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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第6章 選択
149/186

9.大陸会談


 19名の各国の代表及びその従者──総計38名からの視線を一斉に浴びて、流石のハルもやや気後れする。


「……アインツベルク、従者は1人までという約束だったはずだが?」


 どこかの国の強面な代表が、アインツベルク王国国王ダルキ=アインツベルクに鋭い視線を向ける。


「彼女は従者ではない。今回の会談のスペシャルゲストだ。今回のビスト帝国襲撃の際にサランド皇国に居合わせ、20名の獣人兵を倒した咲場 春殿だ」


 ダルキ国王に紹介され、ハルは大陸20ヵ国の首脳達が集まる会談にスペシャルゲストとして招かれていた。


(なるほど……このおっさん、中々にエグいハードルをぶん投げてきたものだなー)


 背後から要らんことを言うなという視線でその背中を睨み付けながらも、一応各国の長達に軽く会釈をするハル。


 各国の長達は大きなドーナツ型の丸テーブルを囲み、それぞれの長の後ろには1名だけ従者がついている。ちなみにダルキ国王の後ろにはライン王子と、特例でハルが立っている状態だ。

 他の護衛達は隣の部屋で控えており、そこにロイドやカナタもいるらしい。


「ほう、まだ年端もいかぬ少女だというのに大したものだ。とはいえ、実力に年齢は関係ないか。アインツベルク最強と謳われている2人は確かその者よりもさらに年下だったはず」


 どこの国の長かは知らないが、どうやらロイドとカナタは他国にすら知られている有名人らしい。そんな2人を師匠にできている自分はいったい、と考えていると、ダルキ国王の後ろに控えていたライン王子がチャンスだとばかりに目を光らせる。


「ちなみに、彼女はそのロイドの弟子だったりもします。彼女と行動を共にしている少年もカナタが弟子にした程です」


 いや、その情報いる? と隣のライン王子を肘で軽く小突くと、これまた他の国の長が反応を見せた。


「なんと、その2人は弟子を取らないと聞いたことがあったのだが、その2人が認めたとなれば……なるほど、この度の健闘も納得だ」


 あの2人の弟子というだけで、この反応。どうやらロイドとカナタは他国からも一目置かれるスーパー冒険者らしい。ライン王子はそれを見越して、ハルの発言力を強めるためのアシストをしてくれたようだ。


 アインツベルクは大陸の中でも最大級の国土を持つ国で、大陸やや東に位置を構えているもののアインツベルクが会談の開催国に選ばれたのも大陸の中でそれなりの権力を持っているからなのだろう。だが発言力の大きな国はそれだけ他国に自国の内情を知られるリスクもある。ま、有名税みたいなものだ。


「まあよい、さっさと会談を始めるぞ」


 強面の代表がダルキ国王に早く会談を始めるように促す。しかし、当のダルキ国王は何かを思い出したかのようにちょっと待ったと声を上げる。


「本来ならもう1ヵ国、シエン国が参加する予定だったんだが、急遽参加できないという一報が入った。何か知っている者はいないか?」


 そもそもシエン国という国を知らないハルはあまり興味がない話題だと何となく聞き流していたのだが、強面の代表が腕を組みながら厳かに呟く。


「シエンなら死んだ」


 ざわっと部屋の空気が変わる。寿命か病気かは知らないが、どうやらこの会談に参加する予定だったそのもう1ヵ国の長が亡くなったらしい。


「……なに? ついこの間、本人からの手紙が届いたばかりだぞ? この会談にだってシエンが一番初めに乗ってくれたのだ」


「知らん。だが、奴が死んだのは確かだ。うちはシエンと商業関係の同盟を結んでいる。この情報に間違いはない。それも……誰かに殺されたらしい」


 ここでようやく話を聞き流していたハルが反応を見せた。


「殺された!?」


「……ん? ああ、別にシエン国がビスト帝国とやらに攻め込まれた訳ではなく、代表である奴だけが何者かに殺されたらしい」


 その事実にハルは苛立たしげに自分の爪を噛む。

 嫌な予感が当たった。このタイミングでの国の長の殺害。大陸がバタバタしている隙に長の座を狙って、などという内輪揉めなら他国には関係がないので構わないのだろうが、恐らくこれはそういった類いの事件ではないだろう。


