激突
しばらくして煙が晴れるとランスに貫かれたドレイクとそのランスを突き出したままのクレイオスがいた。クレイオスに食らいつこうと空中に飛び上がったドレイクの腹にクレイオスのランスが背中ごと貫通したのである。
勝敗はクレイオスを操るヴェルジュに軍配が上がった。
「グッ、ギィ……アア……」
ランスに貫かれたドレイクの掠れた声がまだ息の根が続いていることを仕留めたと思っていたアドヴェンダーたちは驚愕する。
それを把握していたヴェルジュはダメ押しと言わんばかりにランスの柄にある引き鉄を引いて鍔に設置された二門の銃口から弾丸をドレイクの腹にマシンガンのごとく連射する。
「ギィアアアアッ‼」
何度も食らう衝撃にドレイクは体を震わせながら悲鳴を上げる。
ヴェルジュはランスの先端を下に持ち替えつつ地面に突き刺し、トドメを刺そうとクレイオスの左腕を前に出す。すると左腕に装着されたシールドの裏から二本の角のような刃物が飛び出た。
そして、未だに息をするドレイクの頭部に左腕ごと刃物を突き刺し、絶命させる。これでドレイクの討伐は完了した。
ドレイク、そしてヴィハックの大群との戦いを終えたガルヴァス軍は地面に転がっているヴィハックの死体の処理を行っていた。
ヴィハックの死体にはデッドレイウイルスに似た奇妙な細菌が体内に潜伏しており、そのまま放置するとそのままウイルスとなって周囲に影響を及ぼし、人類に襲い掛かることが過去の調査で判明している。
ヴィハックは体内でウイルスを培養させ、息と共にウイルスを拡散させている。それによってウイルスが空気中に漂い、その場所がウイルスによる感染区域となる。ウイルスの感染が終息されないのもそれが要因である。
これをまとめるとするとヴィハックがデッドレイウイルスを撒き散らしているように思えるといってよい。ヴィハックをすべて殲滅できればウイルスもやがて消滅すると繋がるのだ。
しかし、それは大きな勘違いであり、ウイルスが発生する原因は別に(・)あることは少なくとも知る者は少ない。
ヴィハックの排除を行った後はレヴィアントからの救援で運ばれてきたウイルスのワクチンで消毒させ、本国にて調査、および焼却処分を行っている。
どう見ても地道に見える作業なのだが、一気に大量のワクチンを周囲に散布するよりはこれが最も効率の良い策である。
戦闘を終えたアドヴェンダーはシュナイダーに乗ったまま、この場に撒き散らされたウイルスの駆除、ヴィハックの死体を運び出している。
その近くには救援用の車輌が多く駐留しており、白い防護服とガスマスクをつけた人間もいた。彼らはウイルスの駆除を専門とした部隊である。
その部隊の一人が大きなパッドに映るヴェルジュに向かって報告していた。
『この地にあるウイルスの流出は確認されません。すべて駆除されましたようです』
「そうか。ならここはもう用はない。資材を片付けてこの場を撤退するとしよう……と言いたいところだが……」
報告を聞いて内心安堵したヴェルジュ。しかし、その表情は険しく、まだ油断はできないということが分かる。事後処理を終えてレヴィアントに戻ろうとした時、右側にいる彼らとは異なる巨人に目を向けた。
ヴェルジュたちよりも先にヴィハックの排除に動いていたアルティメスだ。彼女に同調するようにこの場にいた者たちもそれに注目する。
アルティメスはヴェルジュがドレイクを倒した後もその場に留まり、地上に降りたまま微動だにせず地平線を確認していた。トーガは新たなヴィハックがこの地にまだ潜伏しているか、遠くからやって来るもしれないと思っているようだ。
その事を察したガルヴァス軍も地平線を見るアルティメスに構わず事後処理に乗り出していた。
その処理を終え、今度はアルティメスに意識を向けた。
「!」
多数の視線に似た気配を感じたトーガは、その場を離れようとせず動こうとしない。目の前にいる相手の対応を窺っているのだ。
ヴェルジュはクレイオスに乗ったままアルティメスに近づくと質問を投げかける。
「率直に言う。貴様は一体、どこから来た? ヴィハックの討伐に手を貸すというのなら我々も邪険にはしないし、咎めるつもりはない。さあ、聞かせてもらおうか!」
「…………」
明らかに目的を探っているヴェルジュの質問に沈黙するトーガ。なるべく相手にせずにこのまま去ろうと彼は思っていたが、一つくらい答えても構わないだろうと正面のパネルにあるスピーカーを外部用に切り替えた。
『……アンタらの邪魔をするつもりはない。だが、自分たちの国がどれだけのことをしでかしたのかを踏まえても信用はできない。それだけだ』
