトがこちらに捕まったことをビスト帝国側に伝わってしまった場合、情報が引き出される前に攻め込んでくる可能性だってある。だからこの2つの問題に関しては早急に対処しなければならないのだ。


「手段を問わないというのであれば、僕がやってもいいですけど」


「……それは最終手段じゃないかな。今日中に何らかの情報が引き出せなければロイドに頼るのも致し方ないけど、あの地下牢は脱出不可能を前提としている。あそこでは転移魔法はもちろんあらゆる魔法が使えないようになっているから地上との連絡手段もない。万が一の事態に陥った際、戦力としてロイドがいないのは痛い。同じ理由でカナタもね」


 ロイドの提案にライン王子が渋い反応を見せる。

 

「となってくると消去法で僕が行くことになるかな」


「うむ、お前に頼むのが一番合理的だと私も思う。頼めるか?」


「どのみち読心魔法のある僕が行くことは決まってたみたいなものだし、全然構わないよ」


 グリフトの尋問役がライン王子に決定したところで、ここまでずっと黙っていたハルが小さく挙手する。


「じゃあ同じ理由で私もそっちに行きますね」


 ハル以外の5人の一斉に集まる。

 しかし、ここに呼ばれたということはそういうことなのだろう。それに先程言っていた万が一敵がこの王城に転移してきた場合、ハルはあまり戦力にはならないと思われる。クロスボウは一応持って来ているとはいえ、あの武装獣人兵達に右手首の魔道具でしか魔法が使えなくなった本来のハルでは太刀打ちできないだろう。


「うーん、何も言い出さなかったらそのまま帰ってもらおうとも思ってたんだけど、今は正直現状を知っているハルちゃんが手伝ってくれるのはありがたくもあるんだよね……ただ、さっきも言ったけど、地下牢は魔法が一切使えないようになってる。君の魔眼も、そのブレスレットも効果を成さない。それでも大丈夫かい?」


「はい……ん? 魔法が使えないのにライン王子の読心魔法は使えるんですか?」


 全ての魔法が使えないはずなのにライン王子が地下牢で読心魔法を使おうとしていることに気が付いた。


「昔は全ての魔法が使えなかったんだけどね。数年前にようやく、結界の内容を僕の読心魔法だけすり抜けられるように書き換えることに成功したんだよ」


「もちろん私がね!」


 シュガレットがスゴいだろと胸を張る。よく分からないがどうやら凄いことらしい。プログラムを書き換えたみたいなものだろうか。


 何はともあれ、これでとりあえずはグリフトから情報を引き出すために地下牢へ向かう組が決まった。この中でグリフトと少しだが関わりがあるのはハルなので、この人選は決して間違ってはいないだろう。それに、ハルには少しだけ気になっていることがあった。それを確かめるためにはグリフトと直接話す必要がある。そして、これはハルの勘なのだが、恐らく向こうもそれを望んでいる、そんな気がしていた。


 国王からは準備が整い次第すぐにでも向かってくれとの命が下ったので、ハルとライン王子はランタンや地図などを用意し、地下牢へと向かった。





        ×  ×  ×





 そして現在。


「なるほど……これが脱出不可能の大地下牢か。確かにこれは無理だわ」


 絶賛迷子中。

 

「おかしい。私もライン王子もランタンを持ってて、ずっとライン王子の明かりを頼りに後ろを付いて歩いていたはずなのにはぐれた。これが幻覚魔法の力か」


 ルルとリリィの幻覚魔法に騙されていた人やモンスター達の気持ちが今分かった気がした。不可避の魔法のなかでは最強レベルの魔法だと思う。


「さて、一応地図も預かってはいるものの、現在地が分からない時点で無意味だしなー。一度戻ろうにもさっきまで幻覚魔法に掛かっていたわけで来た道も不明。こんなことならライン王子が提案してくれた手を繋いで行くという方法を恥ずかしがらずに取れば良かった」


 地下牢に向かう直前、中には幻覚魔法やトラップが多々仕掛けられているから手を繋いで行くかと問われたのだが、流石に年頃の男女が真っ暗な地下で2人っきりで手を繋ぐのは如何なものかと思ったのが運の尽き。ライン王子は幻覚魔法やトラップの場所を全て把握しているため、善意で提案してくれたというのに完全にやらかした。手じゃなくても服の裾を掴んだりとやり様はいくらでもあったはずなのに。


「いや、そもそもライン王子がもっと強引に手を握ってくれれば良かったんだ。すぐ後ろを付いていくから大丈夫という私の言葉を鵜呑みにした王子の完全なる采配ミスだよ。うん、私は悪くない」


 清々しいまでの責任転嫁を誰に言うでもなく1人で口にすることによって自身を納得させたハルは、地下牢と言っているのだからとにかく下に向かえばいいだろうという安直な考えの基、とりあえず下に向かって階段を下りる。


 その1歩を踏み出した瞬間、階段だったはずの地面がぱっくりと割れ、そのまま滑り台の要領で滑り落ちていく。


「え」


 落ちていく最中、何故かライン王子の言葉を思い出した。



『中には幻覚魔法やトラップが多々仕掛けてあるから──』



 ここは超重大な犯罪を犯した大罪人が閉じ込められる地下牢。そんな大罪人が脱出しようと逃げ出した先に作られたトラップ。


(あ、死んだ……)


 死刑は免れない大罪人に仕掛けるトラップが、普通のトラップであるはずがない。


 死を覚悟したハルはドンドンスピードが上がっていく岩の滑り台を滑り落ちていき、微かな光が見えたと思った瞬間、ポンッと空中に投げ出された。


 勢いそのままにお尻から落下したハルは、お尻に走る激痛に悶えながら──



 両手には手錠、足には足枷を付けられてベッドに腰掛けているグリフトと同じ牢屋の中でバッチリと目があった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 牢屋に繋がってたんかい笑
2020/02/05 19:32 退会済み
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