 急に黙り込んだハルが気になったのか、この中で恐らく最年長であろうお爺さんの代表が訝しげにハルに視線を向けた。


「……娘。何かあるならはっきりと申せ。中途半端な態度はかえって場を乱す」


「え、あ、ご、ごめんなさい。いやでも、これはあくまでも私の考えでして、確証があるわけでも……」


「構わん、話せ」


 有無を言わさぬお爺さんの眼光にハルは自然と背筋が伸び、緊張した面持ちで警備団のクワシンに話した己の考えを各国の代表の前で発表することに。


「ふむ──、まあその考えは大体どの国でも考えられていた。奴らが中々仕掛けてこないのには、準備以外にも何かしら理由があるのだろうとな。だが、分かっていてもそれを抑え込むのは些か厳しいものがある」


 そうじゃろ? とお爺さんが強面さんに視線を向ける。


「ああ。今更隠すつもりはないが、現に我が国でも貴族の何人かが謎の死を遂げている事件がいくつが挙がっている。それに対し国がどう言おうと、国民が獣人を疑うのは今の状況では無理もないだろう」


 それは強面さんの国だけでなく、他の国でもそういった地位の高い者が何者かによって殺害されるという事件が多発しているらしい。そして遂に、シエン国という国では国のトップが殺害されてしまった。シエン国にいた獣人は何の証拠もないまま容疑者として疑われ、こんな国にはいられないと獣人達の大移動が始まっているようだ。


「つまり、これもお前さんによれば全て相手の思う壺ということかの?」


「……はい。恐らくその大移動を開始している獣人達の向かう先は1つしかないでしょうし、綺麗に無実の罪を着せられて人間に恨みを持った獣人を、ビスト帝国は無事確保できるということです」


「戦闘員の補強。確かに報告にあった不思議な武器を使うのなら、訓練を受けていない一般市民にも戦場に立たせる余地はあるか」


 特にあのロケットランチャーなら遠くから適当に狙って砲撃するだけでも、十分なダメージを与えることができる。


「向こうのあの武器は使用者の魔力を一切使わない強力な兵器です。筒型の大砲の他にも、小型の拳銃という武器も使用していましたし、恐らく戦艦にも似たような大砲が備え付けられていると思われます。正直、これらの兵器にどう対応するかが鍵となってきます。向こうの兵器に匹敵する攻撃魔法を撃つには基本的に詠唱が必要になってきますし、その点向こうはリロードさえしてあればノータイムで発射ができます。向こうの弾切れを狙うにしても、それまでにとてつもない被害が出るでしょうし、どちらにせよ向こうの弾切れよりも先にまず間違いなくこちらの魔力が切れます。例え数で圧倒していたとしても、たった一発で数十人規模を葬れるのだからここまでくると数の有利はないと言ってもいい。むしろ向こうからしてみれば、人が集まっている所の方が狙いやすくて──」


「ハ、ハルちゃん……いったん落ち着こうか」


 隣から肩を揺さぶられてハッと我に返る。

 一同の視線はハルに向いており、しかもその視線には最初よりもより一層強い「何だこいつ?」という色が含まれていた。


 まるでオタクのように早口で捲し立てていたことに気が付いたハルは珍しく顔を紅く染め、おずおずと一歩下がって恥ずかしそうに顔を俯かせた。


 何とも珍しいハルの姿を見ることができたと、後でからかうネタを手に入れたライン王子はそんなハルをフォローするかのように言葉を紡ぐ。


「つまり、我々が一番警戒しなければならないのはやはりその未知の兵器というわけです。そこに獣人の脅威的な身体能力と索敵能力が合わさるのですから、恐らくこちらからの奇襲というのも難しいでしょう」


「うむ、確かに獣人相手に奇襲は不可能じゃろうな。じゃが、わしが気になったのはそこではないのう」


 お爺さんの言葉に同意するように、他の国の長達も一様に頷く。


「……娘。何故お前さんは未知の兵器についてそこまで詳しい? 実際に見たというだけにしては──」


 お爺さんの言葉はそこで遮られる。

 ドーナツ型の丸テーブルの中央に突然現れたローブを被った人影に全員が気を取られたからだ。


 ライン王子が流れるような動きで上着のポケットに忍ばせていたボタンを押す。シュガレットに作ってもらった警報魔道具だ。

 それを押した途端、警報音と共に王城全体に薄紫色の結界が張られる。それを確認した護衛達も隣部屋に繋がる扉から一斉に流れ込んでくる。


 たった数秒の間に完全に袋小路にされたローブを被った人影は、敵意はないと両手を挙げて、頭に被せられていたローブを取る。


 そこにはハルの見知った、いや、今となってはアインツベルク中で知られている顔があった。

 取られたローブの下からは白髪に垂れ下がった犬耳が出てくる。そう、そこにあったのは、現在アインツベルク王国内で指名手配されているグリフトその人であった。




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