『!』
『貴様っ……! 何たる無礼を!』
ヴェルジュに対する侮辱に似たトーガの言動に、クレイオスの右後ろにいる紫のディルオスに乗るグランディは怒りを浮かべつつ右のレバーを前に倒し、彼が乗るディルオスの脚部にあるスラスターを噴射させ、クレイオスを通り抜ける。
『グランディ! 待て!』
ヴェルジュがグランディに静止を呼びかけるものの彼は耳に貸さず、ディルオスの右手にあるランスを後ろに構えつつ、アルティメスに向けて突撃をかける。
「ウオオオオ‼」
アルティメスに向かってくるディルオスのランス。しかし、トーガは焦りも見せず、ただディルオスの動きに注視する。
ランスが前に突き出されるとトーガは揺らぐようにアルティメスをその場で左に半回転させ、突きごとディルオスを躱した。
「⁉」
まったく手応えを感じなかったグランディはその衝撃を受けたままアルティメスを通り過ぎる。ディルオスの加速によって巻き上げられた砂埃だけがアルティメスの周囲に残っていた。
「何っ⁉ あの突きを躱した⁉」
「⁉ あの動きは……」
ヴェリオットが最小限の動きで攻撃を躱したアルティメスに驚きを見せる中、隣にいたヴェルジュは見切りに近いその動きにどこか見覚えがあった。
(まさか……本当にあいつなのか⁉ だとしたら……)
ヴェルジュは一人の人物を思い浮かべる。
それは彼女が十年前まで共に生きてきた者であり、自分と同じ武の才能というべき片鱗を見せた者。そして|自分と同じ血が流れている(・・・・・・・・・・・・)者だ。
だがその者は十年前に行方が分からず死亡扱いとなっている。
本当ならばこの世に存在しているはずがないのだ。だがもし、その者が今生きて(・・・)いる(・・)としたら?
疑いたくもないその問いをヴェルジュは否定したかった。なぜなら、信じたくなかったのだから。
「ッ! たった一度のマグレなど……!」
一撃を躱されたグランディは標的を取り逃がしたことに舌打ちをし、イラつくように眉を大きく釣り上げる。
即座にディルオスを九十度回転させ、アルティメスに向き直すとグランディはまたランスを構えて、今度は外さないと目標を定めつつスラスターを噴射させて再び突撃をかけた。
まるで角を立てて突進する闘牛を相手にしていたトーガはその猛牛であるディルオスと相対するようにレバーを動かしてアルティメスを正面に向ける。
そして、ディルオスとの距離が狭まるとトーガはアルティメスの左腕を動かし、右半身を前に出した状態でシールドの先端部にある鳥の爪に似せた四本の【ストライク・クロー】を向けたまま突き出した。
「‼」
ディルオスのランスと交錯するように、ストライク・クローはディルオスの頭部へ一直線に突き立てる。
視界がいきなり三つに分かれた銀一色の爪に変わったことにグランディは驚愕する。ランスによる突きとカウンターで合わせるなど並の精神では出来ないからだ。
今更加速を弱めることもできるわけがなく、ランスを手放して地面に転がって避けることも困難である。ディルオスにダメージを負ったとしてもランスの先端がアルティメスに届くことを祈るしかなかった。そして、交錯は一瞬で終わる。
交錯の後、アルティメス後ろにいたディルオスの右手にあるランスには何もなく、頭部そのものがなくなっていた。さらに、その部位から血が噴出するようにスパークを放っている。
「な……何ィ⁉」
グランディと同じカラーリングが施されたディルオスの中でその様を見たヴェリオットは信じられないものを見たのか目を大きく開いている。
また、周囲にいたアドヴェンダーたちもいったい何が起こったのかと目を疑っていた。
一方、アルティメスは傷一つすら見当たらなく、シールドの先端にあるストライク・クローには無くなったはずのディルオスの頭部が深く刺さっていた。
先に届いたのは……アルティメスだった。
ランスが届く前にクローの先端がディルオスの頭部を貫き、首ごと引き剥がしたのだ。
アルティメスは左腕を振り払い、クローに刺さっていたディルオスの頭を剥がすとそのまま地面に転がり落ちる。ボールのように回転し、それが止まるとその頭だったものは大きな傷が目立つ無残なものと化していた。
「こ……こんな、馬鹿なことが……‼」
グランディは自分が乗る機体の頭部にあるメインカメラをやられてモニターがノイズで満たされたコクピットの中でヴェリオットたちと同じく現実を受け入れられないでいた。
グランディはコクピットのモニターを別のカメラによる映像に切り替え、態勢を整えようとすると、
「やめんか! 馬鹿者が‼」
「‼」
ヴェルジュの甲高い声が周囲に轟き、グランディは思わず手を止める。
怒号というべきその声にグランディをはじめとしたこの場にいる者たち全員が過剰に反応し、動きを止めた。
さらにグランディのディルオスのモニターにヴェルジュの顔が映る。その表情に怒りが浮き上がっているのが目に見える。
「冷静になれ! 今ここでやるべきことはこんなくだらないことか⁉」
「も、申し訳ありません! しかし、この者は殿下に対して……」
「それはよい。我々とて、こんな遊戯に構っているわけにはいかないのだ! それとも、貴様はコイツに勝てるとでも思うのか⁉」
「い、いえ……。で、ですが殿下にお手を煩わせるわけには……」
「反論は聞かんぞ」
「!……出過ぎた真似をお許しください……」
怒り心頭のヴェルジュにグランディは反省を表すように口を噤み、ディルオスの右手を下げる。それを聞いていたガルヴァス軍の兵士たちもそれに従い、手を引いた。
『……さすがだな、ヴェルジュ殿下。曲がりにもガルヴァス帝国の皇女というべきか。しかし、こんなところで油を売っていいのか?』
『何?』
『アンタたちとの戦いでヴィハックが向こうから襲ってくるかもしれないということだ。何しろ、アンタたちが奴らを招いて(・・・)いる(・・)ようなものだからな……』
『! それはいったいどういうことだ⁉ 答えろ‼』
『この戦争を終わらせるヒントを与えてやる。それは、アンタらが今まで調査してきたギャリア鉱石の中に答えがある。もっとも、気づいたところで止めることは無理な話だ』
『何だと⁉』
『要するに自分の首を絞めるということだ。でなければアンタはまた(・・)大事な兄妹を失うことになるぞ』
『…………!』
予想だにしない一言を浴びて思わず口を噤んだヴェルジュに忠告と共に意味深なヒントを与えたトーガは、アルティメスの翼を再び展開させ、その場を離れるように上空へ飛んでいく。
黒いカラスの羽ばたきをヴェルジュたちはその場を立ち尽くしたままじっと見ていた。そして、アルティメスは明後日の方向へと羽ばたいていった。
その羽ばたきを見たヴェルジュはふと、美しいと頭に浮かばせる。
巨人が空を飛ぶなど不可解なものであるが、蝶の鱗粉のような光を放出させつつ空を飛ぶ姿はまさに鳥そのものである。
「殿下! あれが向かう先は……!」
「ああ、レヴィアントに向かっている……! どうやら奴は我々の知らない何かを掴んでいるということだろう。お前たち、すぐに帰投するぞ!」
「では、追撃を……」
「放っておけ。とりあえず皇宮に戻ることが最優先だ! いいな!」
「イ、イエス ハイネス!」
ヴェルジュの意外な指示にヴェリオットも頭の中に疑問を抱くが、すぐに理解した。それは主の異変である。
自分たちの軍は先にアルティメスがヴィハックの大半を片付けたおかげで、無傷のまま残りを片付けることができた。
しかし、クレイオスの半端ではないパワーにヴェルジュは耐えることができたのだが、戦闘を終えて少し休めたとはいえ、彼女の体に操縦の際に生じた負担が残っていてもおかしくない。
実際、グランディが勝手にアルティメスを討とうとした時も彼女は静止させようとしていただけである。やはり、まだ痛みが残っているのだろう。
ヴェリオットは今の彼女の姿に言葉を噤んだ。一刻も早く、主を休ませなければと。
『では、皇宮に戻ってしばらくの後、我々がギャリア鉱石について調べておきます』
『……そうか』
『戻る時はまだ安心できませんが、今は辛抱です。殿下』
ようやくヴェルジュの異変に気付いたグランディも、主を奮い立たせるように声をかけた。さっきまでとは明らかに冷静さが表に出ている。やはり、主に対して無礼な言動を許せなかったのだ。
「……よし、これより皇宮まで帰投する! 私に続け!」
『『『『イエス ハイネス‼』』』』
処理を終え、朝日が地平線から現れる中、ガルヴァス軍は首都レヴィアントに帰投した。クレイオスを先頭に、中央に大型の車輌が、左右にはディルオスで固めている。どの方向からもヴィハックに対処するための布陣だ。今のところは襲ってくる気配もなく、順調に進めている。
しかし、先頭で駆け抜けているクレイオスの中にいたヴェルジュはとある不安を抱えていた。
「…………」
ヴェルジュが抱える不安。それは、
(やはり、お前なのか……〝ルーヴェリック〟……)
十年前に失ったはずの大事な義兄妹であった。




